185.釣果大物

「どうだった?」


「負けると思うか?」


 本当に水島顧問は失礼だな。


「一条さんに勝ったのか!? 嘘だろう……」


 俺と話しをした水島顧問と嶋崎さん以外は、一条さんが勝つと決め込んで騒いでいる。もう、終わっているぞ?


 見ろ、一条さん、顔を青くして震えているじゃないか。あれが勝った者の表情に見えるか? なんか、一気に老けたなって顔だ。


 そして、周りも一条さんの様子がおかしいことに気づき始める。足元もおぼつかないようで、人の手を借り天幕のある場所に移動している。


 なんか、天幕内が騒ぎになっているな。嶋崎さんも行ってしまった。


「なにかありましたの?」


「騒がしいが、恢斗じゃないだろうな?」


 瑞葵たち女性陣が戻ってきた。月山さん、もの凄く目が泳いでいるのですが? そして麗華、鋭い!


 そして、なぜか戻ってきた嶋崎さんに連行される俺。俺が何をしたというんだ!


「やはり君か……」


 その可哀そうな子を見る目はやめれ、沢木管理官。ここは警察庁ではなく防衛省ですよ。


「俺は何もしていないぞ?」


「人様を精神崩壊に追い込むことが何もしていないと?」


 精神崩壊って、一条さんって精神崩壊を起こしたってこと? じょ、冗談だよね?


「もちろん、冗談だ」


 笑えねぇーよ!


「だが、やりすぎだ。君は手加減という言葉を知らないのかね?」


「向こうが胸を貸すと言ってきたんだぞ? それも本気でこいって言っていたし」


「……」


「彼が渦中のホルダーですか。聞いていましたが、本当に若いですね」


 なんだ? このイケメン隊員は。ハーフっぽいな、普通に俳優をやれそうな顔面偏差値。細マッチョで背も高ぇな190cm超えてそうだ。年の頃は三十代半ばくらいだろうか?


「うむ。紹介しよう。クレシェンテのエース風速恢斗かぜはやかいとくんだ」


「どうも?」


 で、誰よ? このイケメンは。


塚原闘馬つかはらとうまだ。これでも日本ホルダー界のトップを張らせてもらっている」


「トップ? 総理大臣や天皇じゃなくて?」


「はぁ……。そちらのトップではなく、現日本最強のホルダーということだよ」


 沢木管理官は呆れた顔をし、塚原さんは苦笑いしている。


 ああ!?、そういうこと? って、日本最強ホルダー!? デ、デカいのが釣れたな。余りにも大物すぎて驚きが隠せない。


 塚原闘馬つかはらとうま Lv152 ホルダー10


 ヤバいレベルだな。あり得ないが適合率150%以下だとしても、今の俺と同等。このレベルで適合率も高いとなると、本物の化け物になるな。


「ホルダー10?」


 最強のホルダーなんだよな? あっ、前にホルダーの一位から九位までは固定されてるって言ってたな。


「今更ながら君がホルダー初心者だと実感させられる……」


 沢木管理官は更に呆れた顔をし、塚原さんはどちらかというと驚きの表情。


「ホルダーランクの1~9は固定されている。その方たちは人ではない。畏れ多くも護国の神使と仏である」


 まさかの神の神使と仏だとは……。まあ、そんなことはどうでもいい。


「1~9まで固定されていることは聞いている。が、本当にホルダー1にはなれないのか?」


 この辺はモチベーションに関わるから大事だ。


「君はホルダー1になりたいのか? なれるかは別として挑戦はできるぞ? 私も何度か挑戦しているが、未だに手も足も出ないがな」


 まじっすか!? 神使や仏と戦えるのかよ!


「水島さんは何をやっているのだ? まだ、説明を行っていないのか?」


「残念ながら、まだ資料の整理が終わっていない。あの人PC音痴で四苦八苦だ。それ以前に、あんなわかり難い資料を作って渡してくる、ホルダー管理対策室が悪いのでは?」


「それを言われると何も言えんな。言い訳になるが、元々、表に出す資料ではないのでね。集めた資料を重ねていくだけなのだよ」


「自衛隊や警察では教材はどうしているんだ?」


「口伝だよ。メモも取ることも禁止していて、それに対して罰則もある。まあ、どこまで強制力があるかは疑問だがね」


 なるほど、一応クレシェンテに対して約束どおり譲歩したってことか。


「こんな素人に一条さんが負けたのですか……。正直、信じられませんね」


「私もだよ。だが、彼は大陸の工作員、それも殺し屋役を実際に潰している。驚くほど一方的に、そして傷ひとつ負わずにな。その実力は本物としか言いようがない」


「私もその映像は見ました。顔を隠されていましたが彼だったのですか……。私でも躊躇するような情け容赦ない攻撃で驚きました」


 おいおい、あの映像が出回っているのかよ! 個人情報の漏洩じゃないのか!


「いやいや、何も聞いていないぞ? それに肖像権の侵害だ!」


「クレシェンテには了解をもらっている。顔も画像処理しているので問題ない。おかげで、大陸の工作員の実力、やり方を知るいい教材となっている。君には感謝しているよ」


 まじかよ……。聞いていないんですけど、月山さん!


「なら、感謝の気持ちを別のものでくれ。こっちは命懸けだったんだからな!」


「映像を見る限り余裕そうだったが? まあいい、考えておこう」


 言質は取ったぞ!


 取りあえず、貸しだからな!




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