192.訓練初戦

「そこまで言うなら、あなたの実力を見せなさいよ」


 面倒くせぇな。


 嶋崎さんに昨日の一条さんとのランク戦のことを、この人たちは知らないのかと目で問う。


 嶋崎さん、俺の目での問いを理解したようで首を横に振る。


「いいでしょう。八等呪位を俺一人で狩りましょう」


 数体なら問題ない。力を見せつけて、後は後ろを付いて行くだけでいいだろう。


「八等呪位くらい私たちでも一人で倒せるわ。あまりでかい口はきかないことね。せいぜい、頑張って泣き言を吐かないようにすることだわ」


 別に七等呪位でもいいのだが、十八時を超えないと出てこないから仕方がない。


 ゴミ拾いをしながら遊歩道から樹海の奥に入っていく。思った以上に化生モンスターがいるな。


「思った以上にいるな」


「ここは観光地だからね。エサには困らない。定期的に駆除しても増える一方だ」


 人がいればエサには困らないか。意外と観光地も狙い目なのか? 調べてみるか。


「なんで、大元の七等呪位を狩らないんだ?」


「あんた馬鹿でしょう? 夜にこの樹海に入るなんて正気の沙汰じゃないわよ!」


「なら、増える一方なのは当たり前だろう。そっちこそ馬鹿か?」


「くっ、このクソガキ。言いたいこと言って!」


 いやいや、本当のことだろう? 化生モンスターを減らしたいなら七等呪位を狩るのが一番だ。さっきから俺はそう主張しているよな。


「そろそろ、訓練を始めるぞ。位置につけ。風速くんは加藤と下がっていてくれ」


 狙いは九等呪位の化生モンスター鈴大蛇ベルアナコンダだ。デカい蛇だな。確か幻術を使う化生モンスターだ。


 バトルフィールドが展開された。樹海だから誰も来ないから必要ないと思うのだがと思っていたら、加藤さんがその答えを教えてくれた。


「バトルフィールドを展開すると、装備が自動で変わるだろう。便利なんだよ」


 なるほど、いちいち自分で装備を変える必要がないからか。納得した。


 しかし、訓練とはいえ、九等呪位に対して大袈裟じゃないか? フォーメーションまで組んで相手をしている。


 ちなみに、加藤さんは89式小銃を装備している。


「銃って化生モンスターに効くんですか?」


「そりゃあ、効くでしょう。熊だって倒せる威力があるんだから。海外じゃあ、銃を愛用するホルダーは多いらしいよ。この国じゃ無理だけどね。どうしてそんなことを聞くんだい?」


「よくラノベなんかだと、現代に現れるモンスターには銃が効かないのは定番なんで、お約束かなと?」


「おじさん、そういうの読まないからわからないけど、そいうものなんだ?」


「そういうものなんです」


 そりゃあ、銃のほうが手っ取り早いよな。弾の値段さえ気にしなければ剣などで戦うより効率はいいかも。


「でもね、銃には限界があるんだよ。銃にはステータスの値が反映されないから、剣などより攻撃力が低いんだ。攻撃力を上げるには大型銃器を使うしかない。64式7.62mm小銃なんてのもあるけど、これのほうが性能がいいんだよねぇ」


 と言って89式小銃をポンポンと叩く。


 無線機からはほかのチームも化生モンスターと遭遇し戦闘になっている報告がひっきりなしに入っている。


 嶋崎さんのチームメンバーのレベルは七十台半ば、本来なら九等呪位にこんなに時間が掛かるはずはないのだが、訓練なのでいろいろとしているのだろう。余裕をかまし遊んでいるようにしか見えないな。


 そんな中、山内さんが妖術にやられたようで、まったく見当違いのほうに火魔法を使った。


 おいおい、山火事を起こす気か!? 事前に火、炎系の魔法、技は使用禁止と言われていただろうが! 動揺して忘れたか!?


「おっと、私の出番だね」


 そう言って加藤さんが山内さんに近寄っていく。小瓶を持っていから異常状態の回復薬だろうな。


 って、山火事のほうはいいんかい!?


 周りは枯れ木ばかりで火の回りが早い。仕方がない。こんなところで火に巻かれるのは勘弁だ。氷薄の剣を出して水球で消火活動を開始。何度も水球を放って火を消して回る。


 消火が終わった頃に向こうも化生モンスターを倒し終わったようだ。


「山内、どうして火魔法を使った!」


 嶋崎さんの叱咤が飛ぶ。当然だわな。


「すみません……混乱させられたようで、自分は使う気はありませんでした」


 あの幻術は混乱だったのか。だが、相手は九等呪位だぞ? そこまで強い幻術とは思えないが……。


 その後も嶋崎さんの駄目出しが飛ぶ。フォーメーションが崩れただの、連携がなんちゃらなど。


「いつもこんな感じなんですか?」


「いやいや、今日は訓練だからだよ。いつも使っている武器防具は使わず、ほとんど飾りみたいな武器防具を使っているんだよ。じゃないと訓練にならないからね」


 訓練と言っても九等呪位だぞ? 遊んでいても勝てる化生モンスターだと思うのだが。


 本当に五等呪位と戦っているのだろうか?


 もしかして、嶋崎さんにおんぶに抱っこなのか?


 それとも相当に凄い武器防護を装備しているのだろうか?


 疑問ばかりが浮かんでくる。




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