130.望まぬ相手

 えっちらおっちらと歩いてきた。午後七時とはいえ夏なので暑い。コンビニでアイスを買食いしつつやって来た。車で来てもいいのだが、正直、車を出す距離じゃないんだよ。


 辺りが薄暗くなってきて、戸山公園近くも人気がなくなってきた。


 昨日の場所を通り目的に向かおうとすると、昨日の場所に人が数人いて何かを探しているように見える。


 マップを確認すると一人ホルダーがいる。それも黒色だ。もしかすると、残りの者もホルダーなのかもしれない。おそらく、どこかの組織が初心者を連れて、七等呪位狩りを行おうとしているのかもな。


 昨日の今日なのでサイトの情報が更新されていなかったのか? だが、ボタンを押した時点で、依頼受理中と出ていたはず。依頼を受けずにやるつもりか? それとも、たんに確認ミスか?


「そこは昨日狩られたからもういないぞ」


「なに!?」


 全員がこちらを殺気に満ちた目で見てくる。


 あっ、これはヤバい奴らだ。


 何がヤバいって? 見たことがある顔が混ざっている。リュウって奴だ。確か大陸の工作員兼ダークホルダーだ。あの時のチンピラのケンジとアケミもいる。


 下手いな。赤星さんは元自衛隊員だから自衛くらいはできるだろう。問題は勇樹だな。殴り合いの喧嘩なんてしたことないだろうし、もし今の勇樹が本気で相手を殴ったら大変なことになる。相手がホルダーだとしてもだ。その辺の手加減がこいつにできるだろうか? 無理だな……。


「二人とも下がっていろ。油断するなよ」


「「は、はい」」


 勇樹と赤星さんに距離を取らせるため、俺が連中のほうへ歩いていく。その時に赤星さんに目線を送っておく。軽く頷いたので俺の言いたいことに気づいてくれたようだ。


 できればこの場は穏便に済ませたい。武器も何も持っていないことをアピールするため手をひらひらさせながら近づく。


 だが、油断はしない。並列思考は発動してリュウとそれ以外の奴らの動きを意識している。


「何者だ?」


 リュウがこちらに問いかける。工作員だけに訛りはなく普通の日本語だ。だが、見た目は見るからにマフィアそのもの。黒っぽいスーツに長い髪を後ろに束ねた目付きの悪い男に変わりはない。


 リュウは園街灯で逆光になっているせいか、こちらの顔を認識できていないようだな。


「この前、そこにいるケンジのおかげで警察にご厄介になった者だよ」


「てめぇかぁ!?」


「ここの七等呪位は昨日俺たちが倒した。ほかを探したほうがいいぞ」


 ケンジが前に出ようとしたところで、リュウが手で制して俺の前に出てくる。人が殺せるのではないかというほど睨んでくる。


「前に会ったな。お前はどこの組織の者だ?」


「どこでもいいだろう。それより、そいつらはアウトサイダーのホルダーか?」


「だとしたらどうする?」


「商談を持ちたいと思ってな」


「商談?」


 自分もそうだったが、アウトサイダーのホルダーだと情報が少ない。そのせいでどうしていいかわからないことが多かった。


「こいつらだとダークホルダーなどにいいように使われ、損することもあるだろう。そうしてどんどん悪の道に足を突っ込んでいき抜け出せなくなる。そうならないように、アイテムを適正価格で買い取ろうと思ってな」


 というのは建前。本当は錬成用のアイテムが欲しい。おそらくこいつらはシノギとして一定量のアイテムを上納させられているだろう。残りはショップで換金しているに違いない。


 錬成アイテムをショップで換金するなんてもったいない。それが欲しい!


「我々の稼ぎを奪うつもりか?」


「上納分以外でも構わない。だが、決めるのはそいつらだろう?」


 さあ、どう出てくる? ただの反社会的勢力なら組織名を出して脅してくるだろう。だが、こいつは大陸の工作員だ


「そうだな。決めるのはこいつらだ。ちょうどいい、裏切ればどうなるか教えるのも一興だ」


 手を後ろに回すと手に剣が現れ、俺に向け突きを放つ。並列思考で注意していたおかげで、ぎりぎり体を逸らし躱す。


「むっ!?」


 こいつ、本気で心臓を狙ってきやがった!


「レベルの割に意外とやるな」


 やはりこいつも鑑定持ちか。ランクバトルではなく、現実で俺をる気のようだな。


「クックックッ。お前、馬鹿だな」


「ほう。強がりか?」


「いや、事実を言っている。お前はどう足掻いても俺には勝てない。せっかく、見逃してやろうとしていたのに、自分でチャンスを潰した大馬鹿者だよ」


 こいつのレベルはおそらく72。烏丸呪印会の高島より低いが、こいつのほうが強そうだ。素人集団を一人で率いて七等呪位と戦うだけあって、命を懸けた戦いを何度も経験しているとみえる。


「そうか、お前俺のことを知っているな? ますます、生かしておけなくなった」


 何度か攻撃を仕掛けてくるが、すべて躱し続ける。動きは武侠映画に出てくる剣法そのもの。自分が大陸の者だと隠す気がなくなったようだ。


 たまにスキルなのか剣が不思議な動きをするが、十分に対処できる動きだ。リュウの表情に焦りが見え始めるのがわかる。


 本気は出していないだろうが、ここまで実力に差があるとは思っていなかったのだろう。


 まだまだ俺のは余裕がある。だが、正直この状態で戦うとどうなるのか俺は知らない。TPは通常でも使えるが、BPは反応するのか? しないだろうな……。


 一瞬のミスが命取りになる。


 さて、どうしようか?




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スメラミクニラビリンス~月読命に加護をもらいましたがうさぎ師匠には敵いません~

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貧乏探究者シーカーが繰り広げるダンジョンサクセスストーリー。ダンジョンの中にダンジョンを造ってしまった? 

読み応え、面白さ文句なしの現代ファンタジーですにゃ!




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