154.特訓開始

 奥義の書、秘剣の書から覚える剣技はレベルが上がった時に覚える技の中にはない、本当に特殊な技なんだそうだ。


 それと剣術のレベルが上がった時に覚える剣技はランダム。レベルが上がっても覚えない時もある。本当にランダムなのか? 何か法則があるんじゃないのか? 


 まあ、あっても秘匿されているんだろうけどな。


 それと、奥義の書、秘剣の書以外に剣技の書というのもあり、それは特殊な技ではなく。通常の剣技を覚えるそうだ。


 ちなみに、剣以外の武器にも同じようなものがある。


「秘剣は奥義より上の剣技。それこそ不利な戦況でも一変させる力があるという。その分使いどころが難しいらしい。私は奥義を持っていたが、秘剣は持っていなかったし見たこともない。上位の神将の数人が持っていたと聞いている」


 超レアって感じだな。


「奥義の書、秘剣の書は一生もの。オークションに出せば天井知らずだ。売るか? それとも使うか?」


「もちろん、使う。今の俺より、更に一歩前に進める力だ。使わずしてどうする」


「そうだな。君ならそう言うと思ったよ。君は私が思っていた以上に早く、ホルダーランクを駆け上がることだろう。守護、いや神将も夢じゃない」


 はぁ~、この人はやっぱりわかっていない。何を当たり前のこと言っているのだ? 守護、神将興味ないな。この秘剣の書がなくたって、すぐにホルダー界のトップに躍り出る。


 水島顧問はまだ俺のことを侮っているようだな。今までの実績を見ても尚、自分の考えを改めない。いや、改めたくないのかもしれない。


 認めたくはないのだろう、愚か故の過ちというものを。


 自分のステ振り後とドロップアイテムをPCに落としていく。そうしていると勇樹が来た。


 さてと、勇樹の根性を叩き直しますかね。


 昨日の帰りと打って変わって、何事もなかったような顔をしている。っていうか、喉元過ぎれば熱さを忘れるって奴か? 早くねぇ?


 気持ちの切り替えが早いのは勇樹の良いところではあるが、これはだめだろう! やはり、きっちりと叩き直す必要があるな。


「勇樹、特訓を開始する。拒否はゆるさん。お前はアホのうえ、なによりユルすぎる。今のままでは将来的に周りに迷惑をかけるだけだ。烏丸の高島のようにな」


 勇樹は烏丸の高島って誰? って顔をしている。そういえば知らないよな。それに対して、誰か知っている水島顧問は引きつった表情を見せている。


「PT《パーティー》で戦うえで役割は大事だ。そして、仲間との信頼関係も大事だ。だからといって、自分の役割以外は仲間におんぶに抱っこでは愚か者以外の何者でもない。リーダーとしてなら尚更だ」


 勇樹はわかったような、わからないような表情。水島顧問は俺の言いたいことを理解したようだが、顔は引きつったままだ。次代の守護を貶しているからな。だが、事実だ。


「すべて自分でやれとは言わない。だが、仲間を守れる最低限度の力は持たなければならない。そのための特訓だ。これからお前を叩き潰す。そして己の弱さを痛感し、そこから這い上がってこい」


 さすがに勇樹もここまで言われると俺を睨んでくる。口惜しいか? なら、その思い俺にぶつけてみろ!


「リクエスト、ホルダーランクバトル」


『ホルダー6545がランク戦の要請を受けました。仮想バトルモードに移行します』


「ここでの戦いは、向こうでの一瞬。時間は気にするな。痛みもなければ死ぬこともない。どちらかのBPがなくなれば終わり。本気でかかってこい」


「いいんですか? 本気を出しても」


 おうおう、睨んでくるねぇ。


「万が一、いや億が一もお前に勝ち目はない。俺のBPを半分でも減らせたら超高級寿司店に行って食べ放題をさせてやるよ」


「その言葉、忘れないでくださいね?」


「フッ、殺す気で来いよ。まあ、それでも足りんがな」


 身体強化を使いトップスピードで俺に迫る勇樹。少しは学習したか。


 俺が持つのは小太刀・水禍と忍者刀影縫い。霊子ナイフは命奪があるので手加減ができない。命奪が発動するとすぐ終わってしまう可能性がある。


 ほかの武器も攻撃力がありすぎて使えない。氷炎の杖のフレイムとか氷嵐なんて使ったら一瞬で終わってしまう。


 勇樹には何度も地面に這いつくばって苦汁をなめてもらわなければならない。一度、心をポッキリと折る必要がある。


 青龍刀を担ぐように持ち、俺に迫るスピードと振り下ろす青龍刀に乗せ大ダメージを狙っているのは丸わかり。やることがわかっていれば躱すのはたやすい。


 振り下ろされた青龍刀を躱し、小太刀・水禍にTP40を乗せ振り抜く。


 一瞬、青光りが走ったが、すぐに掻き消える。


 勇樹の唖然とした顔を見ながら、腹に蹴りを喰らわす。まったく反応できずにもろに受け転がっていく。


「芸がないな。そのやり方を教えたのは誰だ? 俺だぞ」


 なんとか立ち上がった勇樹の顔色が悪い。そんな勇樹のBPを回復をしてやる。


「ほら、来いよ。最初の威勢はどうした?」


「くっ……」


 この後もあの手この手、手を替え品を替え挑んできたが、その度に蹴り飛ばしBPを回復している。そして、当然未だに掠りもさせていない。


 一度だけ、ヤケになったのか青龍刀を投げてきたときは焦った。油断していたわけではないが、まさか武器を投げるとは思いもしなかった。


 俺もまだまだ未熟。固定観念にとらわれている。もっと柔軟な考え方をしないとな。





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