119.真のゲーマー
沢木管理官の冷めた目に晒されたギャラリーがさっさーっと消えていく。爺も高坂もそれに続いていなくなった。残っているのは俺と水島顧問と沢木管理官の後ろにいる制服を着た自衛官。
「君はもめ事が好きなようだな」
「好きなわけがあるか。ああいう権力と金の亡者が嫌いなだけだ。上辺を繕うのではなく、はっきりとお金と権力が大好きですと言うなら気にしないのにな」
はっきりと言えばいいのだ。ホルダー界を牛耳って権力を振りかざし、ホルダーから上前をはね優雅な暮らしがしたいと。それなら、俺だってはいそうですか、頑張れってくらいは言ってやる度量は持っている。心にもないことを言うからムカつくのだ。
「君は面白いな。そんな君に紹介したい人物がいる。今日ここに来ているホルダーの中ではトップだ。守護の嶋崎君だ」
「
歳は四十前後、ホルダーランクも五百以内でさっき言っていた守護か。自衛隊のようだから、ホルダー管理対策室直属の部隊の人か?
今の俺じゃあ勝てないと思う。それくらい強者のオーラが出ている。高島が霞むくらいの存在感だ
「嶋崎君も元気そうでなにより。ほかのメンバーも元気にやっているかな?」
「帯刀が育休から復帰して元のメンバーに戻りました。本当は子どものために辞めたかったようですが」
「確か双子だったかな? 可愛い盛りだろうな」
内輪話なところを見ると年齢的に水島顧問の元部下ってところか?
そんな元部下たちの現状報告が続いている。沢木管理官は俺に嶋崎さんを紹介して、すぐにいなくなったので俺は食事を再開。お寿司とローストビーフを食べまくる。
お寿司とローストビーフは目の前で握り、切ってくれるので俺の専属料理人と化している。
忘れられたかなと思い、料理に舌鼓を打っていると、
「すまない。水島さんとは久しぶりでね。つい、話が長引いてしまった。それにしても、よく食べるな」
「金を払っているのだから、食わないともったいない。政治家なんかに興味ないし」
そう、この交流会は参加費がかかっている。まあ、クレシェンテで出しているので、いくらなのかは知らない。だがしかし、金を払った以上その分は元を取らないといけないのだ。ちゃんと、会場の人に頼んでテイクアウトも頼んでいる、十人前。ホルダーに収納すれば荷物にならないからな。
「君は聞いていたとおり、面白い子だな」
「どこが?」
「態度、思考、ホルダーとしてのスタンス。抜き身のナイフのようだ」
「誰にでも噛みつく、尖った奴だとでも?」
「違うな。わざとそうしているように見える」
ほう。会ったばかりでどうしてそう思うんだ?
「君は私と似ている」
まったく正反対のような気がするが?
「私はずっと自衛隊勤めだからね。表面上は上官に絶対服従を叩き込まれてきているので、本音は表には出せない。だが、心の中は君と同じ、今のホルダー界に不満を持っている」
「別に不満は持っていないぞ? 呆れているだけだ」
「ははは、同じようなものだろう。私はね、年々実力が下がっているホルダーに危惧している。このままでは日本のホルダー界、いや日本そのものが終わってしまうのではないかと」
それは別の話として、交流会前の沢木管理官の説明を聞けば誰でもそう思う。はずなのだが、実際に危機感を感じている人間がこの中にどれだけいるだろう。この人はその危機を感じた一人のようだ。
「俺たちがホルダーに加わったから、あと数十年は問題ないと思うぞ。そのうち、六等呪位、五等呪位も狩ることも視野に入れているからな」
「君たちの戦果は聞いている。正直、驚くばかりだ。だが、それでは足りないのが実情だ。
「それはほかの組織が頑張るしかないな。そこまでは面倒は見切れない」
遠征ってのはありかもしれないが、メリットがない。依頼を出してちゃんと金を出すなら行ってもいいかもな。だが、それを考えるのは俺たちじゃない。
「君はどうしてホルダーの実力が落ちていると思う?」
「強制レベリングによる促成栽培」
あえて適合率のことは言わない。気づいているか知りたいからだ。
「促成栽培、言い得て妙だな。そう、レベルに対して実力が伴わない」
「そんなのあたりまえだろう? 今の日本は平和だ。戦時中でもなければ、群雄割拠していた戦国時代でもない。あんたたちと違って、己を鍛えるなんてすると思うか? 今のホルダーはレベルを上げれば強くなれると思っている、名ばかりのゲーマーだ」
真のゲーマーだったらもっと考えて戦っている。本当に強くなるにはどうしたらいいのか、ゲームのシステムを理解し効率のいいレベル上げを考える。
効率のいいレベル上げというのは、ただレベルの数字を上げることじゃない。レベル上げ以外でのステータスの上昇、隠しステータス、システムの裏をかく方法などを考えたうえでの効率のいいレベル上げだ。
それが真のゲーマーだろう?
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