246.人材勧誘

 まじかぁ。マッドサイエンティストだけでは飽き足らずホルダーの才能まで持っているのか……。こいつも、天に二物以上与えられてんのかよ。不公平じゃね?


「な、なんだね? 僕は雪乃先輩と大事な話をしているのだが?」


「恢斗、まさか……」


「そのまさかだ。麗華も見てみろ」


「!?」


 麗華も鑑定したらしく驚いた表情に変わる。


 蒼羽一佳あおばねいちか 適合率191% ホルダー登録可


 瑞葵と麗華の初期適合率を上回る逸材。妹の五月花めいかに次ぐ適合率だ。これは、なんとしても確保しなければならない。


「蒼羽先輩。何があったか知らないが、ここは俺が一肌脱ごうじゃないか。ここではあれだから場所を移そう」


「恢斗! 何を勝手に!」


「う、うむ? いいのか?」


 いつものジャズ喫茶まで引っ張てきて奥の席に着く。ここなら外から見えないし、周りからも見え難いから大丈夫。


 それにしても、蒼羽先輩なんか臭う……。髪はボサボサ、白衣もよれよれで汚れているし、着ている服も安物スエット。そんな格好で大学来ているんかい! って言いたくなる。それ以前に、もしかしてこの人家に帰ってないんじゃないか?


「家に何日帰っていない?」


「ん? 僕のことか? うーん、先週の月曜からかな?」


 一週間かよ! 麗華が嫌そうな顔をして蒼羽先輩から離れ、俺の脇にすすぅっと寄ってくる。気持ちはわかるぞ。


「それで、麗華にしつこく付きまとっていたのはどうしてだ?」


「うむ。今度の学祭で出す催し物に、雪乃製薬に協力してほしいとのお願いをしていたのだよ」


 麗華に本当か目で問うと、嫌そうにだが頷いた。


「なるほど。協力するのはやぶさかではないが、その見返りは?」


「むむっ。科学の発展に見返りを要求するのかね、君は!」


 赤い眼鏡をクイっと上げて反論してきた。


「もちろんだ。研究所の人間は世の為人の為に研究をしている者もいるだろう。だが、その研究費を出している経営側の根本的な考えは、その研究成果により利益を上げることだ」


「むう。雪乃グループほどの大会社なら、少しばかり協力したところで微々たるものだろうに」


 甘いな。この人の言っていることはたんなる世迷い言でしかない。


「あなたにとって微々たるものかもしれないが、その利益を縁もゆかりもない人に使われるのは納得いかないと思うぞ。あなたが使う分、利益が減り結果的に研究費が少なくなるからな」


「むむっ。では、どうすればいい? 私が提供できるものなどたかが知れているぞ?」


「対価はその体で払ってもらおう」


「な、な~に~! き、君は、ぼ、僕の体が目当てなのか!」


「か、恢斗!」


 土曜日の件があったせいか、麗華のオーバーリアクションのせいでかりんがびっくりしているぞ。蒼羽先輩のボケには突っ込まないからな!


「たしか、蒼羽先輩はまだ就職先が決まっていないよな?」


「むっ、なんで君がそんなことを知っている。そもそも、君は何者だ? 雪乃先輩のなんなのだ?」


風速恢斗かぜはやかいと。麗華のパートナーだ」


「パ、パートナー!?」


 だからなぜ、蒼羽先輩ではなく麗華が驚く? やっぱり土曜の話を引きずっているのか? それと、かりんが抱きしめられすぎて苦しんでいるぞ。


「学祭の催しものに全面的なバックアップを約束しよう。その代わり……」


「その代わり……?」


「雪乃グループの系列会社に入ってもらう」


「むう。さすがにそれは横暴じゃないのかね? デメリットのほうが大きいじゃないか」


 学祭如きの個人というかサークル出展に企業が全面協力してくれるなんてまずあり得ない。それだけでも十分なメリットだ。だが、まあいい。この得物を釣るにはもう少し見せ餌をやってもいいだろう。


 テーブルの上にタオルとナイフをホルダーから出す。


「ぼ、暴力は、い、いけないと思うぞ!」


「まあ、見ていろ」


 初級回復薬も出してテーブルの上に置く。見た目は赤い水の入ったビンだ。


 タオルの上に腕を載せ、ナイフを軽く腕に押し付け傷つける。たら~っと血が流れる。


「な、な、何をしている!? 君は自傷行為中毒者か!」


 んなわけねぇだろう! 


 タオルで傷口を拭くがまだ血が流れてくる。そこで麗華に目配せ。麗華もすぐに理解し、回復薬を俺の傷口にかける。


 シュワーっと少し泡が出て傷口が消えていく。痛みももうない。もう一度、タオルで腕を拭いて蒼羽先輩に見せる。ガン見だ。まじまじと腕のあった傷口の場所を見ている。


「触っても?」


「どうぞ」


 つんつん、ぷにぷにと腕を触って確かめている。


「ト、トリックだろう? ご、誤魔化されないぞ!」


 どこにトリックがあった? 意外と往生際が悪いな。


 仕方がない。人差し指を立てた状態で蒼羽先輩に見えるように前に出す。ビクッと体を固まらせる蒼羽先輩の目の前で、


 サンダー。


 指から10cmくらい上まで放電が起こり、それが維持され続ける。


 蒼羽先輩はその放電に釘付け。凄い間抜け面を晒している。髪はボサボサ、化粧もしてないスッピン、だが意外と顔面偏差値は高いな。ちゃんとした服装で化粧をすれば十分美人と言えるだろう。


「き、君は超能力者だったのか!?」


 そう、きたか……。


「違うな。これは魔法だ」


「ま、魔法だとぉー!」


 声がでけぇよ! まあ、誰も気にしていないようだからいいけど。


「ただの人間では触れることができない、深淵の奥底にある未知の叡智に興味はないか? そして、それに触れてみたくはないか?」


 蒼羽先輩にとっては悪魔の囁きに等しいかもしれない。


「ぼ、僕も魔法使いになれるのか?」


 クックックッ、どうやら悪魔の囁きに耳を貸す気になったようだ。ここから更に引き込み、永遠の悪魔との契約を結ばさせなければならない。


 そう、失敗は許されない。


 なんとしても、この人材を手に入れる。







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