209.午後の相談

「こちらはこのクレシェンテの副所長の月山さんだ。所長は先ほど会った雪乃さんだが、実質このクレシェンテを仕切っているのは月山さんだ。間違っても怒らせるなよ」


「紹介にあずかりました月山です。事務関係でわからないことがあれば、私か夜担当の星野に相談してください。それでは説明を始めさせていただきます」


 福利厚生、社内規定、契約について説明されていく。正直、こいつらちゃんと理解しているかが不安。


 それでも説明が続き、一通り説明が終わったところで質問タイムになる。


「俺たち今、持ち金が無いんですけど、どうすればいいですかねぇ?」


「……風速くん?」


 しょうがないでしょう? 月山さんたちみたいに良いところの出じゃないんだから。見てわかるとおり、真っ当な人生を歩んできた奴に見えますか? 俺には見えないです。


「今日、こいつらに狩らせる化生モンスターの依頼料を担保にして金を貸してやってください。こいつらは裏切らない。いや、もう裏切れないのですから」


「でもそれって実質、風速くんがするわけでしょう? いいの?」


「二軍にも同じようにしましたから、こいつらにしないというわけにはいかないでしょう。就職祝い金兼準備金ってことにしましょう」


「「「「ア、アニキ!」」」」


 俺にはまったくといっていいほどメリットがない。メリットがないどころか、デメリットでしかない。自分で自分の首を絞めているよな、俺って。


 だが、二軍と同じようにこいつら三軍が独り立ちできれば、クレシェンテは安泰となる。自衛隊のホルダーの訓練も上手くいけば、ホルダー管理対策室から適合率140%前後のホルダー候補五人がくる。そうなればクレシェンテで四チームが稼働することになる。


 その後もこいつらのアホか! って感じの無駄な質問にも答えていく。最後にクレシェンテの契約書と誓紙にサインさせて終了。こいつらの裏取りは月山さんのほうでやってくれるだろう。


「サポートがまた一人足りなくなりましたね」


「誰のせいかしら?」


 睨んでくる月山さんには悪いが、俺のせいではない。決して俺のせいではない!


「自衛隊の隊長クラス引き抜けませんか?」


 意外と給料面で交渉すれば来てくれる人いそうだったんだよなぁ。


「おそらく声を掛ければ釣れると思うけど、自衛隊との協力関係はご破算ね」


 ですよねー。


 今少しの間、水島顧問にお願いするしかなさそうだ。


 明日になればサポート人員が一人増える。その人と水島顧問とで少しの間組んでもらって慣れてもらおう。


 こっちは赤星さんに戻ってもらおう。そういえば、車ももう一台必要になるな。運転は俺がすればいいか、はぁ……。


 三軍は小会議室で狩りの映像を見ながら、時間が来るまで休憩していてもらう。


 ホルダー管理対策室のサイトを開いて、今日狩る化生モンスターを探す。六等呪位も多いなぁ。三軍もいるから歩いて行けるところがいいな。


 おっ、ここなんかいいんじゃね?


 ん? 2PTパーティー推奨? あれ? そういえば、そんなこと聞いた覚えがあるような? 俺と瑞葵、麗華の収入は減るが、三軍の訓練はこれでいいんじゃね? 瑞葵と麗華は金に関しては無関心だしな。俺が我慢すれば問題ないような?


 車の手配が付けば、六等呪位と七等呪位の二体を狩るようにすればいい。


 取りあえず、瑞葵と麗華に話して了承を得てからにしよう。


 なんて思っていると、来客が来たと和泉いずみさんが呼びにきた。もうそんな時間か。


 大会議室は水島顧問が使っている。小会議室の三軍を追い出すか。


 三軍を待機室のほうに移ってもらい。相談に来た三人を迎い入れる。


 濃縮みかんジュースのペットボトルを渡して座るように促す。これも俺が飲みたかっただけな。


「それで、どんな相談だ?」


「ホルダーとして活動したいのですが、どうすればいいのか聞きにきました」


「三人でやるのか?」


 三人とも首を横に振る。


 ん? どういうことだ? 


「単独でやりたいってことか?」


 三人が頷く。


「やめとけ。死ぬぞ」


「そうならないよう。教えを乞いにきました」


 うーん。どうする? また面倒くさい連中が来たものだ。今日は厄日か?


「最初は三人で狩りをしてある程度レベルが上がったら、単独でやればいいんじゃね?」


「三人とも本業があるので時間が合いません」


 じゃあ、やめろよ! 相談にくる以前の問題だろうが!


「なら、方法はない。相談は終わりだ」


「そこをなんとか!」


 面倒くせぇなぁ。


「お前たちは本業があるんだろう? それでいいんじゃねの?」


「本業だけでは食べていけないからです!」


「少しでもお金が稼げるなら稼ぎたい!」


「せっかくホルダーになれたのだから、ホルダーとして活動したいです」


 女とヤンキーは動機が不純だな。気持ちはわかるが。もう一人はヒーロー願望か?


「何度も言うが無理だ。中途半端な気持ちでやる奴に教えることなどない。ホルダーのことは忘れて、本業を頑張るんだな」


 こいつらも下手に首を突っ込むとダークホルダーに落ちかねない。


「一人でやるのは無理なんでしょうか?」


「無理とは言わない。だが、それこそ生半可な気持ちじゃ無理だ。本気で生と死の間での綱渡りをする覚悟が必要になる」


 金が欲しい、ヒーローになりたい、別に理由なんてどうでもいい。


 必要なのは命を懸けるという覚悟が必要なんだ。


 あとは運かな?





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