第1話 8

『――は~い、こちら現場のカンチョーですよ~。

 カイルくん、良いタイミングだね。

 状況はほぼ終了だ』


 枠の中に映し出されたアリサが、冥府の闘士達に囲まれながら笑顔でそう告げる。


 場所はリシャール城の玉座の間だ。


 闘士達の向こうには、拘束された騎士団上層部や、ディオスの言いなりになっていた大臣達の姿が見える。


「恩に着るよ、カンチョー」


『いやいや、わたしは本来の流れに修正しただけだからね』


 と、アリサは意味深に笑って、片目をつむる。


「な、な――なにが起きている!?」


 ディオスが、アリサと俺を交互に見ながら戸惑ったように叫ぶ。


「わからねえか? 簒奪だよ。

 ――王位は俺が継ぐ」


「――貴っ様ああぁぁぁぁッ!!」


 以前は恐ろしくて仕方なかったディオスの怒号も、冥府の鍛錬を乗り越えた俺にとっては、もはや子犬が鳴き散らかしてるようなものだ。


 冥府の闘士はマジで頭おかしいし、ケンカっ早いからな。


「ほら、イキってないで、いつもみたいに殴ってこいよ。

 得意だろ? なあ、兄上~」


「赦さんぞ!」


 振るわれた拳も、やはり以前ほど恐ろしくなく――むしろ止まって見えるほどだ。


 身体を反らすだけでかわせたし、脚を引っ掛ける余裕さえあった。


「ぐぅ――っ!?」


 倒れ込むディオスに、俺はせせら笑う。


「受け身も取れんのか、グズめ――だったっけ?」


 言いながら、俺はディオスの腹を蹴った。


 ディオスの身体が宙を飛び、座っている騎士達の上に突っ込む。


「――さあ、騎士ら諸君!」


 俺は彼らを見据えて、低い声で告げる。


「ディオスを捕らえて俺につくか……

 それともディオスについて、このまま滅ぼされるか……

 好きな方を選ぶと良い」


 騎士達はバタバタと立ち上がり。


「――き、貴様ら! な、なにをする!?

 俺は王だぞ!?」


「――黙れ逆賊め! 我らの王はカイル様だ!」


 ディオスを殴りつけながら拘束していく。


 おーおー、見事な手の平返しだ。


 あいつらは信用できないな。


 立場が変われば、すぐまた裏切るだろう。


「……ネイ」


「ハイさ。記録しておきます」


 連中はあとで顔を照会して、地方の僻地に飛ばしてやろう。


 民の苦しみを、その目で見るが良い。


「……本当にカイル殿なのかい?」


「ああ、そうだ。アイン殿」


 事の成り行きを見守っていたアインが、ディオスが捕らえられた段になってようやく動いた、か。


「……君がどうしてそうなったかはともかく、隣国の王太子として、簒奪は認められたものじゃないな」


「ハッ、認めなきゃどうする?」


 俺は知ってんだぜ?


「脳筋のディオスを誑かすのは、さぞかし簡単だっただろうな。

 クレアの為とか言ってディオスに国庫を開かせて、リシャールを弱体化させる腹積もりだったんだろう?」


 そもそもウチの王位争いに、隣国の王太子ごときが口出しとは何様のつもりだ。


 イケメンがなんでも赦されると思うなよ?


「――なっ!? そ、そんなつもりは……」


「つもりがあろうがなかろうが、事実としてリシャールの富はロギルディアに吸い上げられてたんだ。

 良いか?

 ジャルニードの森の侵災は、俺が片付けてやる。

 だからもう、ロギルディアはリシャールに干渉するな」


 俺はヤツに歩み寄って、静かに――けれど、怒気を込めて告げる。


「もし邪魔するなら……国ごと潰すぞ」


 左手で突き放してやると、アインは顔を真っ青にして尻餅ついた。


「――あ、あのっ!」


 そんなアインを避けて、俺の元にやって来たのはクレアだ。


 あー、こいつも居たっけ……面倒臭えな。


 俺はさっさと城に帰って、ミナに思いの丈を伝えたいと言うのに!


「なんだ?」


「カイルさん、って言うんですか? わたしクレアって言います」


 ……コイツ……


 いくら見た目が変わったとはいえ、俺を覚えてねえのか。


 そのクセ、ツラが良くなった途端にコレだ……


 マジで吐き気がするヤツだな。


 鼻にかかった甘い声色で、クレアは俺に歩み寄って。


「あのぉ、侵災調伏するなら、きっとわたしの力が役に立つと思うんですぅ」


「魔物から逃げ出しておいてか?」


「――そ、それはっ! ちょっと初めてで驚いたっていうか……」


 もごもごと言い淀んだクレアは、ふと思いついたように両手を打ち合わせ、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「せ、聖女の力がなければ、魔物は倒せないんですよ!?

 わかってるんですか!?」


「その理屈は俺には通用しない。

 現にさっきの魔物は俺が調伏した」


「で、でも――」


 ……我慢の限界だった。


「あー、うっせえなあっ!

 偽聖女なんて、リシャールにはいらねえんだよ!」


「――なぁっ!?」


 たじろぐクレアを無視して、俺はアインを見据える。


「砦の転送陣は使わせてやる。さっさとこの偽物女を連れてってくれ」


「あ、ああ……」


「――後悔しますよ!?」


 アインに引きずられるようにして下がるクレアは、捨て台詞とばかりにそう叫ぶ。


「クレア、今は引くんだ。きっといつか彼もわかってくれる」


 アインがクレアにそう告げて、まるで訴えるような視線を俺に送ってくるが、俺はあえて無視する。


「……俺の聖女はたったひとりなんだよ」


 折よくムーザが森から出てきて。


「隊長、現場の浄化を完了しました!」


 胸に手を当てて敬礼。


「ご苦労。

 それじゃ俺はミナと一緒に城に帰るから、おまえとネイはディオスを城まで護送だ。

 ……騎士達に睨みを利かせろ」


「了解!」


「――りょ~!」


 ふたりはビシリと敬礼して、騎士達の元へ駆けていく。


「……な、なんか……いろいろな事がありすぎて……」


 振り返れば、ミナは顔を真っ青にしてふらついていた。


「ああ、疲れたな。済まない。

 すぐに帰って休もう」


 俺はミナを再び抱き上げて、優しくそう告げる。


「……もう誰にも君を傷つけさせないから」


 それこそが、俺がリシャールに帰ってきた最大の目的。


 その為にも――まずは国内の掃除からだな……





★――――――――――――――――――――――――――――――――――――★

 ここまでが1話となります~。


 ポンコツボディから勇者ボディに生まれ変わって、ミナの為に頑張るカイル王子と、一生懸命に異世界で生き抜こうとするミナを応援して頂ければ幸いです。


「面白い」「もっとやれ!」と思って頂けましたら、作者の励みになりますので、なにとぞどうか、フォローや★をお願い致します~。

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