254.キングサイズ

『仮想バトルモードに移行します』


 巫女姿だな。手に大麻おおぬさとか大幣おおぬさと呼ばれるお祓いする時の棒を持っている。


「風速くんといったわね。その若さであなたほどの適合率を持った人は見たことはないわ」


 その若さで、か。ということは、過去には俺と同じくらいの適合率の奴がいたということだな。だが、レベルが上がり難くなってから適合率が上がったところで意味ないけどな。


「それで、俺の実力が見たいんだろう? どうする? 普通にり合うか?」


「私はもう、おばあちゃんよ? さすがに若い子と同じようには戦えないわ」


「じゃあ、どうする?」


「これでも、特に守りに関しては結構自信があるのよ」


 ニコリと微笑みながら、シャンと大麻おおぬさを振るってみせる。


「ほう。そこまで言うんだ。相当自信があるんだろうな」


「もちろんよ。この力で私の命を狙うダークホルダーを、何度も撃退しているくらいにわね」


 なるほど、隠れ里はダークホルダーに暗殺を依頼していたわけか。


「私の最大の守りに風速くんの最大の力がどこまで通用するか試してみない?」


「いいだろう」


 受けて立とうではないか。


 椿さんが何を考え俺の力を見たいのか知らないが、もしマウントを取りたいというならお生憎様。俺は適合率に胡坐をかいているような、その辺の雑魚とは違うぞ。


 椿さんの体が白い光に包まれ、周りに透明な円柱がいくつも現れる。それだけではなく、注連縄しめなわが張られた大岩が椿さんの前に現れる。


 興味深い。守りが得意と言うだけのことはあるのだろう。


「いいわよ」


 防御に絶対の自信を持っているのだろう。まったく気負いがない。


 だがな、防御? それがどうした。その防御ごと斬り裂いてやる。


「そうか、ならば逝け」


 太刀・霧獣に炎属性を持たせ、小太刀・威霙に水属性を持たせる。


 身体強化、並列思考、直撃、秘剣ソリッドスラッシュW!


 紅と蒼の線が十字に走り、世界が四分割される


『YOU WIN』


「えっ!? 嘘……」


 仮想空間から会議室に戻り、信じられないという顔をした椿さんが目の前にいる。


 しかし、ランクが俺より下なのでアイテムもポイントもしょぼいな。


「人を試すのはいいが、見誤れば死ぬぞ」


「風速くんはレベル30よね……?」


 少し、震えた声で聞いてくる。


「だからどうした。俺の適合率を見たんだろう? それが結果だ」


「……」


 瑞葵と麗華はやれやれって顔をしているな。一佳はわけわかめ? って感じだ。


 今、放てる最大の攻撃だった。訓練ルームでアプサラス師匠相手に何度も訓練した。この先もまだ攻撃力を上げる方法を考えてはいるのだが、如何せんTPが足りない。


 ソリッドスラッシュはTP999が必要なので、並列思考で同時撃ちをするとTPも二倍になる。なので、TPが足りず次に繋げる技が出せない。


 まだまだ、強くなれるのわかっているだけに、もどかしい。


「後は任せた」


 あとは三人に任せる。俺は口出ししない約束だからな。それに上下付けは終わった。ホルダーの先達ではあるが、クレシェンテ、そしてホルダーとして俺が上位者であると理解させることができただけで十分だ。


 もうすることもないので、月山さんの所に戻る。


「どう?」


「瑞葵と麗華は納得しているようだから、いいんじゃないですか」


「そう、ご当主からの推薦だから身元は確実よ。あとは相性だけだったから」


 しかし、神薙ご当主もよくあんな人材を見つけてきたな。さすが、政財界や裏の世界に顔が利くだけのことはある。


「それと蒼羽さんのことを調べさせてもらったけど、彼女凄い経歴の持ち主のようね。普通に雪乃家グループでも勧誘していたみたい。クレシェンテに所属するって言ったら悔しがっていたわよ」


 さすがマッドサイエンティストだな。引手あまたって本当だったんだな。


「学祭のバックアップの件は全面的に協力してくれるそうよ。代わりに、系列職員として少し貸せって言ってきているわ」


「本人もそれを望んでいるようなのでいいんじゃないですか? こちらに支障が出なければ自由にしてもらって構いませんよ」


 ホルダーのレベルを上げれば疲れ難くなる。フィットネスクラブに通わせれば体力もついて健康的になるだろう。そうなれば、少々の無理は利くようになる。俺の夏休みみたいに……。


 椿さんが副顧問に就任した場合、水島顧問のときのように最初は資料整理を行ってもらうことになる。その間に一佳のレベル上げを行う。錬成もレベルが高くステ値が高いほうがいいらしいからな。


 さて、帰るか。


「明日は十時から家具と家電の搬入があるからね。忘れないでよ? 風速くん」


「あいあい。かりん、帰るぞ~」


「きゅ~」



 日曜の朝、かりんと朝食を食べていたら、約束の時間一時間前に月山さんが押し掛けてきた。


「十時って言ってましたよね?」


「十時から搬入って言ったわよね?」


「「ん?」」


 あー、そういうこと? これから搬入のための準備が始まるわけだ。搬入するのに養生とか必要なのだろう。既にタワマン玄関や廊下、エレベーターの養生が始まっているそうだ。


「で、そちらは?」


「こちらは東雲しののめりえさん。ここの家政婦をお願いしているわ」


東雲しののめりえです。よろしくお願いします。なんでも仰ってください」


 四十台くらいの女性で家政婦というより学校の先生って感じの人だ。月、水、金の日中に来て家事全般を行ってくれる。必要な時はそれ以外の日でも都合が付けば来てくれるらしい。


 食事も作り置きしてくれるそうなので、助かるわー。


 そして、始まる搬入作業。家電で4tトラック一台。家具で10tトラック一台が来ている。どんだけ運び込むつもりだ?


 絨毯、ベッド、机、テーブル、ソファなどが運び込まれ組み立てが始まり、組み立てが終わると家電製品が運び込まれセッティングが始まる。それと同時に、布団や食器なんどの生活用品も運び込まれ、東雲しののめさんがテキパキと片付けていく。


 俺は邪魔になるからとソファに座らされ、かりんをモフっているだけ。


 そうしているとお昼になり、お弁当屋の配達があり昼飯タイムとなる。クレシェンテでよく頼む重役弁当のお弁当屋だ。


 月山さんと東雲しののめさんから多い分をかりんがもらって食べていたのに、作業員さんの所で愛嬌を振りまきちゃっかりとおすそ分けを頂いてのを俺は知っている。なんでこんなに食い意地の張った子に育ったのだろう……。


 午後三時に動作試験が終了し、不用品を回収して作業員さんたちは帰っていった。


 東雲しののめさんのほうはもう少しかかりそうだ。終わらない分は明日以降となる。取りあえず、俺が生活できる分を済ませる。


 それにしてもすべてがでかい。テレビ、冷蔵庫、ベッドまでが特大サイズ。ソファも何人座るんだってくらいある。


 俺の部屋のベッドはキングサイズなんだが……。


「将来、必要になるからいいのよ」


 だそうだ。


 将来って、いつよ?





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