117.戦意喪失

 こいつなら一人で七等呪位を倒せるポテンシャルは持っている。だが、余裕ではないだろう。見ていてわかるが、PT《パーティー》ありきでの戦い方だ。


 前衛特化、相手と噛み合えば相当な強さを発揮する。だが、小手先技を使わず純粋なパワー押しするので、サポートは後衛に丸投げ。当然、俺のような万能型は苦手となる。


「パワーはあるがスキルに頼りすぎて技量が未熟。そのせいで、パワー対パワーには強いが技巧派に弱い。所詮、この程度か」


「……」


「お前、精進なんて言っていたが、レベル上げしかしてないだろう? 槍の腕もどうもお前の技量というより、スキルが勝手に体を動かしているように見える。もしかして実際に槍の訓練なんてしたことがないんじゃないか?」


 戦っている時のあの歪な感じはこれだな。あの動きもスキルの力なんだ。だから違和感を感じたんだ。


 こいつ、レベルさえ上げれば俺Tueeeできると思っているタイプだ。その気持ちはわからなくはない。でも、それじゃあおそらく駄目なんだ。


 レベルなんて簡単に上がる。しかし、適合率は上がらない。適合率を上げるにはどれだけ苦労、というか実戦での経験を積んだかで上がると考えている。


 なので効率厨的なレベルだけを考えた上げ方をすると強くなれない。ホルダーは適合率こそすべて。その苦労をする時間を惜しんでレベル上げをした結果が、今のホルダーたちだと思う。


 もしかすると、昔はレベルやステータス値なんてものはなかったのではないかと考えている。真摯に自分と向き合い強くなるために精進する。だから適合率が上がって強くなる。


 レベルやステータス値があるせいでホルダーの質が落ちたのではないだろうか?


「さて、隠し玉はないのか? 出し惜しみしている余裕などないぞ」


「……」


 無いようだな……。じゃあ、終わりにするか。太刀・焔と小太刀・水禍を構え直し、高島に斬り込む。高島のスキルは先の先でこそ有効。後の先では活かせない。先の先と有効な距離を取らせなけば、あのスキルは意味なし。


 と思ったが、そのスキルで逃げやがった! 避けるんじゃない、こいつは間違いなく逃げた。


 もう一度、高島に飛び込む。また逃げた。そして、俺の並列思考は見ていた。奴の目が泳いでいたことに。おそらく、自分自身でも何をしているのかわかっていない。体が恐怖で勝手に動いているって感じだ。


 戦意喪失ってやつだ。


 そこから始まる、壮絶な鬼ごっこ。


 おいおい、勘弁してくれって感じだ。逃げるだけで攻撃をしてこない。もう面倒なので、使いたくはないが加速を使うかと思ったときに、奴の動きが止まる。TP切れだな。


 チャンスなのでここで獅子連撃。落ちてきたところで太刀・焔の一太刀で首を跳ねた。何が起きたかさえわからなかっただろう。



『YOU WIN』


『ホルダーランクが上がりました』


『ホルダーにアイテムを送りました』


『1200000ポイントが加算されます』



 ホルダーランクが412アップした。やっと二千番台に入った。ショップに何か増えているはずなので後で確認しよう。


「ま、負けた……」


「な、なんだと!?」


 爺が大きな声を出したので周りにいた人たちの注目を浴びてしまう。


 水島顧問も驚愕の表情で俺を見るので肩をすくめてみせる。俺が負けるとでも思っていたのか? まあ、人の評価など、どうでもいい。


「高島! 冗談はよせ。お前が負けるわけがないだろう!」


「そうですよ。笑えない冗談ですよ? 高島さん」


「いや……負けた」


「「……」」


 笑えない冗談? 俺は笑えるぞ? 冗談でも嘘でもないしな。


「本当か?」


 水島顧問が懐疑的な表情で聞いてくる。これのどこに疑問があるのだろうか? 


「本人がそう言っている。どこに疑問がある?」


「あり得ないだろう……」


 自分の基準で物事を考えるなよ。だからあんたは中途半端なままで引退したんだよ


「所詮はおままごとなんだよ。技量も、覚悟も足りない半端者。高いレベルの上に胡坐をかいているだけ。精進するなんて言っていたが口だけだろう」


「き、貴様!」


「なんだザコ。お前も同じ穴の貉だ。促成栽培なお前はもっと酷いだろうな」


「なっ!? ならやってみろ!」


『ホルダー1624よりランク戦の要請がありました。受けますか?』


 やるわけないだろう。一日に二回しかできないんだぞ、もったいない。


「断る。ザコに用はない。やるならもっと上のホルダーとだ」


「お、お前ぇぇぇー!」


「おいおい、お里が知れるぞ? いや、烏丸呪印会だったな。なら、しょうがないか」


 水島顧問の口元がヒクヒクと引きつっている。


「小僧。あまり舐めた口を聞くなよ。ここに連れて来ていないだけで、貴様などより強い者がいることを忘れるな」


「で、何が言いたいんだ? 俺より強い奴? 俺はホルダーになったばかりだぞ、そんな奴多くいて当然だろう? それとも、まだこれ以上の恥の上塗りをしたいのか? 会長さん」


「チッ……」


 パンパンと手を叩いて壮年の男が割り込んで来た。


「はいはい、その辺にしておこうな。鳥島会長、噂の風雲児の風速君」


 風雲児ってなんだよ。


「水島さん。ちゃんと飼い猫には鈴を付けてくださいよ」


 飼い猫とは失礼な奴だな、こいつ。


「はぁ……。猫ならまだしも、獅子に鈴を付けるなど私には無理だよ。君がやってみたらいい、久坂代表」


 で、誰よ? こいつ。








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