261.洗脳ではなく意識改革

「君はまだ若い。我々は長年、化生モンスターと戦ってきた。だから、その恐ろしさを身をもって知っている。君から見たらたかが六等呪位かもしれない。しかし、その六等呪位で命を落としている者が多くいることも理解してほしい。七等呪位でさえ一流のホルダーになるための登竜門なのだから」


 水島顧問の言っていることは理解できるが、結局今までのホルダーの育て方が間違っているから弱いホルダーが多くいるってことだろう?


「理解はできる。しかしだ、ここで鍛えられた者たちはそんな七等呪位如きに後れを取るようなことない。今の二軍、三軍を見ろ。七等呪位はもう格下、もうすぐ六等呪位に手が届くぞ。それは、油断や自惚れからくるものじゃない。確固たる実力を持っているからだ」


「……」


「そろそろ、認めたらどうだ? 水島顧問」


「……」


 認められない。いや、認めたくないんだろうな。自分の半生が否定されるということだからな。


 だが、ここで流れを変えなければ、この先も弱いホルダーを量産され続け最悪日本が滅びる。


 その話は今はいいか。それよりだ、まだ納得のいかない顔をしている一条さんに止めを刺すか。


「一条さん。あんた忘れているんじゃないのか?」


「何がだ?」


「自分が俺にられた時のことだよ」


「――ッ!?」


「俺は本気など出していないぞ? その身でもう一度味わうか? 俺の本気を」


「……」


 顔面蒼白になっている。もしかして、トラウマになってたりして。


「自衛隊を含め、そのほか組織とクレシェンテの大きな違いは一つ。低レベル時に温い戦いはさせないことだ。低レベル時にどれだけ追い込むかで、その後の強さが変わってくる」


「我々が温いだと?」


「実際、そうだろう? この程度の訓練で危険と騒いでいるんだ。本当に命を懸けてこの国を守りたいと思っているのか? 俺には自衛隊のやり方は中途半端にしか見えない」


 ホルダーとなって命を懸けると誓約書にサインしているんだ。自衛隊のエリート部隊並みの訓練を行うべきだと思う。そのくらい追い込んでやれば、もっと使えるホルダーが増えていたことだろう。


「明日から少しの間、教官二人は二軍と三軍の狩りを見に行け。低レベル時に散々追い込まれ、そしてそれを乗り越えた者たちがどれほど強くなっているか。データではなく、自分の目で確かめてこい」


「「……」」


 二軍、三軍はちょっと、いやだいぶ抜けているところがあるから少々不安ではある。まあ、これといった問題を起こしていないから大丈夫だと信じたい。信じていいよな?


「今、見て、聞いてわかったと思うが、訓練生はレベル1分を無駄にしている状態だ。それは、うちの二軍、三軍から一歩出遅れていることを意味する。これはもう覆すことができない損失だ」


「「「「「……」」」」」


 もう二度と取り返せないレベル1。たかがレベル1、されどレベル1。レベル1で済んでるお前たちは、まだ恵まれていることを理解してほしいものだ。


「だが、ここで二か月鍛え自衛隊に戻れば、自衛隊のほかのチームとは圧倒的な差が出ると約束しよう。どうする? 続けるか? それとも尻尾を巻いて逃げ帰るか? 今ここで決めろ」


「ご教授よろしくお願いします」


「や、やります!」


「やらせてください!」


「続けさせてください!」


「わ、私も続けたいです!」


 将来のビジョンがはっきりと見え、目の色が変わったな。こうしてデータと理論で説き伏せれば、馬鹿でもない限り理解できる。


 理解できない、教官二人と水島顧問がアホなのだ。


 しかしだ、自分で言っていてなんだが、悪の親玉が若者を洗脳して悪の道に引きずり込んでいる感が半端ないんだが……。いや違う、これは意識改革なのだ。断じて洗脳ではない!


「風速くんは、新興宗教の教祖になれるんじゃないかねぇ」


 うるさいぞ、外野。


「訓練生はやる気になったぞ? あんたたちはずっと過去を引きずって、目を曇らせたままでいる気か? なんのためにここに来たのか、今一度考えるんだな。訓練生のドロップ品は一旦すべて回収する。ステ値をこの紙に書いたら解散だ」


 訓練生組は一旦これでいいだろう。


「さて、早乙女さん。あなたはどうする?」


「なあ、風速くん。俺も戦いたいんだが!」


「今宮さんには才能がない。残念!」


「ひ、酷い……」


 サポートで我慢してくれ。サポート要員が足りなくて困ったから募集していたのだから。


「……私はどうです?」


 そうきたか……勘弁してほしい。


「適合率は高くないがなれる」


「まじかよ……俺の才能のなさが憎い!」


 黙れ、外野。


「が、なってどうする? 年齢も三十を超えている。結婚もしているよな。クレシェンテの給料は安くないぞ? わざわざ、安定した生活を捨てる気か?」


「戦ってみたいです」


「自殺したいならよそでやってくれ」


「どうすれば、戦わせてくれますか?」


 厄介な人物を押し付けてきたな、神薙ご当主。いや、春塚さんになるのか? 


 正直、難しいなぁ。ホルダーとして育てるのはやぶさかではないのだが、如何せん時間がない。それと、一緒に組ませる新人のホルダーがいない。レベルの高い者と組んで戦ったらハイランクキラーが得られなく、使いものにならないホルダーになってしまう。


「時間がない。仲間がいない。それと、本職にしたいのか?」


「できるならやってみたいです」


 適合率はギリギリ合格だが、やはりネックは年齢だろう。それと、組ませる相手がいないんだよなぁ。


「年内は無理だ。俺の体が空かない。本業にしないなら、戦わせるくらいはさせてやれる」


「本業にしないという意味はなんでですか?」


「今のクレシェンテはキャパオーバーの状態だ。だから、職員の募集をした。二か月後に訓練生は自衛隊に戻るが、その後チームが一つ増える予定になっている。なので、それ以外に割ける余裕がない」


 正直、予定は未定。どうなるのかまだわかっていないってのが正直な話だが、キャパオーバーなのは本当だ。今回、増えた人材でどう変わるかはまだわからない。


 だから、今の時点ではない袖は振れない。





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