133.カツ丼の出前

 服が破れ血痕が残っているが、怪我は治した。肩に跡は残ったが古傷といえばそれまでだ。どこにも俺が過剰防衛した跡は残っていない。


 それに奴の指紋の付いた武器もそこに転がっている。


「取りあえず、君には来てもらう。君たち二人はクレシェンテの人間で間違いないかね?」


「「はい」」


「後日、話を聞くかもしれないが、今日のところは帰ってくれていい。ちなみに、そのカメラには映像が残っているのかね?」


 チッ、さすが沢木管理官、抜け目がない。気づいたか。赤星さん、俺とリュウの戦いが始まる少し前から、リュウに気づかれないようにカメラで撮影をしていた。赤星さんは気が動転していてカメラを隠すのを忘れていたな。


 下手い。過剰防衛の証拠が残っている。正直、渡したくない。なので先手を打つ。


「貸し一つにしておく」


「捜査証拠品として押収できるが?」


「勘違いするなよ。俺は被疑者じゃない。捜査の協力者だ。今回の件は明らかにそちらの不手際。大陸のテロリストを野放しにしていたと世間一般に流してもいいんだぞ?」


「君にできるのかね?」


 沢木管理官、忘れてんじゃねぇの? 俺たちのバックに誰がいるか。


「神薙家当主」


「……」


 権力というものはこういう風に使うのだよ。権力とは!


 管理官如き風で紙が飛ぶが如く、簡単に首が切られるか左遷のどちらかだ。


「過剰防衛? やってみろよ。その前にあのリュウってのが、それを認めると思っているのか?」


「……いいだろう。借りておく」


 よし、勝った! ついでなので、もう一押ししておこう。


「それから、そこのアウトサイダーたちとここにいない奴らだが、事情聴取の後はうちがもらう。手を出すなよ」


「厚顔だと言われないかね?」


「褒め言葉と取っておこう」


 赤星さんから記録媒体を受け取って沢木管理官に渡し、二人に帰っていいと言っておく。ついでに今日は事務所に戻らないとも言っておく。戻らないじゃなくて戻れないのほうだけどな。



 今回は新宿警察署ではなく警視庁本部庁舎に連れて来られた。若干だが帰る距離が短い。終電まで間に合えばだが。


 取り調べ室ではなく小会議室での事情聴取だ。アウトサイダーの連中も一緒だ。俺が最初に今日の事の経緯を説明させられた後、アウトサイダーの連中が一人ずつ別の部屋に連れて行かれる。


 一人一人、間違いがないか矛盾はないか確認しているのだろう。誘導尋問とかされていないといいが……。


 俺に対しても質問が飛んでくる。それも同じようなことを何度もだ。正直、イラつく。それが狙いだとしてもだ。


 なので、前回同様反撃に出る。


「協力者に対して茶の一つも出ないのか? 夕飯も食わないでここに来ているんだぞ。カツ丼くらい出しても罰は当たらないと思うんだが?」


「よく被疑者がそう言ってくるが、間違った常識だ。取調室で確かに飲食は可能だが、飲食代は被疑者の自腹だ。それでよければ出前を頼むが?」


 まじかぁ……。テレビドラマに騙された。


「じゃあ、頼む。お前らも食うか? 好きなの頼んでいいぞ、奢るぞ」


 アウトサイダーの連中が頷いたので、出前を頼む。ちゃんとお品書きがあった。意外と頼む奴がいるのか?


「領収書もらってくれ。クレシェンテで」


「……」


 沢木管理官が呆れ顔で見てくるが、領収書は大事だ。


 出前が届くまでの間に少し話を聞いておこう。


「こいつら、この後どうなるんだ?」


「供述の裏が取れれば釈放される」


「釈放?」


「君と違って彼らは間違いなく被疑者だよ。仕方あるまい」


 だよなー。まあ、二、三日は留置所に入るのは仕方がないか。


「彼ら以外はどうなる?」


「リュウを確保した以上、こちらで把握しているメンバーはすべて一度身柄確保する必要がある」


「把握している?」


「彼らを含め十八人いる。すでに身柄確保に動いている」


 十人じゃなくて十八人もいたのか、凄ぇな。ホルダーを探して勧誘した工作員をクレシェンテで雇いたいくらいだ。


「それで、確保した後は?」


「白なら釈放、黒ならホルダーを取り上げ刑務所送りか、使えるものなら司法取引といったところか」


「司法取引ねぇ。白ならうちにくれ」


「考えておこう」


 さっきの貸しを返してもらおう。十八人のホルダーは魅力的だ。


「黒の場合、裁判は行われないのか?」


「できると思うかね?」


 できるわけないよなぁ。愚問だったな。


「ちなみに、リュウ以外の工作員は把握しているのか?」


「もちろんだ。だが、表に出ていたのはリュウだけだ。容疑も未確定、令状も取れない。残念だが如何ともし難い。今回はリュウを確保できただけでよしするべきだろう」


 沢木管理官と話をしていると出前が届いた。


 各々の場所に品が置かれる。なぜか、沢木管理官とその部下二人の前にも置かれる。


「それ、自腹だよな?」


「君が奢ると言っていたではないかね?」


 沢木管理官がニヤリと笑い、ぬけぬけと言いやがった。部下二人のほうは申し訳なさそうに頭を下げているというのに。


 いいのか? 警察官が堂々と享受して? これって賄賂や接待に当たるんじゃねぇの?


「貸し追加な……」


 俺の前にはカツ丼とかけ蕎麦。鉄板だな。


 カツ丼特有の甘い香りが鼻をくすぐる。


 たまらん! 


 さあ、食うぞ!





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スメラミクニラビリンス~月読命に加護をもらいましたがうさぎ師匠には敵いません~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884258759

主人公は月読命の子孫。そのおかげでチートな加護をもらって、探究者シーカーだけではなく、人生そのものを成り上がるサクセスストーリーですにゃ!

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