139.酒は呑んでも呑まれるな

 勇樹の顔色が悪い。


 これは低体温症かも。


 温めるしかないと思うが、どうする? 


 そういえば近くに二十四時間の温泉施設があったよな。


「赤星さん、急ぎます。着いてきてください!」


「わ、わかりました」


 勇樹を背負って走る。一応、赤星さんが付いて来れる程度の速さで。公園を出て五分ほどで目的の施設に到着。


「赤星さん、お金任せます。あと、どこか場所取りお願い!」


「了解しました!」


 フロントからタオル一式とバンドを受け取り風呂に急ぐ。


 正直、男の服を脱がせる趣味はないのだが、致し方ない。ほかのお客さんの迷惑は承知で、お姫様抱っこで内風呂に入れてやり、頭にもお湯を掛ける。


 勇樹の顔色がよくなってきた。


「た、助かった~。けど、なんか体が痒いんですけど!」


 そりゃそうだ、急に血行が良くなったのだ、全身しもやけ状態になっていてもおかしくない。まあ、一時的なものだろう。


 勇樹にはゆっくり入ってくるように言って、俺は体と頭を洗ってすぐに出る。


 ラウンジにいた赤星さんを見つけた。


「勇樹くんはどうですか?」


「もう大丈夫でしょう。せっかく来たので、赤星さんもゆっくりとお風呂を楽しんできてください。俺はレストランのほうにいますので」


「それじゃあ、お言葉に甘えますね」


 レストランの座敷の角を確保。瓶ビールと枝豆、まぐろ山かけ、揚げ出し豆腐を頼む。


 仕事終わりで風呂上りのビールは最高!


 ちょっと勇樹がヤバかったけど、結果オーライ。


 強い化生モンスターというわけではなかったけど、いいようにやられた感はある。前の時も言ったが、勇樹はもっとクレバーな戦い方を学ばないと駄目だ。


 馬鹿正直に真正面から突っ込むだけが戦いではない。PT《パーティー》を組んで前衛として戦い、サポートはほかに任せられるならいいが、いやそれもよくないのだが……。


 勇樹にはどんな状況に陥っても、冷静に判断できるオールマイティになってほしい。どんな場面にでも対応でき、初心者ホルダーを安心して任せられるようになってほしいなぁ。俺の代わりに。


 勇樹が風呂からあがってきた。


「ふっか~つ!」


 リンゴほっぺの勇樹が、クリームソーダ、ポテトフライ、唐揚げ、カツカレーを注文。


 お子ちゃまか!?


 嫌いじゃないぞ? むしろ好きだ。だが、それってファミレスでもいいんじゃね?


「なに言っているんですか、まずはお通しですよ!」


 お通しって、カレーは飲み物か! ってほかにも食う気か!? まあ、いいけど。


 勇樹がカツカレーを食べている間、ポテトフライを突っつく。


「いいお湯でした~。事務所の近くにこんな場所があったんですね~」


 トク、トク、トクっとビールを赤星さんのコップに注ぐ。


「プッハ~。まだ仕事中なんですけどね。いいのでしょうか?」


 たまには、いいと思います。


 赤星さんは海鮮サラダ、なめろう、冷奴、ぽん酒を頼む。いくねぇ。


 二人が戻ってきたので俺はもう一度風呂に入ってこよう。サウナで汗を流し露天風呂でゆっくりする。はぁ~って感じだ。部屋の風呂ではこうならないな。


 あがってくると酔っ払いが未成年に絡んでいる。ポン酒の瓶が増えているな。


「好きな子いるんでしょう~。ギャル風、大和撫子風~? そ・れ・と・も・わ・た・し? ぎゃははは!」


「な、なに!? 言ってるんですかぁぁぁ!」


 なんだ、勇樹は年上好みか?


 緑ハイと豚の角煮、〆のチキン南蛮定食を、ついでに赤星さんがサーモンのお造りといくらご飯、そして追加の日本酒を注文。勇樹が釜揚げしらすご飯と天ぷら山かけそば、そしてコーラ。


 この二人、容赦ねぇな。


 緑ハイ、カッテェー。角煮は柔らかくて美味い。チキン南蛮定食も文句なく旨い。


 風呂に入って酒を飲み飯を食う。こういうのもいいな。もっと、ゆっくりできる時に来たいものだ。


 少々、千鳥足の赤星さんに肩を貸す勇樹と事務所に戻る。


 そんな赤星さんを見て星野さんは呆れ顔。


「少々、事情がありまして……」


「聞きましょう」


 怖っ!? そ、そんなに睨まないでください……。


 ホルダーからカメラと機材を取り出し、記録媒体を取り出してモニターに映し出す。


 雪だるまジャック・オー・フロストから小さい雪だるまが出てきて、勇樹と骸骨戦士スケルトンウォリアーが雪だるまになったところは悪いが笑ってしまった。


 俺を睨むな勇樹。星野さんも清和せいわさんも笑いを堪えているじゃないか。睨むなよ。俺だけじゃないだろう?


 そして、最後の氷漬けの勇樹と骸骨戦士スケルトンウォリアーを見て驚きの声を上げ、俺が骸骨戦士スケルトンウォリアーを粉々にした時に悲鳴が上がる。


「悪魔ですか? 仲間ですよね?」


 違うから! 勇樹を助けるための実験ですから!


 そのせいで、勇樹を助けることができず、低体温症になっていたことを説明し、近くの温泉施設に緊急搬送したこと話した。


「原因はわかりましたが、の説明は?」


 机に突っ伏して爆睡している赤星さんを指差す星野さん。人を指差しちゃ駄目だぞ?


「一杯のつもりが、なんやかんやで絡み酒? 酒は呑んでも呑まれるな的な?」


 俺はそう言って星野さんから目を逸らす……。


「ま、まあ、いいでしょう。それから、戸山公園付近で騒ぎがあったようですが、風速くんたちではないでしょうね?」


「……」


 星野さんから更に目を逸らす……。


 さっきの映像でもフレイムを使った場面で、一瞬画面が真っ白になっていたからな。やはり騒ぎになっていたか。SNSなどを見ると雷が落ちたのではとか、またしても宇宙人陰謀説が流れている。


「そこまで大きな騒ぎにはなっていないようですから、問題はないと思いますが、あまり騒ぎになるようなことは控えてくださいね?」


「……はい」


 ははは・・・・。


 さて勇樹、紙にステ値書いたら帰っていいぞ。


 あと、明日は日曜だから休みな。



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