206.ヤンキー四人組

 朝、目覚ましで目が覚める。


 そういえば、今日は早くクレシェンテの事務所に行かないと駄目だった。しょうがない、起きよう。


 朝ごはんは新宿駅西口にある食堂で炭火焼魚定食を食べる。この塩サバ、うめぇー。ご飯がいくらでもすすむ。結局、ご飯のお替りをしてしまった。今日も朝から快調だ。


 まだ誰も出社していない事務所に着いて、魔法についてのことをPCに落としていると事務所のチャイムが鳴る。来たようだな。


 モニターで確認するとヤンキー四人組だ。エレベータのロックを外し事務所に招き入れる。


「「「「ちーっす」」」」


 はぁ……。ちゃんと挨拶もできないのか。服装も見るからにダサい。まあ、ヤンキーだしな。これでもマシなほうか。


 小会議室に移動。座るように促して、コーラのペットボトルを渡す。たんに俺が飲みたかっただけな。


「それで、相談ってなんだ?」


「俺たちホルダーで生活するために、なんとかチームを抜けんたんだ」


 チームってのは族ってことか? なんとかって、簡単には抜けられないのか? ヤンキーってのも大変なんだな。


「それで、化生モンスターと戦ってみたけど勝てない……」


 いや、勝てないって言われても困るんだが?


 こいつらは四人ともレベル2。ダークホルダーのリュウに上げてもらったそうだ。適合率を聞くと120~130%なのでうちの二軍と大差ない。


「今のままだと生活できない……」


 そんなことを俺に言われてもなぁ。ホルダー辞めて普通に働けばいいんじゃね?


「「「「助けてください!」」」」


 助けてって言われてもねぇ。


「お前ら、どこまで本気なの?」


「本気って?」


「本当にホルダーで食っていくのかってこと。趣味や副業程度に考えているのか、ある程度食っていければいいのか、夢をでっかく持って大金を稼ぎたいのかってこと。どうなのよ?」


「大金が稼げるのか?」


 こいつらの大金ってどのくらいを考えているんだろうな? そもそも、今までどうやって生活していたんだろうな。


「稼げるぞ。本気で命を懸けるつもりならな。ちなみにどのくらい稼ぎたいんだ?」


「つ、月に、よ、四十万……くらい?」


 その歳で普通に働いたら、月に四十万は大金だな。でも、そんなものでいいのか?


 十等呪位を月に二十体倒せば二百万になる。四人で割れば五十万だぞ? うちに仲介を頼んだとして30%引いても依頼料は百四十万で、四人で割って三十五万。


 一体に付きドロップアイテムと討伐報酬とで一万円弱くらいにはなる。それを合わせれば月五十万くらいにはなる。


 余裕じゃね?


「そんなもんでいいのか?」


 今のを紙に書いて見せてやる。


「「「「えっ?」」」」


 ついでに七等呪位までの依頼料も書いてやる。


「「「「え、えぇー!?」」」」


 そもそも、四人もいて化生モンスターを倒せないって、どんな化生モンスターを相手に戦ったんだ? わけわからん。


「ちなみに、アニキはどのランクの化生モンスターと戦っているのでしょうか?」


 だれが、アニキだ! ほとんど歳は変わらないだろうよ。健志と同じくらいに見えるから、そっちのほうが年上かもだぞ。それに急に言葉遣いを変えて、気持ち悪い。


「クレシェンテに所属しているホルダーは七等呪位をメインに狩っている。必要に応じてそれ以下の化生モンスターも狩っているけどな。あくまでメインは七等呪位だ」


 今こいつらは必死になって計算している。スマホの電卓を使って。


「一体だけでも八十万を超えるのかよ……」


「ちなみに戦って勝てなかった化生モンスターって何等呪位だ?」


「わからないっす……」


 鑑定がないからわからないか……。


 詳しく話を聞いていくと、勝てない理由がわかった。


 こいつら、七等呪位と戦っていたようだ……。その適合率で、よく死ななかったな? ある意味、こいつら凄いかも。


 要するに、ホルダー知識がまったくないのだ。俺と同じ境遇だったんだな。


 そのせいで、ダークホルダーのリュウが狩った化生モンスターが普通と考え、その時にマップに映っていた紫の丸を探して戦っていたわけだな。さすがに、こいつらだけでは厳しいな。


 なので、基本的のことを少し教えてやる。


「「「「まじか……」」」」


「で、どうなんだ?」


「俺たちも七等呪位を倒したいです! どうか、俺たちを強くしてください!」


「無理」


「「「「えぇー!?」」」」


 あたりまえだろう。なんで、俺がそこまでしてやらなきゃならないんだよ。


「暇がない。メリットもない。無理」


「そこをなんとか!」


「お前ら、うちに入るの断ってアウトサイダー希望したんだろう? 自由にやればいいじゃん。十等呪位くらいなら、お前らでも倒せるぞ?」


「「「「……」」」」


 依頼の受理くらいはクレシェンテでやってやる。多少の情報もくれてやる。だが、鍛えるのは無理だ。


 俺自身に時間がない。十月になれば自衛隊のホルダーがやって来る。そいつらは失敗が許されない。俺が付きっきりで指導をしないといけない。二軍連中より過保護に育てる必要がある。


 自衛隊のホルダーの育成方法が間違っているとわからせるための研修だからな。徹底的に訓練させて強くしてやり、自衛隊にもホルダー管理対策室にもぐうの音が出ないほどはっきりとわからせてやる必要がある。


 なので、こいつらに費やす時間はない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る