217.サポート要員面談
サポート要員の人は既に来ていて小会議室にいる。
月山さんと水島顧問と一緒に小会議室に入る。男性が立ち上がって礼をしてきた。
「遠野さん、こちらはうちのエースの風速恢斗くん。そしてこちらが水島俊一郎さん。うちの顧問をしてもらっています」
「
普通? このクレシェンテが? 非現実、非常識極まりない世界の入り口であるクレシェンテが普通?
月山さんに目で問うが、首を横に振る。
「失礼ですが、どのような説明を受けてきたのでしょうか?」
「現場までの送迎。そして、現場作業員の監督とサポートと伺っています」
いや、まあ、間違ってはいないが……。
ちょっと、月山さん! どういうことよ!
「遠野さん。このクレシェンテの経営は雪乃家がメインで行っていますが、母体は神薙家です。そしてこちらの風速くんが神薙家を動かし、このクレシェンテを創立させた創立者の一人。そして、実質のトップとなります」
「この若者がですかな?」
「風速くんはまだ大学生ですが、卒業すればここの代表取締役に就任することが決まっています。その彼からこのクレシェンテについて説明があります」
あー、月山さん、丸投げしたね? それと代表取締役のことは初めて聞きましたけど?
「代表取締役のことは置いといて、説明します」
手元のPCを操作してモニターに
「風速さんが主人公の特撮ものですかな? 今だとミーチューバーというのでしょうか? それにしてもヒロインが凄い美人ですな。どこかのモデルさんですかな?」
いえ、あなたの本家のご令嬢と神薙家のご令嬢です。
それにしても、特撮ねぇ。ホルダーを知らない人にはそう見えるのか。
「このプロモーションはだいぶお金がかかっているように見えます。このクレシェンテは映画などの撮影関係の会社ということでしょうか?」
「正義のヒーローって知ってますよね?」
「もちろんです。正義のヒーローに憧れて自衛隊に入った口です。その正義のヒーローが派閥争いに負けて退役しましたが。ははは……」
自虐ギャグ……。意外に砕けた性格なのか? 水島顧問が顔を引きつらせている。月島さんは、目を逸らしたな。
「この映像はノンフィクションです。一切のCG加工もそれ以外の加工もしていません」
「ほう。それは凄いですね」
気づいていないのか? 映っている
「ノンフィクションです」
「……」
やっと気づいたか。完全に目が点状態だな。
「我々の住むこの世界には表と裏があります。これは犯罪集団のことではありません。それ以上に厄介な裏の世界です。信じられないかもしれませんが、今この日本は存亡の危機に立たされているのです」
「……」
「信じられませんか? 信じられないですよね。遠野さんは元自衛隊だとか? こちらの水島顧問も自衛隊出身です。水島顧問はどこの部隊に所属していました?」
「東部方面隊第一師団特殊専行大隊だ」
へぇ、始めて聞いた。特殊専行大隊っていうんだ。
「特殊専行大隊? 聞いたことがないですが?」
「一部の幹部と所属する隊員以外知る者はいない。守秘義務が課せられている。そして、人ならざるものを極秘に討伐している部隊だ」
「ちなみに総理直下の部隊みたいです。政治家でもこのことを知っているのはごく一部でしょう」
「それを信じろと?」
「クレシェンテはその異色性から、実働部隊以外は雪乃家と神薙家の者で固めています。表に出せないんですよ。この裏の世界のことは」
馬鹿な人間はクレシェンテに入れることができない。だからこその神薙家なのだ。絶対的な力を持っていて、分家や血縁、部下を多く持つ古くからの名家。
「クレシェンテはこの裏の世界では新興の組織。敵対関係はありませんが、周りは足を引っ張り合う非協力組織ばかり。裏切らない人材が必要なんですよ」
「……」
「おかしいとは思いませんでしたか? なぜ、自分が出来たばかりの小さな会社に雪乃本家から直々に呼ばれたか?」
そう、遠野さん、あなたはもう逃げられない。裏切ることも許されない。既に雁字搦め状態なんだよ。
「嵌められた、ということですか?」
月山さんに目配せする。
「それは違います。あなたという人間が信じるに値する方であったので、白羽の矢が立ったのですわ。そこはお間違えのないように」
「はぁ……。まさかこの歳で正義のヒーローの手助けをさせれるとは……。こういうのを、厨二病と言うのですかな?」
うーん。間違っているけど、あながち間違っていない気もする。
ホルダーが厨二病みたいなものだからな。
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