184.海老で鯛を釣る

 だんだんと佐々木さんは俺の攻撃を捌ききれなくなってきているが、それでも有効打を受けないのは死線を潜り抜けてきた経験の差だな。


 そういう経験をしてきた人材がうちに欲しい。水島顧問もそうなのだが、あの人ホルダー辞めちゃってるかなぁ、実戦でそれを見せることができない。


 切実に副顧問とかで誰か来てくれないだろうか?


「そこまで!」


 俺の長剣が佐々木さんの首に当てられている。もちろん、寸止めだ。


「つ、強いな君は。長年鍛えている私が自信を失いそうだ」


「いい勉強になりました。ありがとうございました」


「そう言ってもらえると、少しは慰めになるかな」


 三勝一分けでチーム戦勝利。


「俺だけ引き分けかよ……」


「すねるな、健志。お前の頑張りで、俺たちの闘志に火が点いたんだ。誇っていい」


「ア、アニキ!」


 俺たちが喜びを示す一方、自衛隊員側はちょっとしたお通夜状態。まさか一勝もできずに終わるとは……って感じか?


「相手が侮っていたからの勝利だ。ここで気を抜くことのないようにな」


 水島顧問から指導が入る。こういうことは、俺が言ってもあまり効果がないから助かる。年の功と言うべきなのか重みがあるんだよな。


 お通夜状態の自衛隊員側には嶋崎さんがおり、みなさんが直立不動で立ち真剣な表情で嶋崎さんの言葉を聞いている。そのせいで、自衛隊員の闘志にも火が点いたようだ。今までのどこか少し侮っていた感じの目の色とは違っている。


 うむうむ、楽しくなってきたぞ。


「訓練がマンネリ化していきていて、この訓練に対するモチベーションが落ちていたのは否めない。だが、嶋崎くんの言葉で全員に火か点いたぞ。今までのようにはいかないからな」


 水島顧問、あんたはどっちの味方だ? こういうところが信頼できないところなんだよ。


 その後、三戦行ったが残念ながらチーム戦での勝利はなかった。中堅ホルダーの意地を見せられたって感じだ。が、いい訓練にはなった。もちろん、俺は全勝した。全戦、本気を出していない。正直、不完全燃焼気味だ。


「化け物だな……」


「まだ、大学生だとよ……」


「模擬戦では負けたが、ホルダーとしてなら負けていない!」


 いろいろな言葉が飛び交うが、ホルダーなら負けないってか? どうだろうな? この人たちは中堅クラス、健志たちよりは間違いなく強いが、俺相手では力不足だろう。


 時刻もそろそろ夕方。もう訓練を行っている者たちも少ない。月山さんからホルダーを受け取り、最初に集まった場所に移動する。明日の予定と今日の訓練終了の挨拶があるそうだ。


「おう、小僧。生きていたか。はっはっはっ!」


 ピンピンしている。正直、体力はあり余っているくらいだ。


「どうだった? 嶋崎」


「体力はうちの隊員に負けていません。体術ではうちの若手を圧倒し、剣術でも佐々木隊長以下三名を降しています」


「おいおい、まじかよ!? 佐々木が負けたのか? どうせ、小僧だと思って侮っていたんだろう。まだまだ、修行が足りんな」


「一条二等陸尉殿、僭越ながら具申いたします。私は一切手を抜いておりません。負けたのは彼の実力によるものです」


「本気でか?」


「本気でです」


 まあ、模擬戦でのってが付くんだろうけどな。


「面白い。約束どおりランクバトルで相手をしてやろう。現役の守護が胸を貸してやる。リクエスト、ホルダーランクバトル」


『ホルダー232よりランク戦の要請がありました。受けますか?』


 もちろんだ。


『仮想バトルモードに移行します』


 目の前に立つ一条さん、何というか厨二溢れる装備だな。


 全身真っ赤な鎧に骸骨の兜、手に持つは青い水晶のような西洋槍。どこの蛮族だよ!?


「なんでもありでいいぞ。初手は譲ってやる。本気でこい!」


 初手は譲ってやるってのみんな好きだよなぁ。どうする? この人相手に訓練するか? でもなぁ、なんか気に入らないんだよ、この人。


 自由奔放、豪快そうに見せているが、どこかこちらを見下している。まあ、それだけの実績と実力を持っているからだろうけど。


 ここはこの人を餌にして大物を狙ってみるか。


 となれば、一撃必殺だよな。


「そうですか。では、逝かせて差し上げましょう」


「ん?」


 現状最強の小太刀・威霙を持ち、身体強化!


 続いて、直撃!


 そして、秘剣ソリッドスラッシュ!


 仮想空間が真っ二つになった。


『YOU WIN』


『ホルダーランクが上がりました』


『ハイランクキラー達成により比率が加算されました』


『ホルダーにアイテムを送りました』


『7400000ポイントが加算されます』


 なに!? ハイランクキラーが上がっただと? 今までこんなことなかったぞ?


 待てよ。一条さんはホルダーランク232、俺はホルダーランク2591だった。その差は2359になる、2000以上の差で得られるのか? 今回でホルダーランクが1799になった。となると、もうチャンスがない……なんてこった!


 もらえたポイントも凄いな。アイテムは……剣技の書だ。 小技 水簾の如し、効果は受け流しの技だ。火、炎属性無効まで付くのかすぐに使おう。


 いやぁ、思った以上の成果だな。


 あとは大物が釣れるかだ。




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