226.フラグ、そして回収

 まあ、こいつらに自己犠牲精神なんて期待はしていない。俺だってそんなものは持っていない。


 いや待てよ、十分にこのブラックな環境を受け入れていること自体が、自己犠牲精神なのでは……。


「と、取りあえずだ、全員自分のスキルを使いながら戦え。そして、自分自身を徹底的に追い込め。そうすることで適合率が上がっていくはずだ」


 現に六等呪位との狩りの参加で、こいつら全員既に3~5%上がっている。


「適合率が上がると何かあるんすか? アニキ」


「150%を超えるといいことがある」


「それは?」


「超えれば自ずとわかる。励め」


 二軍も150%を超えた者が二人いる。朱珠と陸だ。残り三人もすぐに超えるだろう。


「柊にはこれを預けておく。さっき言った回復用の杖だ。使用TPの関係から一度しか使えないと思うが、これを何度か使っていると回復スキルを覚える。一度使ったら誰かに渡せ」


「回復魔法ですね! 頑張ります!」


 頑張ってどうにかなるものじゃないが、やる気がないよりはいいか。


「隼人と昴には使役化生モンスターのカードを預ける。戦闘が始まったら筋トレするように命令しろ。声を出さなくても命令できるからな」


「これが使役化生モンスターのカードっすかぁ。健志が自慢してた奴っすね。俺たちが使っていいんすか?」


「そこはまだ決めていない。前にも言ったが、お前たちには使役化生モンスターのカードを持たせない代わりに、強力な装備品を渡している。お前たちに渡している装備品は二軍が使っている装備品より相当に強力なものだ。後で、もう一度健志たちとどうするか話をしてから決める」


 三軍の今の装備なら九等呪位なら俺がいなくても狩れる。自分たちで集めるのがベストなんだが、まだレベルが低いから間違ってレベルを上げる恐れがあるから怖くてやらせられない。


「そうそう、戦っている時には極力声を出すなよ。特にスキル名とかは絶対に口に出すな」


「アニキ、なんでですか~? ヒーローらしくていいじゃないっすか~」


化生モンスターが俺たちの言葉を理解していないとは言い切れないからだ。相手に自分の行動を教えることになる」


「だ、駄目なんすか? 格好よく叫びたかったっす……」


 こいつらもか……。


「そうだな。まあ、どうしても気合を入れたい時などは、技名以外を叫べ。好きな女の名前とかな。それなら許そう。」


「「「「「……」」」」」


 こいつら、まじで悩んでいやがる。


「しょうがない。気合の叫びくらいなら、多少は許す」


「「「「「おぉー」」」」」


 そこまで、叫びたいものなのだろうか? 俺には理解できん。


「それとこの化生モンスターだが、異常状態を起こす攻撃をしてくる可能性がある。各自、ショップから各異常状態回復薬を買って、ホルダーに入れておけよ。初級回復薬を持っていない奴はそれもいれておけ。仲間を頼るなとは言わないが、自分の命は自分で守るが基本だ」


「「「「「うぃ~っす」」」」」


 ベリト戦で手に入れた装備も渡し、足りない分は予備の物も渡して万全な状態にする。


 よし、準備は整った。


「バ、バトルフィールド展開」


 やや、緊張した面持ちで隼人がバトルフィールドを展開した。


「おっ!?」


 遠野さんが現れた化生モンスターを見て驚きの声を上げる。これも慣れだな。そのうち、驚くどころか気にもしなくなる。


 使役化生モンスターが現れ筋トレを始める。


 小堕天使デミフォーリンエンジェル ランクHエッチ プチ剣術


 小悪魔レッサーデーモン ランクHエッチ プチ火魔法


 小堕天使デミフォーリンエンジェルは剣使いのアタッカーっぽく、小悪魔レッサーデーモンはスキルを見ると後衛のような感じだが見た目はマッチョで前衛向きのように見える。


「俺のほうであいつの敵愾心ヘイトをこちらに向ける。お前たちは隙を突いて攻撃しろ」


 強張った表情で全員が頷く。


 高骸骨戦士ハイ・スケルトンウォリアーを呼び出し瘴気の木人ミアズムウッディに挑発だけして気を引くように指示。保険に天使エンジェルも出して三軍が危なくなったらけん制や回復をしてもらおう。


 高骸骨戦士ハイ・スケルトンウォリアーが動き出す。


「よし、お前たちも行け!」


 逝けじゃないぞ? 俺もそこまで悪魔じゃない。


「喧嘩上等!」


愛羅武勇あいらぶゆう!」


走死走愛そうしそうあい!」


愛死天流あいしてる!」


天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそん?」


 こんなんで、気合が入るのか? それより、なに言ってんの? 意味わからん。柊も無理に付き合う必要はないぞ?


「動きがぎこちないようだが、大丈夫なのかな?」


「実質、今回が初めて自分たちだけでの戦闘になる。まあ、こんなものだろう。後は慣れだ」


「はぁ、慣れで済ませる君たちを尊敬するよ」


 自分の意思で始めたんだ、慣れてもらわなければ困る。それでも慣れなければ死ぬかホルダーを辞めるかだ。ただ、それだけのことだ。


 三軍は柊以外は前衛。ヤンキーらしい潔さだ。隼人と幸彦が剣と盾持ち、といっても剣ではなく刀を持って盾を持つ異様さ。昴が槍で、翼が大太刀を持っている。


 瘴気の木人ミアズムウッディは数の暴力に手……枝が出せない様子。高骸骨戦士ハイ・スケルトンウォリアーの挑発も効いている。


「いい感じに見える。このまま押し切れるんじゃないか?」


 それ、フラグだな。


 案の定、瘴気の木人ミアズムウッディが奥の手を出してくる。大きく息を吸い、口から毒々しい色の息を吐きつける。ヤンキー四人組はその毒々しい色の息に飲み込まれ、バタバタと倒れ藻掻き苦しむ。


 ものの見事にフラグを回収。


 狩りの映像を見せて、化生モンスターのパターンは教えているんだがなぁ。


 お馬鹿だから、結局こうなる。


 経験しないと駄目なんだろうな。







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