桃太郎4話
桃太郎は鬼ヶ島へと向かう道中に、犬と大猿をお供に加えて旅を続けます。
いよいよ鬼ヶ島へと近づいて来た時、桃太郎達一行は滅ぼされた村を見つけました。
鬼ヶ島から近いこの村は、真っ先に目をつけられて襲われてしまったのでしょう。建っていたであろう家の残骸、生活していたであろう人々の営みの痕跡、その様子はとても生々しいものでした。
桃太郎達は手分けして村の中を見て回りました。何か残された物があれば弔う事が出来ると考えたからです。
しかしどれだけ見て回っても何か見つける事は出来ませんでした。
「桃太郎、そっちはどうだった?」
「駄目だ何も見つからない」
「そうか、俺の方も駄目だったぜ」
大猿は悔しそうに俯きました。しかし桃太郎は大猿の手に何かが握られているのを見つけました。
「大猿それはなんだ?」
「ああこれか?何がなんだか分からない物でな、取り敢えず手にとってみたんだが人が作った物のようにも見えなくて、どうしたものかと思っていたんだ」
大猿は手に持っていた物を桃太郎に見せました。
それは一見すると雉の置物のように見えました。しかし材質はまったく見たことのないものでした。翼をつまんで広げて見ると、本物の雉の羽のように精巧にできていました。
どこまでも精巧にできているのですが、とても人の手で作られた物とは思えませんでした。大猿の抱いた疑問のように桃太郎も同じ感想を抱いて首を捻りました。
「皆さんちょっと来てくれませんか?」
犬の呼ぶ声を聞いて桃太郎と大猿は集まりました。犬が民家の跡地から何かを掘り出したようです。
「何か人の匂いのようなものを嗅ぎつけて掘ってみたのですが、桃太郎さんこれが何か分かりますか?」
桃太郎は犬が掘り当てた物を手に取りました。それは書物でした。土の中に埋められていたのに、紙や文字はにじむことがなく読むことが出来ました。
しかし肝心の書いてある内容がさっぱり分かりませんでした。かろうじて描かれている絵が、大猿が見つけた雉の置物に似ているのは見つける事が出来ました。
「さっぱり検討もつかないけれど、この雉の置物の作り方だろうか?」
「俺は文字が読めないから余計分からないぜ」
「私は少し読めますが、やはり理解は出来ませんね。何なのでしょうか?」
二人と一匹は揃って首を捻りました。結局それが何なのか分からないまま、その日はこの村の跡地で野宿をさせてもらう事にしました。
夜、火の番を大猿と代わる為に桃太郎が起きると、大猿が雉の置物を手に持って何やらかちゃかちゃと動かしていました。
「どうした大猿?」
「おう桃太郎か。それがな、火の番が暇だったからついこいつを手にとっていじっていたらよ、がちゃっと嫌な音がしたんだ。俺は力ばっかりが強いからよ、もし壊しちまったらと思って隈なく見てたんだ」
大猿から雉の置物を受け取った桃太郎は、あらゆる角度から見てみました。
「何処か欠けたりしているようにも見えない、考え過ぎじゃないか?」
「そうならいいんだ。なあ桃太郎、これを作った奴も鬼にやられちまったのかな?」
「きっとそうなんだろうな」
桃太郎の言葉を聞いて大猿は寂しそうに俯きます。
「どこの誰かは分からないけどよ、気の毒だよな。俺はこんな思いを人にさせていたんだな」
「大猿…」
桃太郎は大猿の肩を叩きました。
「償うんだろ?」
大猿は桃太郎の言葉に頷いて答えました。
「ああ、そうだ。俺は今までの自分を償ってもっと強くなるんだ。鬼の奴らだってぶっ飛ばしてやる、こいつを作った人の為にも」
そう言って思わず大猿は手にぐっと力を込めてしまいました。すると手に持っていた雉の置物ががちゃんと大きな音を立てて形を崩してしまいました。
「「わっー!!」」
桃太郎と大猿が思わず大声を上げて、それを聞いた犬も飛び起きました。
壊してしまったかと、二人と一匹がわなわな震えていると、信じられない事に大猿の手の中で雉の置物はかちゃかちゃと音を立てて動き始めました。
皆が呆然とそれを眺めていると、見る見る内に雉の置物は元の形に戻り大猿の手から飛び立ちました。
「今回はえらく長い時間スリープ状態だったなご主人…ってあれ?お前たちは誰だ?」
信じられない事にその雉の置物は飛び、人の言葉を話すではありませんか。桃太郎と大猿は驚き過ぎてバタンと気を失って倒れました。
桃太郎と大猿は目を覚ますと、もうすっかり朝になり太陽が登っていました。
「おはようございますお二人共」
「まったく鳥の顔を見るなり気絶だなんて情けないぜ」
目が覚めた時、犬と雉が仲良さそうに話していました。夢じゃなかったのかと桃太郎達は驚きました。
「あの、君は一体?」
「それについては私が話を聞いておいたのでご説明しますね」
犬は桃太郎達が気を失っている間に雉の話を聞いていてくれました。
雉はこの村に住む一人の青年に作られました。その青年は手先が器用で物作りの力に長けていました。
青年は人々には思いつかない発想で様々な物を作りました。中でも一番よくできていたのはからくり人形でした。
青年は一人でいる事が多い人でしたが、沢山のからくり人形に囲まれて暮らしており寂しくはありませんでした。
しかしそんな幸せな日々も唐突に陰りを見せます。
近くの鬼ヶ島から鬼が現れるようになりました。そして村や城を襲い滅ぼすようになったのです。
青年は故郷の村を守る為に沢山のからくり人形を作り出しました。雉はその中の一つで、空を飛び回り村の周辺を警戒するのが役目でした。
その日も雉はいつも様に村を飛び回っていました。すると鬼ヶ島から鬼が村に押し寄せて来るのを捉えました。
雉はすぐさま青年の元へと戻って危機を知らせました。青年は村人達に鬼が迫っている事を伝えて、逃げるように言いました。
老人や子供、女性を優先して逃がすと、青年は村人が止めるのも聞かずに、からくり人形と共に居座りました。ここで鬼を迎え撃つ腹積もりでした。
雉はその戦いの中で鬼の一撃を受けてそれからの記録が無くなってしまいました。そしてスリープ状態に陥っていた所、大猿が偶々再起動させて目を覚ます事が出来ました。
「と、言うわけでおいらは雉型のからくりって訳だ」
話を聞いても桃太郎と大猿は全く理解出来ませんでした。しかし分かる事は一つあります。
「お前のご主人は戦ったけど負けちまったんだな…」
「まあこの様子を見ればおいらにも分かるよ、皆居なくなっちまったんだなあ」
からくり雉の表情は分かりません、だけどその背は何処か寂しげに見えました。
「おいらはきっと一撃で保護状態になったからそれ以上手をつけられなかったんだろうな、でも他の皆は戦闘用だったからきっと最後まで戦ったんだろう」
「じゃあ君は最後の一体と言う事か」
「そうなるなあ、なあ兄さん達。少し頼み事をしてもいいかい?」
からくり雉は桃太郎達に一つ頼み事をしました。雉の頼み事を桃太郎達は快諾しました。そしてさっそく行動に移ります。
雉が桃太郎達に頼んだのは主人である青年と仲間のからくり達の墓を建てる事でした。遺体も残骸もすでに残されてはいませんでしたが、雉は思い出を墓穴に詰め込んで仲間達を弔いました。
「ありがとう皆、おいらじゃ墓穴掘ったり墓石を建てる事が出来ないからよ」
雉のお礼を聞いて桃太郎達は言いました。
「いいんだ。俺たちの力が役に立ったのなら」
「そうさ、僕達も何か出来ないかと思っていたんだ」
「私は穴掘りが得意です。雉さんの仲間はこれで安らかに眠る事が出来ますよね」
雉はぺこりと頭を下げました。
「恩に着るよ。本当にありがとう」
桃太郎は雉に聞きました。
「これから君はどうするんだい?」
「そうだな、もうおいらの仲間も居なくなっちまった。何かあったおいらを直す人も居ない。壊れるまで空を自由に飛び続けるのもいいけど、よかったら兄さん達についていってもいいかい?」
からくり雉の申し出に桃太郎は言いました。
「危険だぞ」
「百も承知さ。だけどよ、兄さんも仇討ちなんだろ?ならおいらも仇討ちだ。弔い合戦だ。おいらにも情ってもんがあるんだ」
桃太郎は最後の一個となったきび団子を取り出して雉に差し出しました。
「こいつは?」
「お供をしてくれる仲間に渡しているんだ。雉さんは食べられないだろうけど、付いてきてくれるなら受け取ってくれ」
からくり雉は桃太郎からきび団子を受け取ると、腹の辺りの蓋をぱかりと開けてきび団子を仕舞いました。
「確かに受け取ったぜ、桃太郎の兄貴」
こうして桃太郎はからくり人形の雉をお供に加える事になりました。いよいよ目指すは鬼ヶ島、憎き仇の住まう魔城へと向かいます。
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