121.未熟

 嶋崎さんは思考に嵌っている


「そんなことがあるのか?」


 あるんだなぁ。これが。


 おそらくだが、俺のレベルが二十を超えた辺りに七等呪位ではハイランクキラーが得られなくなるのではと思っている。レベルが二十を超えたら一人で七等呪位を狩って確かめる必要がある。それを確かめないと瑞葵と麗華のハイランクキラーが伸びなくなる恐れがあるからだ。


「間違いなくある。おそらくだが、最後に倒したPTの一番レベルの高い者が基準となる。経験値がだ」


「まるでゲームじゃないか……。だとして、複数PTで戦った時はどうなるのだ?」


「だから狩りゲーだと言っている。複数PTで戦った戦ったことがないから知らん。俺たちが戦ったことがあるのは七等呪位までだ」


「そうか、複数PTで戦えるのは六等呪位からだったな。なるほど、ゲーマーか。良いことを聞かせてもらいました、水島さん。うちでも検証してみましょう」


 おいおい、なんで水島顧問なんだ? 礼を言うなら俺にだろう?


「私は何もしていない。逆にその考えにはあまり賛同したくはない。あまりにも危険だ。間違いなく死人が出るぞ」


 サポートする奴がへなちょこならそうなる可能性はある。だが、サポートするのが複数人いればどうだ? 新人一人に熟練者一人のサポートを付ければ事故は防げると思う。


 非効率だけどな。だけど、それで優秀なホルダーが増えれば、将来的に御の字だろう。


「失礼。そうでした。すまない風速君。君の話はとても興味深いものだった。どうだろう、助言をくれたお礼に私とランクバトルをしてみないか? 守護の実力をその目で見たくはないかね?」


俺では勝てるとは思わないが?」


か。負けたところでデメリットはない。それこそ、君の経験になるのでは?」


「そうだな。経験にはなるな。守護の実力見せてもらおう。リクエスト、ホルダーランクバトル」


『ホルダー483がランク戦の要請を受けました。仮想バトルモードに移行します』


 仮想空間に入った。


 さて、現役の守護の胸を借りるわけだがどうしようか?


 嶋崎さんは西洋の甲冑姿、槍を持ち腰には刀が差してある。凄い違和感がある。婆娑羅や傾奇者と言われてもおかしくないな。


「私はPTでアタッカーをしている。君は?」


「俺は万能タイプだ」


「万能タイプか珍しいな。だが、それだといずれ行き詰るぞ」


「問題いない。俺が目指すのはソロでのトップだ。使役化生モンスターは使うつもりだがな」


 さすがに本当の意味でのソロは難しいだろう。


 それに瑞葵と麗華は将来的にホルダーとして活動は控えるだろう。彼女たちは命を懸けてまでホルダーをする意味がない。ホルダー以外でもトップを狙える才能があるからな。


 勇樹が育てば同じPTにしてやってもいいが、あいつは別のPTにして後進の指導を任せたい。できれば俺は狩りに専念したい。


「そうか、私が見ている世界と君が見ている世界は違うのだな……。さて、ルールはどうする?」


「なんでもありで」


「いいのか? 一瞬で終わるぞ?」


 なんかデジャヴを感じる。さっきも同じやり取りをしたな。


「勝てないまでも、足掻いてみせるさ」


 本音だ。目の前の嶋崎さんは間違いなく強い。高島なんて目じゃないほど強者だ。実戦で命を張って戦っているホルダーの違いだろう。


 正直、ここまで違うのかと目を見張るほどだ。


「そうか、では始めよう」


 と言って、俺に向かって走り出す。縮地とまでとはいかないがステ値が高いのだろう、相当に速い動きだ。スキルを使っていない素の動きであの動き侮れない。


 すぐに槍が襲ってくる。なんとか躱すが、まだまだ本気じゃない。現に嶋崎さんはやるじゃないかくらいに笑っている。


 少しずつ槍の動きが早くなっていく。突きを放ったと思ったら、なぜか軌道が変わり薙ぎ払いになっている。たまらず、霊子ナイフで受ける。


 お、重い。受けただけなのにTPが大幅に減る。霊子ナイフでは支えきれず、その槍の薙ぎ払いに身を乗せて後方に飛びながら、火炎の杖でフレイムを発動。


 驚いた表情を一瞬見せるが、槍を一振りすると嶋崎さんを包んでいた炎の柱が消えた。まじかよ……。どういう仕組みだ? スキルの力か? さっきの攻撃もおかしかった。


 一回転して着地をし構える。が、追撃してこなかった。


「凄いな。正直、驚きだ。本気ではなかったとしても、あれで決まると思っていた。君はレベルはいくつだ?」


「17」


「なるほど。レベル17であの動きか。君が言っていた理論どおりか。素晴らしい。だがわかったことがある。君の弱点ともなる点がな」


 ほう。あのなかで何を気づいたというのだろう。


「君は未熟だ。誰にも師事していない弊害ともいえる」


「そりゃそうだろう。俺はホルダーになってまだ二か月ちょいだぞ」


「はぁ~? それは本当か?」


 素っ頓狂な声を上げたな。知らなかったのか?


「このホルダーを拾ったのは五月の半ばだな」


「ホルダーを拾った……。まあ、それはいいが。それでレベル17は早すぎだろう。君は学生と聞いている。我々本職ならまだしも、いや本職でもそんなに早くレベルは上がらない」


 そんなに驚くことか? レベルは一日一レベルしか上がらないが、毎日レベル上げしていれば、今頃もっと上がっていた。


 さすがに毎日は俺も嫌だし無理だったけどな。





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