ホルダー戦線～日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる～

155.愛の鞭

　勇樹はゾンビのようにゆらゆらと起き上がってくる。

　虚ろな目をしていて怖いわぁー。追い詰めているのは俺なのだが。

　それでも立ち上がってくるということは、まだ戦意を喪失していないということだ。戦意喪失するまで、まだまだ追い詰める必要がある

　虚ろな目をした勇樹がニタァ～とした薄ら笑いを浮かべる。

「千軍万馬」

　そうきたか。残りのTPを使って一発逆転を狙ってきたな。

　だが、愚策！

　この攻撃が防がれたら勇樹には成す術がもうない。それに、千軍万馬は使うTPの量によって強さが変わるスキル。少しは回復しているのだろうけど、今まで使ってきたスキルと魔法を考えると万全とはいえない。

　やるならTPが完全に回復するまで待つか、最初のうちにTPを温存して使うかしなければならなかった。

　そんな中途半端な技でどうにかできると思っているのか？　甘い、甘いな。世界一甘いお菓子のグラブジャムンより甘い。

　目の前に騎馬兵と歩兵一人が現れる。いつものは歩兵があと一人いたはずなので、やはりTPが足りていないんだな。

　小太刀・水禍を風祈りの錫杖に持ち替える。

　騎馬兵が突撃してきた。その車線上？　馬線上から少し身をずらす。勢いを増した馬上からの槍攻撃を風祈りの錫杖でいなす。

　重いな。だが、それだけだ。俺の横を通り過ぎる騎馬兵に風祈りの錫杖から鎌鼬を放つ。馬のお尻に当たり痛みからか馬が嘶き立ち上がり、騎馬兵を放りだす。実際には嘶いてはいない。声を出していないからな。雰囲気ってやつだ。

　放り出された騎馬兵に立ち直る余裕は与えない。立ち上がろうとする騎馬兵の背後から太刀・焔を一閃、首を跳ばす。

　残るは歩兵一人だ。また小太刀・水禍に持ち替え、こちらに向かってくる歩兵を迎撃。何度か斬り合いをするが、最後は頭から一刀両断。だが、勇樹より何倍も訓練になった。

　愕然としている勇樹の下にゆっくりと歩いていく。

「くっ、殺せ……」

　くっころは姫騎士にのみ許されたセリフ。男のお前がやっても、まったく心に響かない。

「弱すぎる。そんなお前なんかに前衛を任せたいと仲間が思うか？　リーダーなら尚のことだ」

「くっ……」

「今日の特訓はこれまでだ。死にたきゃ自分で死ね。己の弱さを噛みしめてな」

　小太刀・水禍を勇樹の足元に投げる。

　勇樹が震える手で小太刀・水禍を拾う。

　おどおどした目で俺を見てくる。だから、無表情で見返す。

　震えながら小太刀・水禍を逆手に持ち……。

「う、うわぁぁぁ－－－！」

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『YOU WIN』

『ホルダーにアイテムを送りました』

『2000ポイントが加算されます』

　崩れさり膝をついて震えながら肩で大きく息をする勇樹がいる。

「な、何をした!?」

「少しばかり、奢った心を叩き直した」

「す、少しには見えないが……」

「仮想空間での出来事だ、体にはなんの問題もない」

　とは言いつつも、心に体が引っ張られることもあるから、少し反省する。

「勇樹、ステ値を紙に書いて、ドロップアイテムを置いたら帰っていいぞ」

　おどおどした目で俺を見てくる。どうせこんな状態では狩りで役に立たない。連れて行けば、ほかのメンバーの邪魔になりかねない。

「明日も同じ時間に来い。言っておくが逃げることは許さん」

　こくこくと頷いて個室に入っていく。

「やりすぎなのではないか？」

「そうだな。だが、ここで一度叩き直しておかないと、勇樹は駄目になる。瑞葵や麗華と違って、考え方がお子ちゃますぎる。このままにしておけば、必ず命を落とす。一人で死ぬならまだいい。仲間を巻き添えにしかねない。そうならないためにも、一度挫折を味わいそこから這い上がってもらう」

「鬼だな……」

「あぁ、鬼だ……。俺は人の姿をした鬼だ……」

　なんてな。んなわけあるかー！　俺は宇宙海賊の友の黒騎士じゃない！

　しばらくして、おどおどと個室から出てきた。

「じゃ、じゃあ、か、帰ります……」

「気をつけて帰りなさい」

　ぺこぺこと頭を下げて帰っていった。

「大丈夫か？　あれ」

「大丈夫じゃないか？　勇樹は一日経つと、たいてい次の日には忘れてるからな」

「……」

　健志たちが来るまでに勇樹のステ値をPCに落としておく。

「ちゅーっす！」

　健志と朱珠が来た。その後、昌輝、陸と続き最後に葵が来る。

　葵の様子がおかしい。

「大丈夫か？」

「筋肉痛です……」

「問題ないな」

「お、鬼かっ!?」

　全員が揃ったところでステータス値を紙に書かせ、ドロップアイテムを出させる。

　全員が適合率150％以下なので補正値がない。ガンガン鍛えて適合率を上げたいところだ。低レベルのうちに適合率150％を超えれば、それでけ後々有利になってくる。

　前衛のだれか一人、適合率150％を超えてくれれば、七等呪位をこのメンバーだけで狩れるようになれるはず。

　そうすれば、おのずと全員が適合率150％を超えてくるだろう。

　そのためにも厳しく育てないとな。