153.そして夜が更けていく

 ビールを飲み終え、スコッチウイスキーに移る。


 俺は酒はそんなに強くないので、ロックでちびちびやるタイプ。


 最初に感じるスパイシーな香りの後に、ほのかに甘い香りを感じる。味は少しスモーキーさが強く甘いというか辛いというか複雑な味わい。今まで味わったことのない味だけど、旨いな。


「なるほどねぇ。そこで男の友情が芽生えて会社に誘われたのね」


 違います。なんですか、頭にお花畑が咲いたような話は。


「違うの……実は私たち、ある人に騙されて違法なバイトをさせられていたの。その場面に風速さんが偶然現れて、その人とひと悶着あって、また警察沙汰になっちゃって……」


「あんたたちは昔から要領の悪い子だったけど、本当にお馬鹿さんね」


 昔からの付き合いなのか? ただのバイト先のお姉さんってわけじゃなっさそうだな。


「警察で風速さんが口添えしてくれて、今後の相談にも乗ってくれるって言ってくださったの」


「凄いわね。警察に口添えって。お姉さんも何かあったらお願いしようかしら?」


 なんかあるんかい! とは突っ込まないぞ。


「うちは全面的に警察に協力していますし、なんといってもホワイトな会社ですから」


 ホルダー管理対策室とは今のところ、ギブアンドテイクの関係だな。決して脅迫なんてしていない。脅迫したのは総理秘書官にだ。


「はぁ、本当に馬鹿には違いないけど、心根はいい子たちなんでよろしくお願いね。風速くん」


 そう言って頭を下げるひろみママ。昔からの知り合いのためとはいえ、それこそ赤の他人の俺にここまで頭を下げるなんて、なかなかできることではない。


「大丈夫ですよ。本当の馬鹿をやればどうなるか、実際に見ていますから」


 健志、朱珠、陸の顔が青くなる。酔うにはまだ早いぞ。


 こうして、夜が更けていった。


 意外だったのが、寡黙かなって思っていた陸が酔っ払って服を脱ぎだし、ダブルバイセップスをやり始めたのは驚いた。意外とひょうきんな奴なのかも。


 周りからもキレてる! とか、仕上がっているよ! とか声が掛かっていた。ノリのいいお客さんとお姉さんたちだった。


 また、来よう。



 次の日、いや、その日だな。起きたのは昼少し前。


 頭、痛ぇー。


 結局、ボウモア一本空けて二本目をボトルキープしてきた。クレシェンテの名前で。果たして経費で落ちるだろうか……。なんやかんやで万札が五枚飛んでいったからな。


 風呂に入ってさっぱりとしてから出かける。下位化生モンスター狩りだ。


 その前に昼飯だな。昨日は結局ファミレスでつまみしか食べていない。その後も飯を食べず終わった。さすがに腹が減っている。ここはガツンとしたものがいいな。


 化生モンスターを探しながら銀座に向かう。スマホを見ながらお店も探す。ここだな。有名な大盛パスタのお店にしよう。


 ナポリタンも捨てがたいが、やはりミートソースでしょう! 横綱でお願いします!


 出てきたミートソーススパゲティーの凄いこと凄いこと。これは噴火した山だ。ミートソースというマグマが山の頂上を覆い隠している。スパゲティー自体はアルデンテってなに? ってくらいリスペクト。だが、それがまたいい! 給食のソフト麺を思い出す。


 いやぁー、食った、食った。二日酔いもどこかに飛んでいったな。


 新宿方面に歩きながら化生モンスター狩り。今日も十体でやめて置く。事務所に着く前に銀行のATMに寄り上限額までお金を下す。健志と陸、葵に渡す前払い金の分だ。


 事務所に着くとやはり水島顧問がいる。お盆だけどいいのかここにいて? まあ、人のことは言えないが。


「どうだった?」


「どうだったと聞かれても、いつもどおり? そうそう、筋トレで一人身体強化を覚えた奴がいる」


「たった一回の狩りでか? 内容は?」


「腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットの三十回三セット」


 意外とキツイプログラムだ。


「才能か?」


「才能というより下地があったってほうかもな。筋トレが趣味とか言っていたからな」


「なるほど。剣道を嗜んでいると剣術スキルを覚えやすいというのと同じか」


 やはり、そういうのもあるのか。麗華が合気道をしていたと言っていたから、訓練させるか。麗華は後衛だけど体術くらいは持っていてもいいだろう。


「秘剣の書ってのを特殊アイテムで得たんだが、これってなんだ?」


「本当か!?」


 嘘を言ってどうするよ? 昨日のスケルトン師匠の特殊アイテムで、やはりパ〇ェロが当らず、これが当った。


「プチ剣術のレベルが十になると剣術に昇華する。そして剣術はレベルが上がると稀に剣技を覚える。小技、大技、奥義の三種類からだ。だが、奥義の書、秘剣の書というアイテムを使うと特殊な剣技を覚えることができる。それはとても強力な剣技だ」


 ほう。それはそれは俺が渇望していたものじゃないか。


 これはスケルトン師匠からのご褒美かな。


 ありがたや~。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る