274.エリートとそれ以外
一条さんは水島顧問と同じだ。
守護だったというちっぽけなプライドから、自分の半生を否定されたくないと感じているのだろう。一条さんや水島顧問は自衛隊の一握りのエリートだったからそんなプライドを持ってしまった。
いや、持たされたと言ったほうがいいのかもしれない。
だが、そうでないホルダーのほうが多いのが事実。
同じように古いやり方に固執して認めないだろうか? いや、そうは思わない、絶対に悔しがるはずだ。
なら、一握りのエリートではなく戦う者たちのサポートに徹する立場のもう一人の教官、鍋島さんはどう見たのだろうか?
「鍋島さん、あなたはあれを見てどう思った?」
「私は……クレシェンテの育成方法は有効だと考える。確かに、我々が学んできたことからは、あまりにも逸脱しているうえに危険極まりなく見える」
苦悩の表情でなにより声が振るえている。言っていいのか悩んでいる感じだ。気にするな、言ってしまえ!
「……しかし、実際は戦いには余裕があり、訓練をしている者に対して
「しかしだな!」
一条さん、納得いかないか? しかし、それが事実だ。クレシェンテの人間じゃないそっち側の鍋島さんが客観的に見てそう言っている。
「しかしも案山子もないでしょう。私は客観的事実に基づいて考察しています。私だってサポーターとしての自分を否定されて悔しくないわけではありません。ですが、私が若い頃にこの育成方法に出会っていたら、今とは違う生き方ができていたのかと考えてしまう」
「クッ……」
自衛隊の方針では適合率の低い者は、戦闘員としてではなくサポーターとして割り振られる。戦うチャンスさえ与えられず、サポーターとして以外前線に出ることはほとんどないといっていい。鍋島さんは前線で戦いたかったのかもな。そう考えている自衛隊のホルダーは多いのかもしれない。
「訓練生のデータはすべてくれてやる。それで俺たちの育成方法が間違っていないことがわかるはずだ。改ざんされなければの話だがな」
「するわけないだろう……」
「だといいんだが」
今来ている連中がしなくとも、俺たちのことを気にくわない連中がやるかもしれない。まあ、元データはこちらに残すから問題ないとは思うけどな。それでも、馬鹿なことをする奴はする。
目的地に着く少し前に、全員に昨日のドロップした装備品の分配。余った装備品を川中さんと坂井さんに渡す。お金を払わない代わりに、装備品を渡すことにした。川中さんは後衛、坂井さんは前衛のようだ。
・エンプーサ 六等呪位 冥界の女神ヘカテーにラミア、モルモーと共に仕え、若い男の血をすすり、肉を食らう吸血鬼。
吸血鬼、ヴァンパイアか? ってことはアンデッドなのだろうか? 血を吸うから吸血鬼とも考えられる。
もしかして、聖魔法で一発だったりして?
二人を俺たちのチームに加え、戦いの流れを教える。
「私たちは筋トレをするんですか?」
「そうだ。戦いには参加させない。筋トレもただするのではなく、その動きを理解しどうすれば筋肉が付くかを考え、持てる力すべてを使って筋トレしろ。そうすれば、何度か
「それが終われば石投げですか?」
「それも何度か続ければ投擲スキルを覚える。投擲はTPを使わず近、中距離攻撃ができるし、けん制にも使えるから覚えて損はない」
陸なんか知り合いの金属加工をしている業者に頼んで、棒手裏剣や四方手裏剣を作ってもっているくらいだ。ショップにも売っているが手に馴染まないらしい。ほとんど使い捨てなのにこだわりがあるようだ。
そして、二人には戦わせる気はない。今日、明日はお客様だ。川中さんは七等呪位と二回戦っているが、実戦は経験していない。坂井さんは今日が初めてとなる。まずは慣れてもらう。
撮影機材をセットしてバトルフィールドを展開する。
「「「ヒッ!?」」」
川中さんんと坂井さん以外にも悲鳴が聞こえた。まだ、慣れない奴がいるらしい。一佳……ではなさそうなので、訓練生の千夏か詩織だな。
なので厳選した結果、
お試しの二人を除きまだ身体強化を覚えていないのは、詩織と一佳なので一緒に筋トレをさせる。
ほかのメンバーは瞑想だ。瞑想で覚えるのは気配察知。瞑想というよりは視覚以外の感覚で周りを感じる訓練といったほうがいい。心を落ち着かせることで味覚以外の聴覚、触覚、嗅覚そして第六感で相手を感じる訓練。
これは相手のいる場所を感じるだけでなく、相手の気が向いた方向がわかるというもの。相手の動きが見えるわけではないが、一瞬でも相手の気が向いたほうがわかれば、次の動作の読みに繋がる使えるスキルだ。
このスキルは前衛、後衛関係なく有用なスキルだ。覚えて損はない。
というか、覚えろ。
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