267.前提崩れ

 できると言った俺に羨望の眼差しを向けてくる悠斗だが、俺は男にそんな目で見られても嬉しくない。


 その後も訓練生を交え飲みにケーションで交友を深めていった。


 それと、忘れないうちに全員に、明日教本を読むように指示しておく。管理は月山さんにお願いする。


 さて、明日も普通に大学があるので深酒はできない。鴨葱鍋、鰻の釜めしを堪能したところで歓迎会はお開き。健志が二次会を主張したが、俺は不参加。もちろん大学がある瑞葵、麗華、一佳も不参加。


 それでも日勤組と星野さん、清和さん、椿さん、華澄を除く全員が二次会に参加するようだ。あの店に全員入るのか?


 それよりもだ、また監視されている。四人に増えている。何が目的かわからない以上、こちらから手を出すのは得策ではない。ホルダー管理対策室からも沢木管理官からも何も連絡がない。何やってんだ? 仕方がないので、当面無視でいくしかない。



 部屋に戻って風呂に入りベッドに潜り込む。やはり、部屋が広く感じて落ち着かず、よく眠れない。かりんは爆睡だがな。朝起きると、まだ自分がどこにいるのかわからなくなるときがある。知らない天井だって感じだ。


 大学が終わり事務所に行くと死屍累々の有様。二日酔いの状態でフィットネスクラブに行き、戻ってきてこの状態。聖者の敷布が大活躍だな。


 かりんを放してやると、女性陣の所に走っていき笑顔を振りまき、お菓子ちょ~だいとおねだり。そんなかりんに籠絡された女性陣は嬉々としてお菓子を献上する。かりん、悪女に磨きがかかっている。


「お客様が来ているわよ。風速くん」


 呼んだのは俺だからな。小会議室にいるらしい。


「待たせたな。ん? 一人か?」


「声を掛けましたが、栄家さかいえくんは来ないそうです。ホルダー仲間を見つけたからいいと言われました」


 今日呼んだのはいつか柊と一緒に来た、副業でホルダーをやりたいと言っていた男女二人。


 男のヤンキーくんのほうはホルダーの仲間を見つけたようだ。


 川中美琴かわなかみこと Lv1


「どうして、一緒にやらなかったんだ?」


「前に一度紹介されましたが、怖そうな人たちだったので……」


 大丈夫か? ダークホルダーじゃないだろうな? まあ、俺にはヤンキーくんがどうなろうと知ったこっちゃないからいいけど。


 しかし、参った。当てが外れてしまった。副業の二人を鍛えて、たまに悠斗と一佳と組ませようと思ったのだが……。


「そうか、ヤンキーくんは駄目か……」


「今回呼ばれた理由はなんでしょうか?」


 どうしようか? ごめんなさいして帰らせるのもなぁ。


「二人と組ませたいと思っている者がいてな、ついでに二人のレベル上げもしてやろうかと思ったんだが……」


「本当ですか!」


「だが、前提が崩れた」


「一人……ホルダーの知り合いがいます。その人はホルダーのことは何もわからず、偶然になってしまった人です。明日その人を連れてきますから説明してくれませんか?」


 運が良いのか悪いのか、未登録のホルダーに触れてしまったらしい。アウトサイダーやダークホルダーは意外とこういう人がなるのではないだろうか? まったくわからず、聞く相手もいない。結局。誘惑に負けて闇に落ちる。


「明日の十五時なら空いている」


「ちょっと待ってください」


 スマホでどこかに電話をし始めた。


「来るそうです」


「じゃあ、詳しい話は一緒にする。一応、汚れてもいい服を持ってこい」


 話が付けばその日のうちにレベル上げを始める。レベル差がついてしまうと面倒になる。


 話は終わったので解散。


 ちなみに、川中美琴かわなかみことは自称人形作家とのこと。ぬいぐるみ作りが得意らしい。ならばと、かりんと合わせてデフォルメされたかりんのぬいぐるみの作製を依頼した。


 作製資料にとスマホでパシャパシャ写真を撮っていたが、ほかの女性陣で慣れていたせいか、かりんがおすまししてポーズを取っていたのには苦笑いだ。


 さて、狩りに出発するまでに昨日の整理をしてしまおう。


 魔術師装備と装飾系が少しと死せる戦士たちエインヘリャルが多かったせいで戦士系の武器防具が多数手に入った。


 特殊アイテム

 恢斗

 ・世界樹の種 育つと聖域を作る

 瑞葵

 ・世界樹の種 育つと聖域を作る

 麗華

 ・ラタトスクのぬいぐるみ インターネットに繋がっており、知りたい情報を声で教えてくれるが、たまに嘘をつく。

 訓練生

 ・死せる戦士たちエインヘリャル召喚札×2

 ・クルミクッキー 美肌効果あり


 世界樹の種、聖域を作るというが化生モンスターが入れない場所を作るということか? それと世界樹というととんでもない大きさの大樹になるのか? 下手な場所には植えられないぞ? 要相談案件だな。


 ラタトスクのぬいぐるみ、一見、可愛いリスのぬいぐるみ。インターネットに繋がって情報を教えてくれるのはいいが、嘘を言ったら駄目だろう! 百害あって一利なしだろう! ショップに売ってポイントにしてやる!


 死せる戦士たちエインヘリャル召喚札は訓練生にやる。クルミクッキーは事務所女性陣に献上だな。


 水島顧問と一条さんから情報収集。


「世界樹の種って知っているか?」


「知っている。育つと聖域を作る木になる」


「まさか!? ドロップしたのか!」


「した。二つな」


「「……」」


 俺が考えたとおり、育つと周囲に化生モンスターが寄ってこなくなるらしい。結界石の植物版ってところか。ただ育つまでが大変なのだそうだ。毎日、綺麗な水をやり、そしてTPも与えないと駄目みたいだ。


 かりんみたいだな。


 日本に現在二本育った世界樹があるらしいが、場所は秘匿されているそうだ。間違って切られてもしたら大変だからだな。


 じゃあ、鉢植えを買ってくるか。中央テーブルの上に置いておけばいいだろう。水はミネラルウォーターでいいか? 二つあるから、軟水と硬水で分けてやってみるか。


 TPは事務所に来た全員が少しずつ与えるでいいだろう。余っていたら帰りにも与えてもらおう。


 大きく育てよ~。



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