180.訓練開始

 もちろん、訓練中はホルダーを装着することは禁止。純粋な生身での訓練になる。まだ、ホルダーに成りたてのうちのメンバーには不利な条件だ。まあ、ホルダーの能力を使ったら訓練にならないか。


 訓練の最初はランニング。この演習場の中だからランニングといってもトレイルランニングになるな。15km走るようだが高低差もあるから結構きついぞ。


 うちの二軍が一番苦手とするスタミナ増強訓練。特に自宅警備員葵にはきついな。死にそうな顔して走っている。だが、その反面男性隊員にちやほやされまんざらでもない様子。


 ランニングが終わると筋トレ。これは慣れたものなので、多少隊員のみなさんに遅れるがなんとかついて行けている。なのだが、最後にやった屈み跳躍は俺でもきつい。ちゃんと跳ばなかったり屈まないと教官から檄が飛んでくる。


 俺たちだけでなく自衛隊員までもが同じ状況。厳しくない?


 筋トレが終わると俺たちはなぜか見学に回される。何が始まるのかと思ったら、木銃を持ってのほふく前進。全部で五種類あるらしいが、今回はその中から二種類を俺たちに見せてくれるための演習。


 みなさん真剣。と思ったらホスト役の嶋崎さんから裏話がポロリ。


「クレシェンテのお嬢さんたちがあまりにもお美しいので、若手が張り切ってね。本当は数部隊だけで第四ほふく前進をやるはずだったのだが、どうしても俺たちにもやらせろと第三ほふく前進も急遽やることになった。いいところを見せたいのだろう」


 まじですか……。確かに女性隊員は少ないがいないわけではない。全体の一割くらいはいると思う。その女性たちに失礼だろう! とは言わない。


 瑞葵と麗華はモデル体型の誰もが認める美人。朱珠と葵は可愛い系で自衛隊員から見れば、守ってあげたくなるか弱い女性に見えるのかもしれない。これは男の性だ、仕方がない。


 ただ、やはり女性隊員からは冷めた目線が向けられている。これも仕方がないな。


 争うようにほふく前進していた男性隊員の演習も終わり。少し休憩した後に格闘術での手合わせを行う。


 残念ながら、うちで格闘をできるのは俺と合気道をやったことがある麗華、空手と新陰流の柔術を習っている陸くらいか。ワンチャンで健志の喧嘩殺法もいけるか? 無理だろうな。


 自衛隊は自衛隊特有の格闘術が三つあり、そこに徒手格闘があると聞いている。要するに自衛隊員全員が学んでおり、ホルダーなら尚更ということ。


 空手の試合で使うようなプロテクターを着けての手合わせ。金的以外はなんでもありの本気でやっていいと言われた。まじか!? 


 そして始まるうちの女性陣の争奪戦。おいおいって感じ。セクハラじゃねぇの? さすがに女性隊員から待ったがかかり教官に物言いが入る。そして協議になり女性は女性同士で行われることになった。本来は男女関係なく行われているそうだ。憐れ、男性隊員。


 その恨みがなぜか俺たちに向けられる。ギラギラした目付きで睨まれる。いやいや、俺たちだってやったことないからね!


 先鋒、健志。意気込み喧嘩殺法を駆使して戦うが、まったく相手にされていない。胸に正拳突きをくらい、崩れたところで関節技を決められギブアップ。


 こりゃ、素人には勝てませんわ。練度が高いし容赦がない。さっきの正拳突きも当てられた瞬間、息ができなくなったと健志が言っている。本気ではないにしろ、そのくらいの威力で攻撃しているということだ。


 次鋒、昌輝。格闘経験まったくなし。瞬殺されるかと思ったが意外と善戦。最終的に負けはしたがいい動きだった。どうやら、覚えているプチ剣術の動きをトレース応用していたそうだ。俺がやっている考えと同じだ。意外と昌輝は考えて戦っている。意外と指揮官向きか?


 中堅がいないので副将、陸。こいつは黒帯持ち、試合にも慣れているようで、自衛隊員相手に問題なく戦えている。陸のローキックが入るといい音がする。痛そう……。


 終始安定した戦いで最後締め技が決まり、相手がギブアップ。初白星となった。陸の相手はホルダー能力のある治療班に治療されている。そのくらいのダメージを受けたということだな。


 そうなったことで、相手の目付きが変わった。まさか、負けるとは思っていなかったのだろう。舐めプをやめて本気モードってか?


 大将、恢斗。言っとくが俺も柔道黒帯だぜ。そうそう、負ける気はない。相手は若手のエースっぽい。本気モードになったとはいえ、こちらを見下した態度が気に入らない。


 相手は執拗にローキックを多用してくる。嫌らしい戦い方だ。そして、痛いんですけど!


 俺だって化生モンスターを相手に体術の訓練をしているんだ、ホルダーのステ値がなくとも体に覚えさせている。訓練は裏切らない!


 そろそろ、頭にきていたのでこいつをる。


 相手のローキックを足を上げ躱し、相手の態勢が崩れたところで獅子連撃、いや、本家本元の獅子連打になるのか? 最後のサマーソルトキックが決まると歓声が上がる。


 倒れ込んだ相手にすかさず、柔道では禁止技の足緘を決める。相手は苦痛に顔を歪めるがプライドなのかギブアップをしてこない。ならば、どこまで耐えられるか試してやろう。


 と思って少し力を入れたらギブアップ。立つこともできず、苦し気な表情で治療班の元に運びこまれていった。


 馬鹿じゃねぇの? 


 まあ、ざまぁだ。




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