244.結婚相手

 まずは乾杯。これといった言葉は交わさず、杯だけを掲げる。ジョッキじゃないから一飲みで空になる。すぐに麗華がお酌をしてくれる。ちなみに、麗華はシャンパンを飲んでいる。


「コースはお任せになっておるが、寿司は別に頼んでおる。鮪を多めに用意させているが、それ以外も好きなだけ注文してくれていい」


 かりんは座卓の上に布が敷かれた場所で、麗華から料理をもらって食べている。ご満悦状態だ。


「それが霊獣というものかね? 子狐にしか見えんな」


「確かに俺にも狐にしか見えない。が、将来はどうなるのかは知らない。麗華から重蔵さんがどう聞いているしらないが、霊獣は化生モンスターと戦うために生まれてきた存在だ」


「ふふっ、呼びにくければじじいでいいぞ。この国には禁忌タブーといわれるものがいくつかある。雪乃家も神薙家ほどではないが昔から続く名家の端くれ。その禁忌タブーのいくつかは知っておった。化生モンスターにもついてな」


「そうなのですか! おじい様」


 ほう。神薙ご当主は知らなかったのに、この爺さんは知っていたということか。


「ホルダーという言葉は初めて知ったが、化生モンスターを相手に戦っておる者がおることは承知していた」


「どういう意味でしょうか? おじい様」


化生モンスターと戦えば怪我をすることもあるであろう。そういう者はどこに行けばいい? 普通の病院では見てくれぬぞ?」


 なるほど。初級回復薬で治せる怪我には限界がある。それ以上の大怪我を負ったら病院に行くしかない。行くしがないが、怪我した事情を話せない。労災隠しなどの理由で、下手したら治療拒否される可能性がある。


「それを行っているのがうちの系列の病院だということでしょうか?」


「そのとおりだ。これは政府からの要請だ。事情の説明はもちろんない。クレシェンテの件で初めて事情を理解した」


 言えるわけがない。誰も信じないというより、知られてはいけないということだろう。政府からの要請と言っているが、政府の中でも知っているのは一握りの者だけだろう。


 一握り、そろそろ寿司が食べたいな。


 、大トロ十五貫、中トロ五貫、赤身五貫、漬け五貫を頼もう。


「恢斗。一度に頼まなくても大丈夫だぞ?」


「問題ない。これくらいはおしのぎだ」


 かりんは向付むこうづけ八寸はっすんが終わり焼き物に入っている。鮎のようだ、旨そうだな。


 寿司が大皿に載せられやってくる。そろそろ、ビールではなく日本酒に移ろう。純米大吟醸が出てきた。とてもフルーティーな味だ。旨い。


 かりんが俺の寿司を見て、食べたいと目で訴えかけてくる。仕方ないので一種類ずつ皿にも載せ食べさせてやる。


 負けじと俺も食う。大トロ、うめぇ~!


 かりんが全部食べた後、まだ食べたいと目で訴えかけてくる。どれが食べたいのか、指を指して確認。大トロか? と思ったらまさかの赤身。ならば、注文しよう。ついでに興味本位で稲荷も頼んでみる。狐といったら油揚げだからな。


 結果、稲荷も食べたが赤身のほうが好きなようだ。残した稲荷は俺が食べた。


 俺は追加でさっきと同じものを注文。食べ終わりもう一度同じものを注文しようかと思ったが、麗華が食べていたお任せ寿司が美味そうだったのでそちらを注文。


 全部で七十四貫を完食。今回は寿司だけでなく、懐石料理のコースも出たからこの数で満足になった。


「君は将来、クレシェンテのトップになることは理解しているのであろう?」


「そう聞いている。正直、経営も組織を大きくすることも興味がないのだが、しょうがないことだと思っている」


「そこでだ、麗華を嫁にする気はないか? 私の長男には一男三女子がおる。長男の息子は雪乃家本家を継がせるが、三人の娘はまだ嫁ぎ先が決まっていない」


 麗華には姉と妹がいると聞いている。


「麗華が気に入らなければ姉の天音あまねか妹の千夜ちやでもいい」


 姉の天音あまねさんは二十五歳で雪乃製薬で社長秘書をしているそうだ。妹の千夜ちやちゃんは十七歳の高校二年生。どちらも歳が離れているような……。


「麗華は人として、そしてホルダーのパートナーとしても不満はない。女性としても魅力的な人だと思っている」


「ならば……」


 麗華をチラ見すると、顔を赤くしてうつむいてかりんをしきりにモフモフしている。悪い気はしていないようだな。


「だがしかしだ、その話をここで決めるわけにはいかない。今日、神薙ご当主の依頼で競走馬の怪我を治した。その際に相手方からも娘をどうかという話があったが、ご当主に手を出すなと釘を刺されていた」


「ほう。相手方とは誰かね?」


 麗華の爺さんにメタル名刺を渡す。


「春塚か……。幸作くんの友人だったな。確かにこれだけの大物であれば釘を刺さねばならんだろうな」


 麗華も驚いた表情を見せている。やはり、俺が想像していた大富豪に間違いなさそうだ。


「俺は自由恋愛が望みだが、正直無理だと思っている。まあ、見合い結婚だと思えばいいだけだ。儀礼上の見合いとはいえ、最初に話を持っていった神薙家ご当主に筋を通さなければならない。なので、神薙家ご当主と話をしてくれ。それで神薙家ご当主が納得するのであれば俺に文句はない」


 瑞葵には姉がいると聞いている。会ったことはないけどな。


 瑞葵は美人なのは間違いないのだが、性格がなぁ……。


 麗華は美人で性格もいいから、そういう意味では俺には不釣り合いなほどのいい女性ではある。


 なんとも、贅沢な悩みではある。




猫(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ猫


さすがに限界を超えましたにゃ……。

週一投稿に切り替えさせていただきますにゃ。

ごめんにゃさいm(_ω_) m


よかったら新作を読んでくださいにゃ。


ブラックマーケット・∞(インフィニティ)~世界の理から外れた男の二拠点生活~

https://kakuyomu.jp/works/16817330667341551839

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