173.苦戦

「ひっ!?」


 健志がバトルフィールドを展開したことで、化生モンスターの姿がホルダー以外にも見えるようになる。


 それを実際に見た月山さんがその威圧感に悲鳴を上げ、よろけたところを水島顧問が支えた。紳士だ……。俺にはできない紳士的フォローだ。


 今日は昌輝にアンクーシャを持たせている。そろそろ、覚えてもいい頃だ。そうすればBP回復持ちが三人になり、より安定した狩りができるだろう。できれば全員に覚えさせたいが、時間的に難しいかな。


 もう少し俺のレベルが上がったら六等呪位に挑戦するつもりだ。そうなると、保険でアンクーシャを持っていたほうがいい。どこかにぱお~んいないかな? 切実に邂逅したい。


 全員が使役化生モンスターを召喚。こうして改めて見ると、脳筋ばかりだな。一体くらい魔法系を使える使役化生モンスターがいたほうがいいように思える。


 魔法系はTPを使用する分、頻繁に使うことができないが嵌れば相手の弱点を突けるという利点がある。まあ、二体目をそういう編成にすればいい。まずは、今日の試験を乗り越えてもらわなければならない。


 最初に動いたのは葵。奮闘のダフを叩いて味方全体を強化。ステ値を2%UP+高揚だが、ないよりはいいだろう。


 突撃する使役化生モンスターたちに、三尾の狐がその三つの尾から火の玉を放つ。鬼豚戦士オークウォリアーが盾で、猿猴えんこうが三節棍で防ぐが、残りの一つが小妖精鬼拳士ゴブリンファイター良銀腐犬エリートコボルドの間に着弾しその爆風で吹き飛ばされる。意外と強力なようだ。


 その隙に、背後から忍び寄っていた疾走狼プロンプトウルフが三尾の狐の尾の一つに噛みつく。いい動きだ。これが朱珠が指示を出しての動きなら言うことはない。指示なしでの動きなら疾走狼プロンプトウルフが賢いということだな。


 その使役化生モンスターたちの後ろから健志たちが参戦。なのだが、昌輝がおそらく盗むスキルを使っている。試験中だというのに余裕だな。これは減点対象か?


 ちなみに、現在、昌輝の盗むは化生モンスター一体に付き最高で三回まで成功している。盗んだアイテムは消耗品が多く、稀に武器防具があったが性能はしょぼかった。レベルが低いせいかもしれない。期待はできるスキルだ。


 その昌輝に対して健志と陸はいい動きを見せている。最初に会った頃は不安しかなかった健志だが、リーダーとしてちゃんとこの二軍をまとめている。タンクとしてもかなり優秀な部類に入るのではないだろうか。


 陸は元々、武道を嗜んでいたことから最初から化生モンスターに気負いもせず安定した戦いっぷりを見せている。あの開いているのかさえ不明な細目でよくやる。


 朱珠も安定しているな。ヤンキーな健志の彼女なので不安があったが、このチームいちの常識人だった。今も矢を射つつ、木霊を召喚して三尾の狐の動きを阻害している。


 そして、問題児がこの人。自宅警備員だった葵。短大を出ているのだから頭は悪くないはずなのだが、まじポンコツ……。


 容姿は悪くない。瑞葵や麗華といった綺麗ではないが、可愛い系で十分にアイドルをやれるだけのポテンシャルは持っている。だが、たまに見せる腐臭……。


 そして、今も使役化生モンスターにプチファイアーバレットでのフレンドリーファイアー。慌ててBP回復を行っている。凄い無駄だ。だが、運は持っている。レア化生モンスター猿猴えんこうを引き当てたからな。


 猿猴えんこうは葵のポンコツを補っても余りある貢献をしている。現に現状で一番強いのはホルダー連中を差し置いて猿猴えんこうだ。そのうえ、弱点という弱点がないのが凄い。このままレベルを上げて進化させていけば、凄い化生モンスターになると思われる。


 人の振り見て我が振り直せというが、葵は反面教師なのかもな。猿猴えんこう頑張れ。


 戦いは膠着状態。三尾の狐が多彩な技を使っていて、二軍連中が翻弄されている。


 風で火を煽り、土壁で周りを囲い、霧で惑わし、今は分身まで使っている。


 これは長期戦だな。三尾の狐のTPが切れるのが早いか、二軍の回復が追い付かなくなるのが早いかで勝者が決まりそうだ。


「一進一退だな。どうする? 恢斗」


「このまま、使役化生モンスターが倒されるくらいでは手を出す気はない。まあ、危ないと思ったら助けに入るけどな」


「ですが、倒せそうですわよ? 朱珠と葵がせっせと回復薬を渡していますわ。あの化生モンスターは回復手段がなさそうですから、時間はかかるでしょうが勝ちますわ」


 確かに、朱珠と葵がショップから初級回復薬を買って使役化生モンスターを含め全員に渡しているようだ。相手が回復手段を持たない以上、力押しで勝てるはずだ。


 しかし、三尾の狐も黙ってやられる気はないようで、今度は召喚で配下の二尾の狐を五体も喚ぶ。これで戦力が分散させられた。二軍連中にしてみれば、この状況は厳しいな。


 使役化生モンスターが二尾の狐のほうに向かったので、必然的に健志たちが三尾の狐の相手をすることになる。俺だったら、最大戦力の猿猴えんこうは残して昌輝を二尾の狐に回すな。ホルダーとしての小さなプライドだろうか? これも減点対象かな。


 水島顧問も眉間に皺が寄っているところを見ると、同じ考えなのかもな。







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