247.錬金術

 取りあえず、魔法で興味は引けた。


 だが、俺はこの蒼羽先輩を戦闘員として迎い入れたいわけではない。だが、雁字搦めにして囲い込む必要がある。


「その素質は蒼羽先輩にはある。なりたいか?」


「僕が魔法使い……。だが、魔法使いになってどうするんだ?」


 さすがマッドサイエンティスト、リアリストな考え方だ。一筋縄ではいかないな。


「この世界には禁忌タブーと言われる領域がある。その一つに、古来よりこの国を化生モンスターから守ってきた存在がある」


「それが君で、雪乃先輩もそうだと?」


 俺と麗華が頷いてみせる。


「それに私も加われと?」


「戦いには加わってもらう。もらうが、それはレベルを上げるためだ。蒼羽先輩には別のことを頼みたい」


「レベルなんてものもあるのか……。まるでゲームだな。それで僕に頼みたいこととは?」


「魔法使いと双璧を成すといっても過言ではない、摩訶不思議な職業がある。西洋ではその職業の者が日本酒のことをエリクサーと呼んでいたらしい」


「錬金術……あるのかい?」


 蒼羽先輩の目の色が変わったな。今の蒼羽先輩の目付きは猛禽類が獲物を見つけた時の目だ。見事、餌に喰いついた。


「錬金術ではなく錬成と呼ばれている。さっきの傷を治したものもその一つといえる」


「ポーションか……。なるほど、魔法使いにならないと、その錬成とやらを行えないってことか。ふむ、魔法使いになるにはどうすればいい?」


化生モンスターと戦う者たちを魔法使いではなくホルダーと呼ぶ。なるのは簡単だが、そこには制約が課される。ホルダーは強力だ。そんな者が何の制約もなしに、一般人と生活できると思うか?」


「無理だね」


 理解が早くて助かる。ホルダーについて簡単に説明する。


「意外と当たり前なことなんだな。正義のヒーローを演じればいいわけか」


「常識的なことだが、ホルダーの能力を悪用しないという自制心を保つことができるか? 生半可な覚悟でホルダーになれば、簡単に悪の坂道を転げ落ちるぞ? その先にあるのは破滅だ。ほかの連中にも言っているがホルダーに裁判なんてない。悪の道に走ったホルダーはダークホルダーと呼ばれ、極秘裏に抹殺される」


 蒼羽先輩がごくりと唾を飲む。俺が冗談で言っていないことを理解したようだ。


「すぐに答えを出せとは言わない。もし、覚悟が決まったら俺か麗華、瑞葵に声を掛けてくれ」


「瑞葵? 神薙のお嬢様かい? まさか……彼女もそうなのか!?」


「最後に……蒼羽先輩、あんた臭いぞ。風呂くらい入れ」


「ブーッ!」


 コーヒーを噴き出すんじゃない、汚いぞ。麗華も顔をしかめているじゃないか。


 蒼羽先輩と別れて麗華と並んで歩いている。


「彼女を本気で誘うつもりかい?」


「適合率191%。人間性はどうあれ惜しい人材だ。クレシェンテで囲わず野放しにすれば、ほかの組織、下手すれば大陸の連中に目を付けられる可能性がある」


「彼女のためだと?」


「別に蒼羽先輩が死のうが生きようが興味はない。が、せっかく見つけた逸材だ。生きるチャンスはくれてやる。それを選ぶかは蒼羽先輩次第だ」


「そうか」


 蒼羽先輩と麗華や瑞葵は合わなそうな気がする。三人とも才女には違いないが、性格というか人間性というか人生観の相違が大きいと思う。


 麗華はまだ用事が残っているそうなので、俺は別れて先にクレシェンテに向かった。


 事務所に着いて月山さんに伝えていないことがあったのを思い出す。


 その前に友人からもらったお土産を中央テーブルに並べる。こうして並べると壮観だ。


「わ~い、お菓子だ~!」


「食っていいっすか? アニキ!」


 好きなだけ食ってくれ。それから、あんまりかりんに食わせるなよ。


「きゅ、きゅ~?」


 ちょうど水島顧問もいたので会議室で話をすることに。


「それでは、その合同討伐にうちから三チーム出すのね?」


「十一月だから自衛隊の訓練生も使えると思うが、どう思う? 水島顧問」


「今までの状況を見れば、一か月丸々訓練に当てれば可能だろう。しかし、日時が完全に決まっていないのだろう? どうなるかわからない現状では参加させない方向で行くのが妥当だろう」


 確かに訓練生が帰ってしまっている可能性があるな。うちの実績になるかと思ったが無理そうかも。


「じゃあ、三チームでいいわね。詳しくは向こうと話をするわ」


 まあ、クレシェンテの大きさの組織で三チームも出せば十分だろう。よく考えてみれば、実績を上げたところでホルダー管理対策室の受けが良くなるだけで、たいしたメリットもないしな。


「それと、サポート人員の件ですがどうにかなりそうですか?」


「二人候補がいるわ。ただし、年齢がねぇ、若いのよ」


「いくつなんですか?」


「一人は二十九歳で独身、もう一人は三十二歳で既婚。身元ははっきりしていて問題ないわ」


 候補者を見つけるのが大変と言っていた割には二人もいるのか。ちなみに遠野さんの紹介してきた人物は家族に問題があり却下された。娘が怪しい宗教にハマっているらしい。


「二十九歳のほうは神薙家のなんとか縁者と呼べる者ね。もう一人のほうは神薙ご当主から昨日斡旋された方よ」


 斡旋?


「春塚って名前に覚えがあるでしょう?」


「まさか、そこからですか?」


「風速くんに借りを返したいそうよ。事務員とサイバー対策要員も送り込んでくることが決まったわ」


 うちの中枢部じゃないか。大丈夫なのか?


「それって、断れないってことじゃないんですか?」


「そうとも言うわね」


 おいおい、本当に大丈夫なのか? 神薙ご当主自身がこの領域に踏み込むなって言ったんだぞ? それを反故にして斡旋してくるとは、神薙ご当主の友人とはいえ、なにか裏があるように勘ぐってしまう。


「サポート人員のほうも断れないってことですよね?」


「そうなるわね。だから、両方雇うつもりよ」


「裏がないか監視するためですか?」


「神薙ご当主のことだから必要ないとは思うけど、用心に越したことはないから」


 はぁ~、面倒くせぇー!





猫(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ猫


猫の日記念】カクヨム文芸部公式自主企画「猫好きに刺さる小説・エッセイ」大募集!~ に参加しますにゃ。


僕が猫になった理由(わけ)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882678402


だいぶ前に書いた短編で自信作ですにゃ。

今回、それを加筆修正しましたにゃ。

よかったら見てくださいにゃ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る