132.付け込みそして勧誘

「お前たち、これからここに警察が来るが、自分たちの状況を理解しているか?」


 四人とも、ふるふると首を横に振る。


「あのリュウって男は大陸の工作員だ。簡単に言うとテロリストだな。今のお前たちは犯罪幇助に当たると思われる。幇助ほうじょって意味わかるか? 手助けすることだ。要するにテロリストの一味だな」


「そ、そんな!」


「俺たちは何もしていない!」


「「……」」


「そうは言っても、実際に金をもらって仕事をしているわけだ。言い逃れできると思うか?」


「「「「……」」」」


 物的証拠、人的証拠、状況証拠は間違いなく揃うだろう。あとは誘導されて供述証拠も取られれば終わり。場合よってはホルダーたるバッグを取り上げられホルダー人生も終わり。


「お前たちこれからどうするつもりだ? せっかくホルダーになったのだから、ホルダーを続けたいだろう?」


 うんうんと頷く四人。普通の人では経験できない、現実と非現実の狭間で人生を謳歌できる。俺なら絶対に手放さない。


「だがな、アウトサイダーっての大変だぞ。組織や警察からはいい目で見られず、バックアップしてくれる人もいない。確かに金は稼げるが懸けるのは自分の命だ。それも生き残るほうの確率が低いときたものだ」


 こいつらの適合率は知らないが適合率チートだとは思えない。このままホルダーを続けたとして、強くなる前に命を落としかねない。


「そこでだ、お前たちに手を貸すのもやぶさかではない。お前たちはこれから警察で事情聴取されるだろう。その時に包み隠さずすべて話せ。そうするなら口添えしてやる。その後にお前たちが望むなら、うちの組織と話をする権利もやろう。どうする?」


 四人が顔を見合わせてから頷いた。


 よし! ホルダー予備軍ゲットだぜ! 十人いるんだ半分くらいは引き抜きたいな。


 そうこうしていると大勢の人がやって来る気配を感じる。マップを見ると黒色の星マークがいくつか重なっている。高レベルのホルダーを連れてきたようだな。当然か。


 見知った男が息を切らして近寄ってくる。沢木管理官だ。


「奴はどこだ?」


 横たわる男を顎で指す。


「生きているのか?」


「殺してはいない」


 ホルダーと思われる男たちがリュウを囲んで生死を確認している。そのほかの人たちは周りに散っていく。人が近寄らないようにするのだろうけど、こんな時間にこんな所にくる奴なんていないと思うけどな。来るとすればそれこそ不審者だ。


「怪我は酷いですが、生きています。緊急搬送しますか?」


「もう少しなんとかならなかったのかね?」


「こっちは命を狙われていたんだ。手加減しろとでも? ポーションでもぶっかけておけよ」


「ここまで酷いと中級でなければ治らんよ」


 探るような目を向けてくる。


 使わないよりマシじゃね? って思うのは俺だけか? それともポーションに何かしらの制約があるのか? 後で水島顧問に聞くか。


 中級ポーションはもう提出して持っていない。アンクーシャは見せたくない。となると、TPによる力技か? 上手くいけば御の字、失敗したら知らん。死ななきゃいいだろう。


「そいつを抑えつけておいてくれ。あと、こいつはそいつのホルダーな」


 沢木管理官にホルダーを投げる。リュウに猿轡を噛ませ、片方の腕に手錠をしてもらってから足で体を押さえつける。リュウからうめき声が聞こえる。


 さて、リュウに刺さった水流槍を抜きたいがどうする? おそらく、このまま抜くと目を覚まして暴れるだろうし、そのせいで出血多量で死ぬ恐れもある。


 うーん。あっ、そうだ。ホルダーに直接収納すればいいんじゃね?


 できたな。肩から血がどくどく流れている。リュウも目を覚ましたようだが焦点が定まっていない。


 じゃあ、ここからは連続プチ回復の力技だ。途切れることなくプチ回復を使用。傷がどんどん塞がっていくのがわかる。手足の傷は完全に塞がり跡さえ見えない。肩の傷も塞がったが、傷が深かったようで傷跡が残ってしまった。


 まあ、このくらいはいいだろう。後遺症があるかは知らん。


「君はめちゃくちゃだな……。回復スキルも持っていたのか」


 ほかの人も呆れたような目を俺に向けてくる。何か問題でも?


 そんなリュウを無理やり立たせて手錠を両方に嵌めている。リュウはやっと焦点が合い、俺を見つけて射殺さんとばかりに睨んでくる。


「連れて行け」


 引きずられるように連行されていく。


「さて、君たちはどうするべきか……」


「この二人は関係ない。巻き込まれただけだ。事情聴取は俺がいれば十分だろう。帰してやってほしい」


「君が罪を被ると?」


 おいおい、何を言っちゃているの、この人。


「罪? どう考えても正当防衛だろう」


「過剰防衛だな」


「どこにその証拠がある? 怪我はしてなかったよな? 過剰防衛ってなんのことだ。言いがかりはよしてもらおう」


「「「……」」」


 なんで、沢木管理官はともかく、勇樹と赤星さんが遠い目をしているんだ?


 何かおかしなことを言ったか?


 すべて事実だろう?






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