第6話 願望

僕は小さい頃から一つのことに没頭するタイプだった。それは、人間関係においても変わらない。

 彼女と出会ってから彼女のことしか考えられなくなった。そして、恋愛したいと初めて思うようになった。

 だが、そんなガキのちっぽけな願望などそううまくはいかないのだ。実はその願望は今でも少しばかり残っている。

 勉強するときも、友達と話しているときも、頭のどこかで彼女のことを想っている。少しキモイかもしれないが、一途な人間にはこれが限界だった。

 そんな”一途“を壊したのが、あの駅に現れた女だ。


 僕は二ヶ月も経たないうちに退院した。外に出てみると、地面には沢山の銀杏が転がっていた。

 季節は僕を待たずに移り変わってしまったと外に出て気づいた。

 そして、退院して初めて学校へと足を運んだ。

 僕には友達なんかいらないと思って門をくぐった。

「おう、久しぶり〜。大丈夫だったか?」

「…」

「おい大丈夫か?」

「…」

「おいなんか言えよ!」

僕は最後まで何も答えなかった。いや答えられなかったの方が正しいのかもしれない。

 別に話したくないわけではない。でも、何かが僕を止めているような気がした。それは懐かしくまた優しく僕を引き止めていた。

 僕はそれに釣られて言葉が出なくなった。

 一つの願望が何年もの間僕にのしかかってくるというのを実感した1日だった。

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