191.実地訓練開始

 今日も朝早くに起床し、しっかりと朝食を食べて出発。


 青木ヶ原樹海の入り口には大勢の自衛隊員が集まっている。ゴミ拾いの道具を受け取ったチームから青木ヶ原に入っていく姿が見られる。


 俺たちクレシェンテは自衛隊のチームに一人ずつ付いていくことになる。


「昨日も言ったが、自衛隊のチームとPTは組むなよ。いいか、強要されても必ず断れ!」


 わざと周りのチームに聞こえるように言う。全員、頷いたので大丈夫だろう。


 自衛隊員さんに連れられて各自別々のチームに散っていく。俺は嶋崎さんのチームのようだ。


「今日はよろしくな」


「よろしくお願いします」


 嶋崎さんに挨拶をする。


「今日はあなたのレベルを上げさせてあげるわ。喜びなさい」


 帯刀という女性隊員だ。余計なお世話だ。


「結構です。こんなところでレベルを上げるつもりはありません」


「なに言ってるの! そんな低レベルのくせして化生モンスターを舐めるんじゃないわよ! 後ろの安全な場所にいて、何もしなくてもレベルを上げてやると言っているのよ! 黙って付いてきなさい!」


「何度も言いますが、レベル上げは結構です。貴重なレベルをこんなところで上げるつもりはありません。これは私が所属するクレシェンテの方針です」


「まあまあ、帯刀さんも落ち着いてください。あー、私はこのチームのサポーターで加藤です。よろしく」


 ほかに斉藤さん、山内さん、窪塚さんが嶋崎さんのチームメンバーだ。今回は八等呪位以下が相手なので、嶋崎さんがPTから抜け俺が入る予定だったらしい。


「では、本当にPTを組まなくていいのだね?」


「はい」


「なぜ? と聞いてもいいだろうか?」


「弱くなりたくないから。と言っておきましょう」


「はぁ~、レベル上げることが弱くなる~? なに言ってるのこの子、頭おかしいんじゃない?」


 この人、うざいな。無視したほうがよさそうだ。


「ちょっと、なに無視してんのよ! 水島さんのところの子だからって、舐めるじゃないわよ!」


 いつから、クレシェンテが水島顧問のものになったんだ? 雇っているのはこっちだぞ。


「やめたまえ、帯刀くん。すまない、風速くん。彼女は水島さんの最後の直弟子でね。水島さんが自衛隊ではなくクレシェンテに所属したことに、少しばかりやっかんでいるんだ」


「興味ないです。それより、まだ出発しないのですか?」


「こ、このクソガキ!」


 斉藤さんが帯刀さんを後ろから羽交い絞めにし、山内さんが前から押さえている。嶋崎さんは頭を抱えている。


 知らんがな。


 加藤さんが背負う無線機から通信が入り。このチームが出発していいと連絡が入る。なるほど、これを待っていたのか。


 歩きながら、嶋崎さんが先ほどの俺の言葉に質問を投げかけてくる。


「あれは前に言っていた促成栽培は強くなれないということだろう?」


 この人わざと聞いてきているな。ほかのメンバーに聞かせたいのか? 一度説明しているのだから自分で説明すればいいと思うのだが。


「前にも言ったとおり、格下の化生モンスターでレベル上げをするのはナンセンスだ。本当に強くなりたいなら、格上と戦うしかない」


「あんたねぇ! そんなことしたら多くの人が死ぬわよ!」


「はぁ~、サポートをしっかりすれば問題ない。うちではそうしている」


「言いたいことはわかるけど、現実的ではないと思うよ」


 なぜ、そう思うのかが理解できない。もしかして自衛隊には課せられたノルマがあるのか? だから、安易に質より量で補っているとか?


「何が現実的ではない? 弱い促成栽培ホルダーを何人も作るくらいなら、時間をかけて強いホルダーを作ったほうが、何倍も成果が得られトータルで相当違ってくる」


「だが、自衛隊に年に五十人以上のホルダーが集まる。その者たちを強いホルダーに育てるために要する時間、労力、金は相当なものになる。簡単ではない」


 この人たちはどれだけの時間と労力をかける気なのだろうか?


「うちの二軍はホルダーになってまだ三週間だが、もうあのチームだけで七等呪位を狩れる実力を持っている。人間、やる気になればやれるものだ」


 まあ、俺が付きっきりだったけどな。


「三週間って……レベルはいくつなのよ?」


「たしか十か十一だったな」


「……」


「そのレベルで七等呪位と戦わせているのか……」


「死人が出ていないのが不思議だ……」


「鬼だな……」


 だから! サポートをちゃんとしていると言っているだろうが!


「風速くんの言いたいことはわかったが、それでは八等呪位以下が増えてどうしようもなくなるが?」


「誰もまったく狩るなとは言っていない。レベルが上がらない程度に数匹狩るのなら問題ない。それにだ、七等呪位を狩れば、八等呪位二百体を倒したことと同じになる。ちんたらと八等呪位以下を狩るくらいなら、七等呪位を減らすほうが効率的だ」


 増える分を減らしていけば、自ずとそれ以下が減っていく。。なぜ、こんな簡単なことが理解できないんだ?


 逆に理解に苦しむ。




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