147.小さなプライド
葵以外は腹筋、背筋、腕立て伏せ三十回三セットを終了。これって真面目にやると、結構男でもきついんだよな。朱珠がそれについてこれたのって根性あるな。
四人にホルダーからスポーツ飲料のペットボトルを投げ渡す。
「少し休憩したら次の訓練に入る」
葵は二セット目がやっと終わり、地面にへばり付いている。
勇樹はダメダメだな。一旦戻して態勢を立て直させたほうがよさそうだな。
「休憩終了。これを持って二組になり10mくらい離れて位置を取れ」
砕石の入った土嚢袋を出す。葵はやっと三セット目に入ったな。
二手に分かれたところで指示を出さす。
「袋の中に石が入っているから、俺が勇樹を引き戻したら
土嚢袋から砕石を出して準備ができたところで勇樹に声を掛ける。
「勇樹、戻れ!」
「くっ!? はい……」
自分の不甲斐なさを実感はしているようだ。どうせ、後輩のホルダーにいいところを見せたかったのだろう。表情に口惜しさがにじみ出ている。
「投擲開始」
投擲が開始されガンダルヴァに石がぶつけられる。たいしたダメージにはなっていないだろうが、嫌がらせにはなっている。
勇樹が戻ってきたのでアンクーシャを渡し回復させる。
「何が悪かったかわかっているか?」
「空に飛び上がられて、攻撃が届きません」
それは悪かったことでなく、戦いの結果のことだ。
「攻撃が届かないなら、なぜ届く攻撃をしない?」
「雷光のことですか? あれはTPの消費が多いので使い勝手が悪いです」
「お前は馬鹿か? TPの消費が多いとしても、今のお前の唯一の空飛ぶ相手に効く攻撃だろう。なぜ使わない?」
「止めに千軍万馬が使えなくなるから……」
アホだな。人の話を聞いていなかったのか?
「誰がお前に止めを刺せと言った? お前、後輩ができて浮かれて、いいところを見せようとでも思っているのか?」
「そ、そんなことは……」
図星かよ!? 先輩っていったってレベル1、2の違いだぞ? アホやな……。
「お前、後で特訓決定な」
「な、なんでですかー!」
「ちっぽけなお前のプライドと、その愚かな考えを方を叩き直す」
「そ、そんなぁ……」
そろそろ、投擲組の石がなくなってきた。葵の筋トレももうすぐ終わりそう。親でも殺されたかのような凄い形相で腕立て伏せをやっているが。
「千軍万馬は当分使うな。あれにはレベル設定がないから、使って経験を積む意味がない。千軍万馬を使うくらいならほかのスキルを覚える努力をしろ。よし、行け。TPが切れたら、お前以外で止めを刺しに行くから離れろ」
「わ、わかりました」
納得がいっていない表情で飛び出していく。まだまだ、ガキだな。もう少し大人になろうや。
やっと筋トレの終わった葵にスポーツ飲料のペットボトルを渡す。
「それを飲んで休憩しろ。それと、勇樹の戦いをちゃんと見とけ。人の戦い方を見るのも勉強だ。お前たちもな」
投擲が終わった四人にも声を掛ける。
「勇樹のTPが切れたところで、俺があの
身体強化を使った勇樹がガンダルヴァに青龍刀で斬りつけ、ガンダルヴァがヒラリと空中へ飛び上がり躱す。今の勇樹では強化されたガンダルヴァに普通の攻撃を当てるのは厳しいようだ。
だが、そこは勇樹も織り込み済み。すぐに雷光を放ち、青白い光と共に雷がガンダルヴァを襲う。白目を剥いたガンダルヴァが地面に落ちてくる。結構なダメージが入ったようだ。
落ちてきたガンダルヴァに千載一遇とばかりに、渾身の一撃を放つ勇樹。ガンダルヴァの片翼が斬り落とされた。そして更に追撃。
最初からこういう戦い方をしていればいいのだ。
気持ちはわからないでもないが、格好いい大技を見せつけたいからと、小賢しい考えをするから駄目なのだ。
着実にダメージを重ねていくことが大事。身体強化系を使われたガンダルヴァは間違いなく勇樹にとって強敵。追い込まれて一発逆転を狙うならまだしも、素人が大技でダメージを狙うなど愚の骨頂。まあ、追い込まれた時点で、ダメダメだけどな。
飛ぶことができなくなったガンダルヴァだが、それでも素早さで勇樹を上回っている。勇樹の攻撃を躱しながらも、着実に勇樹にダメージを重ねていく。
勇樹が二度目の雷光を放つが、躱された。ガンダルヴァも動きを読んでいた節がある。なんの捻りもないまったく同じ動きだからな。さもありなん。それでも、あの雷光を躱したガンダルヴァは、敵ながら称賛に値する。
勇樹には何度も言っているが、もう少しクレバーに戦ってほしい。如何に相手を騙し不意を突き、自分に有利な状況を作る戦い方。もっと、泥臭い戦い方を学んでもらいたい。格好良く戦いたいと思うのはお子ちゃまの考えだ。
勇樹がこちらをチラリと見る。TP切れだな。
じゃあ、行きますか。
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