183.乾坤一擲
次鋒昌輝は手に長剣を持ち、腰の後ろに短剣を差している。相手も長剣を持っている。
審判の始めの合図で両者が動きだす。相手は俺たちを若造と侮ることをやめたようだ。眼光鋭く、昌輝を窺っている。
昌輝が先に動いて攻撃。相手は剣で受け流し反撃、動きに油断も隙もない。
うーん。油断してくれていたら、初見殺しも有効だったのだけど、ここまで慎重にされると難しいか?
昌輝も悩んでいるな。考えることはいいことだ。ただ闇雲に戦うより己の糧になり、実力を高める。勇樹はこれが苦手なんだよなぁ。だから、特訓で体に覚えさせるしかない。性格なのだろうか? それとも、若さ故か?
何度か斬り合い、相手が昌輝の実力を見定めたのだろう。攻撃の手を強めてきた。昌輝も防戦一方。
とここで昌輝が仕掛けた。態勢を崩す仕草を見せる。ちょっとわざとらしくねぇ?
しかしだ、相手はその動きに乗って攻撃を仕掛ける。そこに腰の後ろから抜いた短刀を受け身を取るように回転しながら投擲。相手はまさか短剣を投げるとは思っていなかっただろう。慌てて長剣で短刀を払ったところに、昌輝が飛び込み胴に長剣を当て勝負あり。一勝をもぎ取った。
相手の方は呆然。まさか、負けるとは思っていなかったのだろう。実力でいえば間違いなく昌輝より上だったからな。ちょっとわざとらしかったが、初見殺しを見事に決めた昌輝の作戦勝ちだ。
乾坤一擲の勝負で勝利を掴んだな。これは昌輝にとって大きな経験となるだろう。
さすがにここで、嶋崎さんの叱咤が飛ぶ。
「相手を格下と思うな! 同等、いや格上と思って戦え!」
一勝一分け。陸が負けても俺が勝てばチーム戦勝利。
「勝ってきてもいいんだからな?」
「……イエス、ボス」
昌輝の勝利に触発されたのか、珍しく陸がやる気だ。
副将陸は長剣に腰に三つの短刀を差している。投げる気満々だな。相手もそれを察知してか、盾を取りに行き戻ってきた。
始めの合図で陸が素早く動き先制を取る。相手の動きが鈍いな。投擲を警戒しているっぽい。それでも、堅実な防御を見せるので腕は確かなようだ。
陸が隙を突いて足元に短刀を投擲。難なく躱される。陸の攻撃が下段に集中しているのは何かの策か?
何度か攻防を繰り返し二投目の短剣も足元狙ったが盾によって防がれる。残り一投分だな。
なんて、考えていたら陸の奴持っていた長剣を相手の顔目掛けて投げやがった!? 相手は下段ではなく、顔に向かって投げられた長剣を慌てて盾で防ぐ。
するとどうなるか? 顔を盾で守ったせいで、陸の動きを一瞬見失う。
その隙を突き相手の懐に潜り込み、朽木倒!? 新陰流の無刀取りか!
倒れた相手に腰の後ろの短刀を抜き、首に当てる。下段に注意を向けさせての上段への投擲。それも主の武器を投げるとはな。すべてがシナリオどおりだったのか? だとすると、陸って凄ぇな。
さすがに周りで見ているギャラリーも声が出ない。審判も終了の合図を忘れているほどだ。さっき嶋崎さんの叱咤が飛んだばかりだったからな。まさか、負けるとは思っていなかったのだろう。
戻ってきた陸の労をねぎらってやる。
「やるな、陸」
「……当然」
言うじゃないか。こうなると負けていられない。
長剣と小太刀を携え前に進み出る。
「二刀流か? 普段からか? それとも、奇を衒ってか?」
相手は隊長の佐々木さんだ。獲物は槍だな。
「二刀流スキルを持っている。と言えばわかるよな」
「なるほど。うちの連中も最初は憧れてやっているが、使い勝手が悪くたいていは諦める奴が多いんだがな」
ステ値が高くないと、確かに上手く扱えないだろう。だが、扱えるようになれば、攻防一体が可能で手数が増えるのが二刀流。諦めるのが早いんじゃねぇの?
剣を構える。本来なら長剣を上段、小太刀を中段に構えるのが剣道での構えらしいが、ここはゲームで見た腰を少し落とし長剣を背中に小太刀を中段斜めに構える。意味はまったくない。格好いいかなぁって感じ。
始まりの合図で佐々木さんに飛び込む。相手は槍、こちらの間合いでやらせてもらう。槍を回転しつつ俺の攻撃を防ぐ。伊達に隊長はやっていないな。
槍を回転させ守り攻めを変えながら相手をされる、やり難い。そして、この動きは槍の動きじゃないな。一旦離れる。
「棍か?」
「ご名答」
ビシッと穂先を突き出し構える。
わざと槍を持って騙そうとしたわけだ。だが、その思惑に反して、俺には槍と棍の扱い方の違いがそこまでわからないんだよ。せっかく、考えたのだろうけど無駄になって、ゴメンな?
なので、俺のやることは変わらない。二刀流の扱いは日々の戦いで体が覚えている。相手の攻撃を捌き手数で相手を圧倒して叩き潰す。ホルダー能力が使えないから、ただそれだけ。
小細工は必要ない。手数で押す。付焼刃の剣術がどの程度通用するか知りたい。負けたっていい、どうせ訓練だ。チーム戦も陸のおかげで勝利しているしな。
「くっ!? まだ、速くなるのか……」
あれ? 意外と通用している?
まだ、本気じゃないぞ?
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