268.恫喝

 今日も狩りは代々木公園。


 駐車場に着いて武器防具の合成と受け渡しをしていたら、見知らぬ男たちが車から降りてきて囲まれる。


 チンピラとはちょっと違う感じだ。俺を監視してた連中がとうとう実力行使に出てきたか?


 その数十五人。


「お前ら、最近俺たちのシマを荒らしてる奴らだな?」


 三嶋幸弘  Lv35 ホルダー3005


 ザコだな。この連中のリーダーみたいだが、何かズレている。


 それより、シマってなんだ?


「君たちは何者だね? 名乗りもせず失礼じゃないかな」


 いいぞ、もっと言ってやれ! 水島顧問。


「俺たちは土屋陰陽会の者だ! てめぇこそ誰だ? クソジジ!」


 土屋陰陽会か。田村と木村のいる組織だな。なんなのだこの謂れのない恫喝は。


 相手がホルダーとわかり水島顧問は困惑の表情。訓練生も驚いている。


 天宮さんが囲まれた時にこっそり撮影機器のスイッチを入れたのを俺は見ていた。目で撮れているか問うとウインクしてきた。男にウインクされても嬉しくないが、なかなかいい仕事をする。


 せっかくだ、こいつらを少し煽ってみるか。


「俺たちはクレシェンテに所属するホルダーと自衛隊に所属するホルダーだ。ここへは依頼を完遂しに来た。何か問題でも?」


「言っただろう! ここは俺たち土屋陰陽会のシマだ! 勝手なことすんじゃねぇよ!」


「俺たちはホルダー管理対策室の正式な依頼を受けてここに来ている。そのうえ、今日一緒に来ているのは自衛隊のホルダー部隊の方だ。あなたたちの行為は土屋陰陽会の総意と捉えるがいいのか?」


「う、うるせい! ここは俺たちのシマだ。よそ者は出ていきやがれ!」


 勝手に仲間を連れてきたって感じだな。土屋陰陽会に対する攻撃へのいい札になりそうだ。


「とはいっても、こちらも依頼で来ている。簡単には引き返せない」


「素直に出ていけば、怪我せず見逃してやる!」


 本気でり合うつもりか? 違うな、ブラフだな。そこまで根性があるようには見えない。


「まさか、本気で殴り合うつもりか? そんなことをしたら、お互いただでは済まないぞ? そこでだ、五対五のランクバトルをしないか?」


「どういう意味だ?」


「こちらからレベル一桁台を三人、レベル二十台を二人出す。そちらはレベル関係なく出してきていい。それで、勝ち数の多いほうが勝利として、主張を通せるというのはどうだ? そういえば、田村と木村は俺に敗れて逃げていったな」


「けっ、田村と木村と一緒にするな! 俺は土屋幸若序列四位だぞ。あいつらと一緒にするな! ……いいだろう。その挑戦受けてやる!」


 馬鹿だな。こいつ、一瞬考えたな。なんでレベル一桁台を三人出すのかと。おそらく俺が勝ちを譲る口実と思ったに違いない。違ったとして、レベル一桁台ならなんとかなるという思惑もあるのだろう。


「瑞葵、麗華、真尋、岳人、千夏が行け。ホルダーランクを上げてこい」


「教官。我々では相手にならないのでは?」


「負けてもいい。対人戦を学んでこい」


 瑞葵と麗華は間違いなく勝つ。残り三人の内一人でも勝てばこちらの勝ち。確かに訓練生では厳しいが、自衛隊として訓練してきた地力と六等呪位の装備で固めているのでなんとかなるだろう。


「それとこいつら変な技を使ってくるから、気を抜くなよ」


「札を使った攻撃ですわね。札が火の雀に変わって攻撃してきましたわ」


「そうなのかい?」


 そういえば、瑞葵は土屋陰陽会とランクバトルしていたな。


「瑞葵と麗華は舐めプしないで瞬殺してこい」


「できるのかな?」


「できる」


「恢斗がそう言うなら頑張ってみよう」


 土屋陰陽会から五人出てきて並んだ。全員、レベル三十台だ。こちらもその正面に五人が並ぶ。


 三嶋の相手をするのは瑞葵のようだ。瞬殺、間違いないな。三嶋、憐れ。


「「「「「リクエスト、ホルダーランクバトル」」」」」


 土屋陰陽会から挑んできた。さあ、みなさん、やっておしまいなさい!


 土屋陰陽会の三人が顔を青くさせて、一人がうつむいている。そして、三嶋は顔面蒼白になり崩れ落ちた。絶望で打ちひしがれたって感じか? ざまぁ。


 あれ? もしかして、全員勝った?


 瑞葵は当然とばかりに俺を見据え、麗華は喜色満面だな。訓練生は勝利して興奮状態といったところか。


「恢斗、ハイランクキラーが上がりましたわ」


「私もだな。恢斗」


 瑞葵と麗華だけではなく訓練生三人も上がったようだ。ホルダーランクが2000以上差があったのだろう。ラッキーだったな。


「勝負はついたようだな。行かせてもらうぞ。どけ」


 周りを囲んでいた唖然とした表情の男たちを尻目に移動する。


「全部、撮れたか?」


「ばっちしよ!」


 ふふふ、これを土屋陰陽会とホルダー管理対策室に送り付けたらどうなるかな? 楽しみだ。


 だが、こいつらは俺を監視していたホルダーではなかった。レベルが低すぎる。マップで黒星になっていたから、もっと高レベルのはずだ。


 こいつらが絡んできたのはたんなる偶然か? それとも、黒星ホルダーに何かしら吹き込まれた結果か?


 わからないな。


 やはり、ホルダー管理対策室の情報待ちだな。


 本当に、いつまでかかっているんだ?


 だから、お役所仕事と言われるんだ。






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