178.前乗り

 合同訓練時に着るのは自衛隊から迷彩服が貸し出しされるそうだ。水島顧問が掛け合ったらしい。それは少し楽しみだ。


 出発までに少し時間があるので、瑞葵と麗華を俺の個室に呼ぶ。


「なんですの? これから出発という時に」


「大事な話なのかい? 恢斗」


「大事な話だ。これまでの二人の戦いを見てきた。そこで、言わなければならないことがある」


「「……」」


 んー、なんかこうして二人を前にして言うのは恥ずかしいかも。


「改めてお願いする。二人の力が必要だ。俺に力を貸してくれ」


「そ、そんなことでしたの……。それは私を認めたということですわね? いいですわ。私が力を貸して差し上げますわ!」


「私も恢斗に認められ、力になれるなら嬉しい。喜んで力を貸そう。それと、違う意味でのパートナー……ごにょごにょ」


 なんか、瑞葵はドヤ顔だし、麗華は顔を赤くしてウネウネしている。まあ、二人とこれからも切磋琢磨して強くなっていこう。そして、ホルダーのトップに立つ!


 十五時にクレシェンテを赤星さんが運転してマイクロバスで出発。


 ちなみに、このマイクロバス、超高級仕様。運転席と客室が完全に隔離されていて、インターホンでやり取りする。座席も総革張りで、前に巨大なモニターまで付いていて音響設備もばっちり。個人シアター並みだ。


 二軍連中は大はしゃぎ。修学旅行生か!? 健志はアレだったので修学旅行に行ったことがないそうだ。ヤンキーってもの大変だな。


 せっかくなので、付属していたDVDで映画を流す。なぜか一番後ろの席にいる俺の横に瑞葵と麗華が座っている。ほかにも座るところがあるんだから、そっちに座れよ! なんてことはまったく思わない。


 両手に花で映画鑑賞を楽しんだが、時間的にクライマックスまで届かなかった。帰りに続きを見よう。うーん、クライマックスが気になる。


 着いたホテルを見て感じたことは、高そうの一言。特に別館のほうは明らかに雰囲気が違う。二軍は本館の部屋。俺たちは別館の部屋になる。


 チェックインして部屋に向かう。同室の水島顧問と部屋に入る。


「す、凄い部屋だな……」


 確かに凄い。クイーンサイズのベッドが二つ並んでいる。荷物を置いて部屋の奥に行けば、露天風呂がある。凄ぇな……。


 月山さんと赤星さんの部屋は広さはほぼ同じ、露天風呂が無く内風呂だけのタイプ。瑞葵と麗華の部屋はこの部屋のもうワンランク上の最高級タイプ。どんだけーって感じだ。


 明日の朝までは自由時間。月山さんからは飲みすぎないように注意されている。合同練習が八時からなので早く出ないといけないからだ。本来は朝食は朝八時からなのだが、金の力で六時に用意されることになっている。金の力って凄ぇな……。


 せっかく部屋に露天風呂があるので入ろうと思ったら、健志からスマホに連絡あり。本館に遊戯室があり雀卓があるそうで、お誘いが来た。せっかくなので、水島顧問に麻雀できるか聞いたら得意と言い切りやがった。ならば勝負だな。


 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー

 ーー

 ー


「ツモ。立直、一発、ツモ、混一色、白、裏ドラ乗った! 倍満24,000の8,000オール」


「ア、アニキ……強ぇよ」


「……この強さ、狩りだけじゃないのか?」


「……」


 水島顧問、箱てんじゃ、あーりませんか?


 あんた、背中が煤けてるぜ。


 泣きの竜泣いて半荘延長を頼む男と呼ばれた恢斗さまだぜ!



 夕食は鉄板焼きのコース料理。VIPなので、メインカウンターの貸し切り。


 女性陣がやけに艶っぽいので理由を聞くと、ホテル内のエステに行っていたそうだ。そんなのもあるのかよ! このホテル、本当に凄ぇな。


「女はデリケートな生きもの。ガサツな男と一緒にされては困りますわ」


「そ、そんなに艶っぽいかい……ごにょごにょ」


「女は磨いてこそ光るものですぅ~」


 葵、お前が言うと、元々が汚れきっていたという感じに取れるのは気のせいだろうか?


 朱珠も葵も初体験だったらしく、明日も行くと息巻いている。自分の金で行くからいいけど、貧乏人が急に金を持つと危険だ。宵越しの銭は持たないなんて言いそうだな。


 夕食後は本館の天然温泉に入り、その後バーに行くと麗華がいたので相席で一刻を楽しんだ。


 寝る前に部屋の露天風呂も堪能し就寝。爆睡だったな。さすが、高級寝具のベッド。新しい部屋に移ったらこの寝具を買おうと決めた。クイーンサイズは買わないけどな。


 朝食を食べて東富士演習場に出発。


 着いてすぐに着替えをさせられ、そのまま演習場の中に連れて行かれる。


 自衛隊員がすでに集まっている。凄い数だ。


「全員ホルダーなのか?」


「ほぼそうだ。基本六人でPT《パーティー》を組む。そのうち一人がサポート役だ。サポートは適合率の低いホルダーが任せられ、戦闘には基本加わらない」


 サポートでも一応レベル上げはするみたいだ。万が一の時にけん制用のアイテムや逃走用のアイテムを使えるようにだろう。考えられてはいるが、俺なら六人目を入れるくらいなら使役化生モンスターを二体使うな。そのほうが戦力アップになる。


「全国から集められ、東京(静岡)、島根、宮城に配属されている。だいたい、各25PTから30PTだな。そのほぼ全員が今日ここに集まっている」


 25PTだとしても6人×25PT×3か所で450人もいることになる。


 壇上にお偉いさんが現れ話がされる。ここに集まった自衛隊のホルダーを鼓舞する感じの話だった。その後に沢木管理官が現れ交流会の時と同じような説明が行われ、交流会では言わなかった現状が危機的状況にあることを強く主張し危機感を煽っていた。


 そして最後に今回実験的に民間ホルダー組織がこの訓練に参加することが話される。クレシェンテは新進気鋭の組織でこれまでの実績が説明され、今後民間組織と連携していくテストケースにすると説明される。


 どうやら、自衛隊員に発破をかけるだけでなく、俺たちにも無様な姿を見せるなよと言いたいようだな。正直、二軍が心配だ。


 一応、問題を起こしたら、個人特訓・極を行うと言ってあるから大丈夫だとは思うが。


 別の罰則も考えるか?



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