222.焼肉食べ放題

 ホルモンを突っつきながら遠野さんと話をする。


 こら、三軍、カルビだけじゃなくほかのもの食えよ。俺は米沢牛のハラミを焼いていく。ハラミは好き嫌いの分かれる部位だが俺は好き。レバーも注文しよう。


 遠野さんの娘さんが高校三年で息子さんは中学三年。どちらも、受験生で、大変そうだ。そんな時にクレシェンテへの移籍話が来たそうだ。


「大学、高校の入学金に授業料、正直頭を抱えていたからね。提示された給料の額が思った以上によくてね。すぐに了承したよ。はっはっはっはっ!」


 ぶっちゃけたな、このおっさん。


 まあ、見た感じ大丈夫そうだ。


「こいつらに遠慮は無用。馬鹿をやりそうになったら遠慮なく怒声を浴びせていい。それでも聞かないようなら、しばくことも許容する」


「お、おう」


「「「「「暴力反対~!」」」」」


「無限特訓とどっちがいい?」


「「「「「……」」」」」


 黙ったな。そもそも、お前らが馬鹿なことをしなければいいのだ。


「無限特訓とはそんなに凄いのかね?」


「アニキのあれは地獄……」


「……地獄が可愛く思える」


「くっころって何度も言うほど地獄……」


 それに付き合う俺をリスペクトしろ。


 しかし、メニューを見るといろいろな部位があるな。俺がホルモンと呼んでいるのはシマチョウっていうらしい。コブクロやハツ、ミノなんかは知っているけどギアラってなんだ? 頼んでみるか。


 焼いていると凄く脂が滴り落ちる。食感はくにゃくにゃとした噛み応えがあり、臭みはまったくなく脂の甘みが口いっぱいに広がる。これはビールに合うな。


 だが、そろそろホルモン街道は一旦終了。肉街道へ進もう。まずは、米沢牛のタンからだな。


 俺の実家のある宮城は牛タンが有名だが、よく食べるのかと聞かれれば否と答える。牛タンが有名とはいえ、使っているのは外国産の牛タン。国産、それも仙台牛の牛タンを出す店なんてそうない。あっても、値段は目が飛び出るだろう。


 確かに焼肉で食べる牛タンは旨味が濃く、コリコリとした独特の触感でシチューなどで食べる牛タンとは一味違う。嫌いではない。わさび醤油で食べたが合う!


 続いて、米沢牛のカルビ。サンカクバラといわれる部位だ。脂が乗っていて口の中で溶けていく。ビールもいいが、ここはレモンサワーかウーロンハイだな。


 瑞葵も麗華も普通に焼肉を自分で焼いて食べている。違和感を感じるが、食べ方は非常にお上品。育ちが出るな。二軍、三軍、野菜も食えよ。有機栽培の野菜らしいぞ。俺はカルビとオニオンスライスをサニーレタスで巻き食べている。旨い!


 隠しメニューで味付けスペアリブがあるそうなので注文。隠しメニューってなんだ? まったく隠してなかったよな? 美味かったけど。


「月山さん、事務所の拡張はどうすんの?」


「そうね。引っ越すのは面倒だから、上の階も借りようかと思っているわ」


「それなら、シャワールームと仮眠室みたいなのを作ってくれません?」


「シャワールームはわかるけど仮眠室?」


 わかっていないようなので説明。フィットネスクラブで疲れて帰ってくるから、少しでも体力を回復させるために必要だと話す。大々的な仮眠室じゃなくても、専用の部屋を作ってリクライニングチェアを並べるだけでもいいと説得。


 現状、待機室や会議室で寝ているから邪魔だ。特に待機室は入り口近くにあるので、そこで寝られていると見た目が悪い。まあ、お客さんは滅多に来ないけどけどな。


 二軍と三軍も頷いている。


「そうね。考えてみるわ。滅多にないとは思うけど、私たちも家に帰れない日が出てきそうだしね。誰かさんのせいで」


 俺のせいではない。決して俺のせいではないのだが……。


「よ、よろしくお願いします……。ついでに、専用の椅子を買っていいですか?」


「専用の椅子?」


 個室で使う、オットマン付きのゲーミングチェアが欲しい。普通に仕事でも使えるし、休む時にも使える。今使っているのは悪くはないのだが所詮は事務椅子。いまいちなのだ。


 本当は実際に一度使い心地を確かめたいところだけど、難しいだろう。


「じゃあ、希望の物をいくつか持ってこさせる?」


 まじ? さすが、バックに神薙家と雪乃家がいると違うな……。


「是非、お願いします」


 瑞葵と麗華も俺の話を聞いて頼むようだ。


「アニキ、俺たちに個室は?」


「事務仕事をする気なら、個室と椅子を付けてやる」


「「「「「……」」」」」


 二軍も三軍も誰も手を上げないな。


「松平くんはイラストレーターよね? クレシェンテのロゴを創ってくれないかしら?」


 月山さん、それは面白い考えだ。うちにはまだロゴマークがないからな。


「依頼としてくれれば箔が付きます」


「いいわよ。じゃあ、クレシェンテにちなんだもので、取りあえず十パターンをお願いするわ」


 ホームページも柊に作らさせるかと思ったが、作ったところで何も載せるものがないことに気づく。


 残念。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る