第2話 3
あたしは寝起きがあんまりよろしくない。
この一年というもの、メイド仕事をしてきたから早起き自体は習慣付いているんだけど、起きてしばらくの間は、ベッドの上でぼんやりとしてしまう。
そんなワケで、今日も目を擦りながらぼーっとしてたんだけど……
不意に小屋の外から大きな音が聞こえて来て、眠気は一気に吹き飛んだ。
慌てて寝間着の上にガウンを羽織って。
あたしはドアを開けて、小屋の外に飛び出る。
小屋の前に、小屋と同じくらいのサイズのコンテナが置かれていた。
そしてその両サイドには……
「……ロボット?」
高さ5メートルくらいの、ずんぐりむっくりな――SDっていうんだっけ?――体型をした、大きな人型ロボットの姿。
全体的にアメフト選手を彷彿させるデザインをしている。
あたしが目を丸くしてロボットを見上げていると、二機もあたしに気付いたのか、手を振ってくれて。
「え、え~と……」
どうして良いかわからず、とりあえずあたしも手を振り返す。
その時、コンテナのこちら側に向いた面の一部が、ドアみたいにスライドして開いて。
「あ、ミナ様。おはようございます~」
今日もきっちりとメイド服を着こなしたネイさんが、スカートを摘みながら挨拶してくれる。
「お、おはようございます。
ネイさん、な、なんですか、これ……」
するとネイさんは親指で背後のコンテナを指さし。
「これはミナ様用にカスタマイズした兵装コンテナ――まあ、ドレッサーと思ってください」
「は、はあ……
じゃあ、このロボットは?」
「ロボット?
ああ、アレはユニバーサルアームと言います。
ご覧の通り、運搬に便利なんでちょっと手伝ってもらったんですがね。
対中型魔物用の闘士兵装のひとつです」
どうやら中に闘士さんが乗っているらしい。
「この国にはないようですが、国によっては古代遺跡なんかから発掘されたユニバーサルアームを『兵騎』と呼んで利用しているトコもあるようです。
――あんたら、ミナ様にご挨拶!」
二体はそろってビシリと胸の前に拳を当てて敬礼。
デフォルメ体型だから、すごく可愛らしく見えて。
「ふふ……」
思わず笑みが溢れてしまう。
「それでですね、ミナ様。
今日はお願いがあるんですよ」
「お願い?」
「ええ、実は今度、諸属領の領主を招いて宴を開くコトになりまして。
ミナ様には、ぜひそれに参加してもらいたいんです~」
ネイさんは両手を胸の前で組み合わせて、擦り寄ってくる。
「う、宴って――」
「パーティーです。美味しいものい~っぱい食べられますよ?」
「で、でも! 偉い人いっぱい来るんでしょ?
ムリムリ! あたしなんか……」
と、尻込むあたしの両手を、ネイさんは掴んでくる。
「自覚ないかもしれませんけど、実はミナ様のお立場はその偉い人達より上なんですよ。
それに、宴には陛下も出席しますよ?
会いたくありませんか?」
「うっ……それは――」
会いたくないと言えばウソになる。
むしろ会いたい。
カイルくんに会って、いろいろと話したい。
黙ったあたしに、ネイさんはにんまりと表情をゆるめて。
「でしょでしょ~?
そんなワケで、今日は衣装合わせをしま~す!」
言うが早いか、彼女はあたしの背後に回り込んで背中を押して、コンテナの中にあたしを招く。
中は――なんとなく、保健室をイメージさせるような造りをしていた。
入り口から見て右手の隅の方に机があって、パーテーションで仕切られている。
左手には着替え用なのか、カーテンで囲まれた一角があって、その周囲にはよくわからないたくさんの器具が並んでいた。
ネイさんと話していて、最近気付いた事なんだけど。
この世界は中世風な――まるでおとぎ話みたいな世界観なのに、ネイさんを含む冥府の闘士さん達が使う用語や道具は、どこかSF映画を思わせるモノばかり。
冥府というのは、ひょっとしたら地球よりも進んだ技術水準を持ってるのかも知れないって、最近、あたしは思うようになっている。
例えば――今、目の前で起きたコトもそうだ。
床に設置された器具のひとつがほのかに発光したかと思うと、像を結んで立体的になって。
気づくと、ふたりの人物がそこに立っていた。
ひとりはすごく色っぽい悩殺ボディを、ピッチピチのシャツとタイトスカートに包み込んだ赤毛のお姉さんで。
お医者さんみたいな白衣を肩がけにしている。
もうひとりは、筋骨隆々な肉体に紫のアフロのお兄さんで。
タンクトップに黒革のパンツというスタイルの彼は、現れるなり厳つい顔に満面の笑みを浮かべてあたしを見据えて。
「――あなたがミナちゃんね!?
記録映像で見せてもらってたけど、ナマでみるとマジで原石じゃな~い!」
そう嬌声をあげて、あたしの手を取って上下に振りたくる。
……お兄さんはオネエさんだったみたい……
「はいはい、ドーラのアネゴ、落ち着いて。
――ミナ様、彼――彼女は装備部の部長で、ドーラのアネゴです。
本名はドーツってーんですけど、そっちで呼ぶとぶっ飛ばされますので注意です」
「――ドーラよ。今日はミナちゃんの衣装を用意する為に呼ばれたの」
「よ、よろしくお願いします」
この手の人と会うのは初めてだったから、あたしはちょっと緊張しながら、なんとかそう返す。
「で、こっちが医療部部長のシャイア先生。
あたしら闘士の健康管理を行ってくれてるお人で、みんなケツ毛の数まで知られてるんもんで、冥府ではカンチョー以上に恐れられてる御仁です」
シャイア先生は、気だるげに――でもそれがすごく様になっててカッコイイ――髪を掻き上げると、あたしと握手してくれた。
「シャイアよ。
ネイのバカはああ言うけど、アタシゃ素直な子には別にナニもしないわ。
闘士ってね、あんな見た目のクセに医者嫌いばっかりでね。
注射ひとつするのにも、ピーピー、ガキみたいに泣き喚くのよ。
だ・か・ら~、言うこと聞かせる為に、時々、良い子になる処置をしてるだけよ」
「は、はあ……」
にこりと笑う美人なシャイア先生の手を握り返しながら、あたしは曖昧に微笑む。
処置の内容は聞いちゃダメな気がした。
「でも、お医者さん?
あたし、何処も悪くないですよ?」
首を傾げて見せると、シャイア先生は呆れたようにため息をついて、ネイさんを見る。
「……なるほど、こりゃ重症だ」
「自覚が無いんだから始末が悪いですよね?
せっかくだから、センセのスペシャルコースでやっちゃってください!」
「え? なに? すぺしゃる? あたしなにされるの!?」
「まあまあ、アタシに任せときゃ、すぐに天国行きさ」
シャイア先生はニヤニヤとそう微笑みながら、スマホみたいな装置を手の上で操作。
床の一角が割れて、ベッドが迫り出してくる。
「ドーラ、やっちまいな!」
「はいはい、ミナちゃん、大人しくしましょうね~」
逃げる暇もなく、あたしはドーラさんに抱え上げられる。
ベッドに寝かされると、シャイア先生は両手をワキワキさせながら歩み寄ってきて。
「……それじゃあ、はじめようかねぇ」
「アッ――――!!」
コンテナにあたしの声が響き渡る。
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