248.帰郷

 こちらからは断ることのできない人材。とても厄介だ。


「いつから来る予定ですか?」


「十月からよ」


 自衛隊の訓練生と一緒かよ。一気に人が増えるな。十月っていっても、もうすぐだぞ? 改築は間に合うのか?


「間に合うんですか?」


「間に合わせるわ」


 金の力の本領発揮だな。上の階はもう今日から工事が始まっている。二十四時間体制の突貫工事だ。この階もそのうち始まるのだろう。


 仕方ない。今月残りは俺はサポートに徹し狩りは休もう。瑞葵と麗華は三軍と一緒に行動だな。近場で各々七等呪位を狩ってもらえばいい。


 土、日を休むとして十日間ある。この十日間で俺とのレベル差がだいぶ縮まるはずだ。



 こうして金曜まで狩りを続け、瑞葵がレベル24、麗華がレベル22となった。ちなみに、瑞葵がレベル24になるのに七等呪位を二体狩っている。やはり、このくらいのレベルから、七等呪位一体ではレベルが上がらなくなるようだ。


「土、日は休みな」


「「「「「うぇ~い!」」」」」


「フィットネスクラブに行って筋トレするのは自由だからな。というか、行け」


 ブーイングが上がる。タダで使えるんだ使ったほうが得だと思うのだが。ホルダーは体が資本だからな。


「恢斗は実家に帰るんだったね」


「宮城でしたわね」


「新幹線で二時間ちょいだから日帰りでもいいんだが、夏休みに帰ってないからな一泊してくる」


 話を詰めないといけないこともある。友人たちと会う時間も欲しいし、お土産を買う時間も作らないといけない。日帰りではきつい、一泊するのがベスト。


 翌日、朝食を食べて家族へのお土産を東京駅近辺で買いあさり、新幹線に飛び乗る。お土産は自分が食べたいと思うものをチョイス。定番の東京のお土産~ってものは少ししか買っていない。近所に配る分と父の会社に持っていく分くらい。


 新幹線の中は夏休みと違ってガラガラ。自由席だが隣に座ろうとする人は皆無。かりんを窓側の席に乗せ自由にさせる。出発後の車内販売で買うアイスはマストアイテムだ。あれは新幹線に乗るうえで絶対に食べるべき物だと思う。


 ただ、カチカチ過ぎて柔らかくなるまで待つのが苦行だ。


 仙台駅に着いてペデストリアンデッキに出た。快晴だ。東京ほどじゃないがまだ暑い。だが、俺にはミニ雪だるまがあるので問題ない!


 腹が減った。ちょうど昼時だし何か食って行こう。


 構内に戻り立ち食い蕎麦屋に行く。ここは唐揚げの載った蕎麦が有名な店。立ち食いそばだけあって値段も安い。かりんの恨めしそうな顔を横目に完食。


 地下鉄に乗るために移動開始。仙台駅は迷宮と呼ばれるほど連絡通路がごちゃごちゃしている。油断していると全然違う所に出てしまう。なんとか地下鉄に乗り目的地の泉中央に着いた。


 かりんがお腹空いた~とうるさいので、駅近くの牛丼屋で特盛をテイクアウト。のんびりと歩いて実家のマンションに向かう。


「ただいま」


「お帰りなさ~い。お兄ちゃん」


「きゅ~」


「ん? なにか聞こえたような?」


 五月花めいかのお出迎えだ。


 リビングには父と母がいた。息子が久しぶりに帰って来たというに、無視かい!


「ただいま」


「なんだ、恢斗か」


「そういえば、今日だったわね」


 おいおい、って感じだな……。まあ、うちの家族らしくていいけど。


 かりんを解放すると、五月花めいかの足元に行って見上げて一鳴き。


「きゅ~」


「えっ、えっ、えぇー! 狐が現れたよ! お兄ちゃん!」


「かりんだ」


「ペットか?」


「あらあら、可愛いわね。かりんちゃん、こっちおいで」


 我が親ながらなんとも動じないその姿、凄ぇな。


 母にモフモフされているかりんに牛丼特盛を出してやると、ガツガツ食べ始める。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。この子どこから出てきたの? 最初、いなかったよね?」


「まあ、その話は後だな」


 まずは、お土産を出そう。いっぱい買ってきたから消費するのも大変だと思うけど。


「ちょ、ちょっと、なんなのこの量は! それより、どこから出てきたぁぁぁ!」


「大量だな。ご近所に配るか」


「あらあら、これ食べてみたかったのよねぇ」


 まったく動じない両親。一人慌てる妹。妹の反応が正しいはずなのだが、俺の認識がおかしいのか?


 マイフェイバリットスイーツの笹包カステラと同じお店のどら焼きを食べ、お茶を飲みつつ話を始める。もちろん、ホルダーに関して斯々然々と。


「そんな世界があるんだな~」


「日本も大変なのねぇ~」


「お兄ちゃんが正義のヒーロー……」


 何度も言うがうちの親、まじ凄ぇな……。


「この通帳に二千万入っている。自由に使ってくれていい。税金関係は税理士の父さんのほうが詳しいだろうから任せる。それと俺を扶養家族から外してくれ」


 ヤバい、五月花めいかの目が¥になっている。


五月花めいかの大学の金も出す。だから、五月花めいかの大学進学を認めてほしい。今いる部屋を引き払って新しい部屋を借りるつもりでいる。進学したら、その部屋に五月花めいかも住めばいい」


「いいんじゃないか? なあ、母さん」


「そうねぇ~。恢斗がちゃんと面倒見るならいいんじゃない?」


 五月花めいかは娘じゃなくてペット枠か?


「だそうだ。落ちるなよ。五月花めいか


「余裕でしょう!」


 そう、言い切れるお前も凄いよ……。


花音かのんちゃんと未来みくちゃんも同じ大学に行こうって話をしているんだ! 大学に通うなら電車よりバイクのほうがいいなぁ~。チラッチラッ」


「そういうのは父さんたちに相談しろ。バイクくらいなら合格祝いに買ってやらないでもない」


「お父さ~ん」


 五月花めいかの幼馴染二人の家はお金持ちだから、大学に受かりさえすれば問題ないだろう。あの二人もホルダー候補だからちょうどいい。


「なあ、恢斗。私も正義の味方になれるのか?」


「あらあら、母さんも興味あるわ~」


 どうなんだろう? 


 なれるとして、年齢的に無理がある。


 まあ、見るだけならタダだし鑑定してみるか。






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