152.黄金街再び
お客さんはそれなりにいるが、ほとんどはカウンター席に座っている。俺たちは角席に案内され座った。
「この店のオーナー兼ママのひろみです。以後、御贔屓に」
名刺を渡された。俺も名刺を渡したほうがいいのだろうか?
「頂戴します。私は
座ったままだが、クレシェンテで作った名刺を渡す。
「!? ぷぷっ!」
「アニキ……」
なんで笑われた? 社会人の常識だろう?
「健志のアニキって天然? それともわざと笑わせてる?」
「おそらく、天然……」
なんだ、朱珠? 俺は天然じゃないぞ? この店のルールがわからないだけだ。健志も陸まで呆れた顔して俺を見るな。
「風速くんって、健志のアニキにしては若く見えるけど、おいくつ?」
「
大丈夫。ちゃんとお酒が飲める歳です。
「まじ!? 若いと思っていたけど、俺より年下じゃん!」
「「……」」
「一言も年上だ、なんて言った覚えはないぞ?」
言った記憶はないから間違いない。そっちが勝手にそう思っただけだ。
「ずっと上から目線だったし、警察の人とも対等にしゃべっていたから……。それにお前とか、こいつらって言っていたから、てっきり……」
「なぜ、やましいことがないのに警察にへりくだる必要がある? それに俺はお前たちの上司だ、会社設立の立役者の一人でもある。何か問題があるか?」
「「「ありません……」」」
文句はなさそうだな。
「なら、問題ない」
「ぷぷっ! 風速くんって面白いわね! お姉さん、気にいっちゃった! さあ、飲みましょう! で、どうする?」
どうすると言われても、どうすればいいのかわからない。
「健志、任せる」
「取りあえず、ビールで乾杯っしょ! 後はバーボンかスコッチでいいかな? フォア・ローゼズかボウモアだな。アニキはどっちがいいっすか?」
スモーキーの効いた力強いバーボンも嫌いじゃないが、ピートの香りと味わい深いスコッチのほうが好きかな。ちなみにボウモアという名は知らない。
「スコッチで」
「ボウモア No.1 入りました~!」
「「「ウェ~イ!」」」
なんだ? この盛り上がりは? この波に乗らないと駄目なのか? 無理だな……。
ビールのジョッキが全員に届き終わったところで、健志が立ち上げる。
「アニキとの出会いと俺たちの就職祝いに、乾杯~!」
「「「乾杯~」
「はぁ~、本当に就職できたんだ。あのヤンキーがねぇ」
ひろみママ、意外と辛辣だな。
「健志の入った会社ってどんな会社なのよ?」
「アニキ、説明お願いします」
「そうですね、警察の協力会社ってところですかね」
治安維持作業だからな。間違いではない。
「今までの健志と正反対ね。半グレ崩れの健志に務まるわけ?」
「……」
「大丈夫ですよ。基本、力仕事ですから。馬鹿をやりそうになったら、物理的に黙らせます」
「へぇ、風速くんって強いの? 健志ってこの辺では有名な喧嘩が強いワルなのよ?」
「アニキは強いよ……半端なく」
朱珠と陸が必死に首を縦に振っている。
そうこうしていると、ポテトサラダと煮つぶ貝、サーモンのマリネが皿に盛られたものが一人毎に配られる。これはお通しか? 居酒屋と同じシステムか。
「人は見た目によらないっていうけど、どちらかっていうとそちらのお兄さんのほうが強そうに見えるけど」
「……陸って呼んでほしい。俺は剣道二段と空手初段を持っているが、アニキには手も足もでないと思う」
「そこまでなの!?」
おいおい、なんで陸もアニキって呼んでいるんだ? 俺はお前の兄貴じゃないぞ? どちらかというと弟だろうが。
「ひろみさん、この前、向こうで騒ぎがあって警察沙汰になったの覚えている?」
「早い時間に起きたやつね。本当に馬鹿よね」
あれは面倒だった。狩りの予定が狂ったからな。
「それ、健志と風速さんなの」
「ぐっ……あれは、そのぅ……」
「そうなの? それで、それで?」
このママ、興味マシマシって感じだな。面白くもなんともないぞ?
「通りかかった風速さんが私たちに声を掛けてきたの、そしたら健志が喧嘩売っちゃって……」
なんで喧嘩を売られたのか、未だに理解できん。
「殴りかかったけど、全然相手にされなくて、健志がドスを抜いちゃって……」
「あんた、馬鹿でしょう! まさか、怪我を負わせたんじゃないでしょうね!」
本当にな。馬鹿としか言いようがない。
「怪我を負わせるどころか、逆にボコボコにされたの……」
「はぁ~? なにそれ!?」
「言ったろう。アニキは強いって……」
「まじなの?」
「まじだよ……」
健志程度なら何人きてもボコボコにできるな。
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