253.副顧問面接

 昼食を食べ終わりまったりしているとインターホンが鳴る。


 最初に来たのは蒼羽先輩、改め一佳いちか。ちゃんとした服装で安心した。


「役に立つかどうかわからないけど、よろしく頼むよ」


 お茶のペットボトルを出してやると、足元にかりんがやって来た。


 こいつ誰~? って顔して首を傾げている。


「な、なんだい! この可愛い生き物は!」


 おそるおそる、かりんの頭を撫でるとデレデレの表情となる。そういえば、かりんとは初めてだな。一佳いちかは可愛いもの好きのようだからこうなるのは当然か。


 そうしていると、再度インターホンが鳴る。来たようだな。


 年の頃は……わからん。ご高齢と聞いていたが髪は真っ白だが、背筋はピンとして素肌は艶やか、着こなしも上品でどこぞのマダムって感じ。


 小会議室に移動する。後から和泉いずみさんが来て、お茶を配り出ていく。


 緑茶かな? 一口飲んでみると旨味と甘さ、そして香りが広がる。これは玉露だな。それも、めっちゃ高い最高級品だ。


「私はこのクレシェンテの所長で雪乃麗花ゆきのれいかです」


神薙瑞葵かんなぎみずきですわ」


蒼羽一佳あおばねいちかだよ」


風速恢斗かぜはやかいとだ」


「椿あずさです。よろしくね」


 人懐っこい笑顔をみせて挨拶してきたが、一瞬違和感を感じた。なんだ?


「さっそくですが、クレシェンテで働いてもいいと聞いていますが、その経緯をお聞かせください」


 元々、錬成を請け負う『隠れ里』と呼ばれる組織に所属していた。椿さんは元々は一般人で、ホルダーの才能があったことから隠れ里の者と結婚し錬成士になった。


 十年ほど前に旦那さんが亡くなり、子どももいなかったことから錬成士を引退。隠れ里は閉鎖的な考えを持つ者が多く、未だに外から来た椿さんをよく思っていない者が多く、五年前に隠れ里から出た。


 この五年は錬成士としては活動していなかったが、そこそこ錬成士として有名だったことから、いろいろな組織から勧誘はされていたが断っていた。


 そんな折に神薙家から声が掛かった。その組織はまだ出来たばかりで、古いしがらみに囚われない若い者が中心となり活動している組織と聞き興味を持った、ということらしい。


「その隠れ里という組織にしがらみや未練はなかったのかな?」


「ありませんね」


「それはどうしてですの?」


「あの組織は私ではなく私の腕が欲しかっただけ。夫というしがらみがなくなった以上、あそこに留まる意味はなかったのよ」


 相当、閉鎖的な場所だったようだな。隠れ里というのは錬成という特殊な技能、技術を有して、ホルダー界ではそれなりの力を持った組織のようだ。ある意味、血統主義的な考えがあるのだろう。


 だが、外から入ってきた人間とはいえ、優秀な人材を外には出したくはなかったんじゃないか?


「それほどの腕を持った者を簡単に手放すとは思いませんわ」


「そうね。普通なら簡単に抜け出せるものではないわよ。本来なら、ホルダーを奪われるか破棄されるでしょう」


 椿あずさ Lv135 ホルダー1957


「見たようね?」


 鑑定したのが気づかれた? 


「見た。Lv135 ホルダー1957」


「「!?」」


 瑞葵と麗華はそのレベルの高さに驚いている。水島顧問が引退した時のレベルより上だからな。ホルダーランクが思ったより低いのは狩りを専門にやっていないせいか?


「これでも私強いのよ?」


「その力で跳ね除けたということですの?」


化生モンスターと戦うことを生業にしている人と比べればたいした力はないけど、錬成士の中での戦闘力なら五本の指に入るのじゃないかしら?」


 ご高齢というくらいだから六十は過ぎているだろう。そのくらいまで現役を続ければそのくらいのレベルにはなるのかもな。


 一度、手合わせをお願いしたいところだ。


「その力を含め技術、知識をクレシェンテのために使っていただけると思ってもよろしいのかな?」


「ええ、死ぬ前に私の技術、知識を誰かに残したいと思っていたの。子どもがいればその子に残せたのだけど。これが最後の機会だと思っているの。どうかしら?」


わたくしはいいと思いますわ。誰の枷も付いていないこの方なら」


「そうだな。椿さんの思いは本物だろう。私もいいと思っている」


 なら、いいんじゃね? そもそも、神薙ご当主からの紹介だろう? 裏もすべて知ったうえでの紹介だろうし。


「私のお弟子さんになるのはあなたかしら?」


「そうだね。僕が錬成を担当することになると聞いているよ」


「まだ、ホルダーになったばかりのようね。それでその適合率、将来有望だわ」


 鑑定持ちか? さっきの違和感はこれだったのか? それに適合率が見えている? そうか、プチが取れると適合率も見えるようになるのかもな。


「僕からも一つ質問をしていいかな?」


「どうぞ」


「技術と知識を残したいと言っていたけど、どこまで開示してくれるのかな?」


「すべてよ」


 本気か? 水島顧問と違って椿さんは紐付きじゃないとしても、そこまでする義理はないはず。


「あなたの人生そのものである技術、知識を、血の繋がりもない私たちにすべてを教えると?」


「教えるわ。そんなおかしいって顔してるわね。……意趣返しなの。夫という呪縛で私をずっと縛り続けてた『隠れ里』へのね」


 ある意味、復讐か……。


『隠れ里』はその技術、知識からホルダー界では結構な権力持ち、下手をすれば四大組織より権力を持っている。そして、四大組織とはズブズブの関係。だから、そんな腐れ切った関係がないクレシェンテに来て、すべての技術、知識を授けることにしたってわけだ。


「事情は理解したよ。僕もあなたの受け入れを賛成するよ」


「ありがとう。それで、お兄さんはどうなのかしら? 私は合格なのかしら?」


「今回の件に俺は口出しをしない約束になっている。瑞葵と麗華、一佳が認めるならいいんじゃないか?」


「でも、あなたが本当のこの組織のトップなのでしょう? それでいいの? リクエスト、ホルダーランクバトル」


『ホルダー1957よりランク戦の要請がありました。受けますか?』


 ほう。クレシェンテに所属するうえで、トップの実力を知りたいってことか? 


 いいだろう。見せてやろう。


 クレシェンテトップの実力を!






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