181.やりすぎか?

 俺もローキックを受けた足が腫れている。歩くのもきつい。月山さんからホルダーを受け取り、プチ回復で治療。復活!


「大丈夫なの? 風速くん」


「その言葉、相手に言ってやってください」


「そ、そう。ほどほどにね……?」


 相手も本気できていた、ならばこちらも手加減は無用。


「ホルダーなしでも、この強さか……。治療はいいのかい?」


「自分で治した。気にするな」


「ちょっとうちの若手がやんちゃした、すまない。それと、BP回復ではなく、治療か。多才だな」


 嶋崎さんはそう言うが、自衛隊員はどうやって戦闘中に回復しているのだろうか?


「それこそ気にするな。報いは受けさせた。ちゃんと、ホルダーの治療を使わないと後遺症が残るくらいのな」


「す、すぐに言っておこう。おい!」


 嶋崎さんが傍にいた隊員に指示を出して、治療班の下に走らせる。


「聞いてはいたが、容赦ないな。君は」


「最初に仕掛けてきたのはあいつだ。俺に文句を言う前に、ちゃんと教育しろ」


「……」


 俺だって相手がマナーを守るなら、こちらもマナーを守る。だが、そうでない者に手加減する必要などない。


「聞いていいのかわからないが、自衛隊員の回復持ちってどれくらいいるんだ?」


「回復か? 全体の二割くらいだろうか? 回復スキルを得るのは運だからな。まあ、自分で回復が間に合わない時はサポートが行う。そのためのサポートでもある」


 なるほど、自衛隊らしいな。回復も後方支援に含まれるということか。それと、回復スキル習得方法は確立されていないようだな。


 その後も昼まで三回の手合わせが行われた。


 結局、健志と昌輝は全敗。陸が惜しく三勝一敗。俺は全勝で終えた。俺以外のメンバーには普通に対応してきたが、俺に関しては敵意むき出しで攻撃してきたので、全員治療班送りにしてやった。


 それと。相手を信用していないわけではないが、うちの男性メンバーの回復は俺がすべてやった。傷物にされては困るので。


 昼食は自衛隊で用意したようで、なんと食べ放題。カレーを食べ、次は焼きそばを食べようと思っていたら瑞葵たちも戻ってきた。


「恢斗……あなた、話をちゃんと聞いていましたの?」


「さすがにやりすぎだと思うぞ。恢斗」


 なにを言っているんだ? こいつら。


 俺が治療班送りにした連中のことを言っているのか? 確かに関節を外したりとかしたが、すべて自業自得だ。そうされるだけの攻撃をしてきたのだからな。


「と言っているが、嶋崎さん、水島顧問、どう思う?」


 月山さんは俺を見ないようにして現実逃避をしている。


「そ、そうだな。うちの連中が八割くらい悪いかな……?」


「喧嘩両成敗だな」


 それは酷くないか? 水島顧問。


「ですが、女性隊員からは風速さんに対しての同情が多かったです」


「そうそう、ざまぁ~って言ってました」


 いいぞ! 朱珠、葵もっと言ってやれ!


「はぁ~、午後の訓練も気が滅入りそうですわ」


「ほどほどにしてくれよ? 恢斗」


「相手に言ってくれ」


 月山さんのため息が聞こえる。


 午後からは武器を持っての手合わせが行われる。武器といっても本物ではなく、スポーツチャンバラで使われるエアーシムレス製の物を使う。長剣、小太刀、短刀、槍、棒、杖、盾に銃剣まで用意されている。さすがに大ハンマーや斧は無いようだ。


 そして俺たちの相手は午前中を教訓にしたのか、若手ではなく三十歳以上のベテラン勢。女性連中は午前中と同じで女性同士でやることになった。


「うちの若手をぼこぼこにしたそうじゃないか。君の相手した一人はレンジャー徽章持ちもいたのだがな。嶋崎三等陸尉のお墨付きとはいえ、末恐ろしい若者だ。いくつだね?」


二十歳はたち。大学二年です」


「はぁ~、本当に若いんだな。うちに来ないか?」


「自由もない、報酬も見合わないので嫌です」


 国に縛られるなんてまっぴら御免。所詮、自衛隊員は公務員なので給料も成果に見合わない。


「興味本位で聞くんだが、月にいくらぐらい稼ぐんだ? 言いたくないなら言わなくていいぞ」


「ポルシェ911カレラが一台買えるくらいでしょうか」


 今月は七等呪位七体+αだからこのくらいか?


「まじかぁ……。おっちゃん、雇ってくんね?」


「「「佐々木隊長!?」」」


 自衛隊のホルダーの中堅どころって感じの人だな。ホルダーとしての実力はわからないが、隊長を任されているくらいの人だ経験は豊富だろう。こういう人材は今後を考えると二人くらいは欲しいな。


「構いませんよ。うちの上役が来ていますので話を通しておきましょう」


「すまん……。冗談のつもりだったんだ……」


「残念です。部隊長経験者ですから、こちらとしては願ったりの人材だったのですが」


 何人かの唾を飲む音が微かに聞こえた。意外と声をかければ釣れるか?



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