242.情報漏洩

 常時、気を張り詰めているわけにもいかない。それに相手も何もしてこない可能性もある。


 こちらから手を出すのは悪手。藪を突いて蛇を出しかねない。


「今日のところは気にするな。だが、頭の片隅にはちゃんと記憶しておけよ。じゃないと、咄嗟の判断が遅れるからな」


 また、全員が頷く。遠野さんには水島顧問が説明しているようだな。そっちは任せよう。


 乾杯は済んでいるようなので、ビールで駆けつけ一杯。旨い!


「仕事の話しかしら? 意外と危ない橋を渡っていたりして?」


 危ない橋ねぇ。危ないっちゃ危ないけど、そこまで悲観はしていない。ホルダーの力を手に入れたことでやられたら十倍返しできる力と、権力を持ったバックがいる。


「警察関係の仕事だからな、その手の人間には恨まれることもあるさ」


「そうよね。それより! なにこの子、可愛すぎるんですけど!」


「それは……」


 こうして、夜が更け、そして朝帰りとなる……。



 朝、いやもうすぐ昼という時間に起きて二日酔いの自分に治療をかける。そして、風呂に入ってクレシェンテに向かった。


 うーん、本当は休むつもりだったんだけどなぁ。


「あら、風速くん。休みじゃなかったの?」


 かりんを自由にしてやり、月山さんにメタルカードを返す。


「沢木管理官にアポを取ってもらえませんか?」


「また、何かしたの?」


 してねぇーよ!


 昨日の夜に謎のホルダーに監視されたことを教える。


「十中八九、大陸のホルダーでしょう。どこから情報が漏れたのやら」


「わかったわ。連絡をしてみる。時間が合えば午後からでもいいかしら?」


「来週から大学が始まりますからね。それがいいです。今日の夕方以降は約束があるから駄目ですけど」


「了解」


 午前の部のみなさんのお昼は中華の出前を取るそうだ。いつもの重役弁当は土日は休みらしい。


 なら、俺も中華にしよう。青椒肉絲定食にタンメンだな。


 出前が届いて中央テーブルは中華料理が満載。月山さん、和泉いずみさん、すめらぎさんの三人も別々の料理を頼んだので、料理を真ん中に置いてバイキング状態。仕方ないので俺の青椒肉絲も置く。


 そして、最初に皿に盛られた料理は……かりんの前だな。ここではかりんがヒエラルキーのトップみたいだ……。


 食事が終わった頃に月山さんのスマホが鳴る。


「風速くん。十四時でどうかしら?」


 沢木管理官からのようだ。


「いいですよ。警視庁に行けばいいですか?」


 月山さんが目でちょっと待ってね、と言ってきたので返答を待つ。


「はい、そのように伝えます。では、失礼いたします」


 向こうと話しが付いたようだ、


「これからならいつでもいいそうよ。本庁舎の受付で沢木管理官とのアポを取ってあると言えば繋いでくれるそうよ」


 じゃあ、行ってくるか。


 夕方から約束のある麗華には待ち合わせはクレシェンテに変更と伝えておこう。かりんを事務所に置いていくから、ここに戻ってこないといけない。


 東京メトロを使って三十分くらいで到着。


 受付で沢木管理官に繋いでもらう。


 小会議室のような場所に案内され、出されたコーヒーに三口くらい口を付けたところで沢木管理官が登場。


「何か問題が起きたとか? 自衛隊の件かね?」


「大陸のダークホルダーに俺のことが漏れているぞ」


「なに? 本当かね?」


 一瞬目を細め驚いた表情を見せたところを見ると、知らなかったようだな。


 昨日の夜のことを語って聞かせる。


「ずっと確認してきたが今日はまだ監視されていない。住んでる場所にも来ていないようだ」


 だが、それも時間の問題だろう。どこにでもある普通のアパートで、セキュリティーなんて部屋の鍵一つ。まあ、高価な物などの盗まれそうなものなどはほとんど無いとはいえ、土足で踏み込まれるのは嬉しくない。


「どこから漏れた?」


「わからない。映像を見た者は大勢いる。が、君の個人情報を知る者は極わずかだ」


「なら、すぐに調べがつくな?」


「そうだな……。信じたくはないが、獅子身中の虫がいるのかもしれん。あるいは、上の者に脅されているか……」


 俺的には後半のほうが可能性が高いのではと考えている。大陸信奉者の政治家が怪しいと踏んでいる。


「仕掛けられたら、最悪るぞ」


「正直、泳がせてもらいたいが……仕方あるまい」


「情報は逐一もらえるんだよな?」


「渡そう」


 もし、政治家連中が関わっているなら、神薙ご当主になんとかしてもらいたい。それ以外なら、俺のほうでなんとかする。


 今は何も情報を持っていないようなので引き下がる。帰ろうかと思ったが、まだ沢木管理官は話があるようだ。


「クレシェンテに相談に行った警察、自衛隊希望組五人は、ホルダー管理対策室預かりにすることにした」


 水島顧問からホルダー管理対策室に話がいったようだ。身辺調査も学力的にも問題なかったそうなので、警察官採用試験を受けるそうだ。それで落ちたら自衛官採用試験を受けるか、次回の警察官採用試験を受けることになる。


 警察官を目指すか自衛官を目指すかは個人の判断だ。警察官のホルダーはほとんど実戦がなく、どちらかといえばサポートが主。逆に自衛官は実戦が仕事になる。


 頑張って受かってほしいものだ。


 俺には合わないから無理だけどな。






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