221.歓迎会

 待つこと三十分ぐらいで二軍が駐車場に戻ってきた。


 遠野さんが妙にハイテンションになっている。おかしいくらいにな。


「どうだった?」


「今回は相手にも恵まれたが、いい動きだった」


 要するに搦手を使わない化生モンスターということだな。


「で、あれは?」


「二軍と化生モンスターの戦いを見てヒートアップしたようだ」


 まあ、ビビるよりはましか。


 時間は二十時過ぎちょうどいい時間だ。よし、帰ろう。


 事務所に戻ってきて全員帰り支度をする。今日は日勤組も夜勤組も参加して、この後事務所に戻る人はいない。歓迎会が終われば現地解散になる。


 こういうこともあるから、事務所にもシャワー室が欲しいな。まあ、夏の間くらいだけど。冬でもあればあればで使うか? そうなると仮眠室みたいなのも欲しくなるな。個室にリクライニングチェアーでもいいかな。事務所拡張の時に相談してみよう。


 さて、俺も卵にTPを与えておこう。また、ぎりぎりまで吸われる。これ、孵るまでずっとこうなのか?


 全員、準備が整い出発。お店はクレシェンテの事務所から三十分くらいの所らしい。


 到着して中に入ると炭火焼肉のお店で、三十人も入ればいっぱいになるくらいの広さ。クレシェンテに所属するのは勇樹を除いて二十一人。ちょうどいいかもな。


 お肉はすべて国産牛。米沢牛のカルビ、ハラミ、タンが一人一皿付くそうだ。それ以外は食べ放題。肉の食べ放題、心躍る響きだ。


 ビールジョッキとソフトドリンクが配られる。


「存在感の薄い所長の雪乃麗華です」


 麗華にしては珍しい自虐ギャグだ。だが、笑いは取れている。


「クレシェンテを立ち上げたのが七月の半ば。当初十人で始めたのが気づけば二十一人まで増えました。おそらく、いえ、間違いなく今後も人が増えていきます。ここにいるみなさんは、今後その中核となる人材となることでしょう」


 麗華が全員をゆっくりと見回す。


「知っておられるとは思いますが、私たちに課せられた使命はとても厳しく、そして非常に困難なものであります。しかし、我々はこの後に続く者たちの良き先達として、そして礎とならねばなりません」


 水島顧問は頷いているが、二軍、三軍はあまり理解していない顔だ。ちゃんと説明したよな! なぜ、そんな顔をしている!


「その困難をこのメンバーならば乗り越えられるはず、いえ、乗り越えられると信じています。私たちの前には何度も大きな壁が立ちはだかるでしょう。ですが、今日新たに加わったみなさんの力をお借りし、全員の力を合わせ乗り越えていきましょう」


 全員がジョッキとコップを持つ。


「新しきメンバーの加入を祝い、そしてクレシェンテの躍進を願って、乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 麗華の話はよかった。よかったが、ビールの誘惑のほうが強かった。すまん。


 グビグビ、ぷはぁ~、もう一杯!


 さあ、焼くぞ!


 赤々とした炭が入る角型の七輪の上にホルモンをどばぁ~と載せる。焼肉はちゃんと育ててこそなる。


 よく、一度に網に載せる怒る奴がいるが、そんなこと勝手だろうと言ってやりたい。いや、俺なら言う。自分の好きに焼いて、好きに食べるのが焼肉だ。マナーなんてものはない。そんなマナーが好きなら一人で食え! と俺なら言ってやる。間違いない。


「今日はどうでしたか?」


「君から見たら笑えるかもしれないが、この歳で大人気なく興奮した。それから風速さん、普通に話していいぞ。水島さんとの話し方が全然違って少々居心地が悪い」


「TPOに応じて変えているだけだから、どっちでもいいんだが。遠野さんがそれでいいならそうする」


「TPOに応じてましたの!?」


「冗談がすぎるぞ? 恢斗」


 おいおい、まったく冗談を言った覚えはないぞ? 今までだってそうしてきたろう? 来てよな? たぶん。


 おっと、いい具合に片面が焼けてきた。ホルモンをひっくり返さなければ。


「まあ、いい。それで、化生モンスターを見て恐怖は感じなかったのか?」


「あれを見た瞬間、心臓が大きく脈打ち体では生を意識するのに、心は怖ろしいほど死を感じた……」


「そうか」


 普通の人から見たら化生モンスターは恐怖の塊だろう。俺でさえ最初の頃は恐怖を感じたからな。それが、恐怖を克服したというより、麻痺して感じなくなった。恐怖より戦うことに快楽を覚えたって感じだ。


「だが、若い子たちがそんな化け物と命を懸けて戦う姿を見て、不謹慎ながらそんな場面を見て心が躍ってしまった。正義のヒーローが目の前で戦っているとね。そして、その手伝いができるのだと」


 二軍が正義のヒーローねぇ。遠野さんには悪いが目が曇っている。あるいは、度の会ってない色眼鏡を掛けていたのか?


「それなら、続けることに問題はないな」


「そうだな、どうせこの世界を知ってしまった以上、簡単には表の世界に戻れないのだろう?」


「制約は受けるだろうが、雪乃家の縁者だから辞めることは可能じゃないのか? どうなんです? 月山さん」


「なかなか、難しい質問ね。うちに入る時点でそうならないように話は詰めているのよ。辞めることはできると思うけど、風速くんが言ったとおり制約を受けることは間違いないと思うわ」


 そうなんだ。雪乃家の縁者でもそうなのか、大変だなぁ。


「申し訳ないが頑張って勤め上げてくれとしか言えないな」


「大丈夫だ。辞める気はない。それより、そちらのお嬢さんたちはもしかして……」


 ん? もしかして気づいていなかったのか?


「もしかしてじゃなくて、マジもんの雪乃家と神薙家のご令嬢だ」


「これは失礼しました。本家のお嬢さんと神薙家のお嬢さんと知らず、申し訳ありませんでした」


「気にしなくていいですわ。神薙家の人間としてではなく、ホルダーとしてクレシェンテに所属しているのですから」


「そうだな。私はある意味、箔付のお飾りだからな。将来的にクレシェンテを率いるのは恢斗だ」


 将来的って大学卒業後か? 


 できれば、ホルダーに専念したいのだが……。





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