116.正統派パワータイプ

 烏丸呪印会の三人の額に青筋が立つ。水島顧問の顔は引きつっている。


「お、面白い冗談だな。いいだろう。そこまで言うなら僕とランク戦をしてみようじゃないか」


 上手く釣れた。だが、僕ちゃんには用がない。やるとすれば高島のほうだ。


「あー、やるならそっちの人な。あんただと練習にもならなさそう」


「ははは、言うじゃないか。近藤はうちの若手でトップのホルダーだぞ。今は上位の化生モンスターとの戦いに連れて行って、経験を積ませている将来有望なホルダーなんだが」


「促成栽培ものか。たかが知れているな」


「そ、促成栽培だと!」


 おいおい、沸点低いな、こいつ。


「わかった。その挑戦受けて立とうじゃないか。ちなみにだが、君のレベルはいくつだ?」


「レベル17。リクエスト、ホルダーランクバトル」


 逸材とやらの、お手並み拝見といこうじゃないか。


 高島がランクバトルを受理したようで、仮想空間に入った。


 烏丸呪印会の人間だから土屋陰陽会の木村と同じようにコスプレな服装かと思ったが、普通の鎧姿で武器は槍だった。


「さて、ルールはどうする?」


 今までルールなんて聞かれたことないな。烏丸呪印会のマイルールか?


「なんでもありで」


「いいのか? 君とのレベル差は62もあるんだぞ? 一瞬で終わるぞ?」


「問題ない。全力でやってくれ」


「すぐに終わっても文句言うなよ」


 すぐに終わるとは思わないけどな。


 最初は霊子ナイフと火炎の杖を持って構えるが、高島は動こうとはしない。


「初手は譲る」


 はぁ、こいつも舐めプか。窮鼠猫を噛むって言葉もあるんだぞ。俺の場合は鼠じゃなくて獅子だがな。後悔するなよ?


 火炎の杖を高島に向けフレイムを発動。追い打ちで風切りを放つ。


「うおっ!?」


 高島が炎に包まれ炎の柱が上がる。そこに叩き込まれる複数の風切り。


 炎の中から転がりながら出てくる高島に追い打ちでフレイムを発動。


「ちょ、ちょっと!? チッ」


 炎の中から出てき高島は白い光を全体から出す。身体強化だな。身体強化スキルは意外とメジャーなのかもしれない。あるいは取得方法が確立されているのかも。あとで水島顧問にその辺を聞くべきだろう。


「げっ! なんでBPが減っていく!?」


 どうやら、命奪の呪いも発動したようだ。


 正直、このままフレイムと風切りで倒せるとは思うが、それでは訓練にならない。せっかくなので、もっと対人戦の訓練がしたい。


 霊子ナイフと火炎の杖をしまい、太刀・焔と小太刀・水禍へと持ち変える。


「き、君、やるじゃないか。どうした、TP切れか?」


 前回、プチ雷魔法のレベルが上がり、プチサンダーバレットを覚えたので高島に放つ。


「がっ……」


 プチサンダーバレットはプチサンダーと違って、遠距離で小ダメージを与えられる。そして、稀に痺れを起こさせ麻痺させる。今みたいに。


 麻痺が回復するまで待ってやる。俺も舐めプだな、人のことは言えないな。だが、これは訓練なのだ。まだ、訓練にもなっていない。だから、仕方がない。


 どうやら、麻痺が収まったようだな。


「回復しろよ。それともできないか?」


 高島が俺をキッと睨む。


「舐めていた。侮りすぎていた。ここからは本気を出す。そしてすぐに終わらせる」


 高島が一瞬消えたかのよう見え、いつの間にか目の前に赤く色を変えた槍の穂先が迫っている。


 とっさに並列思考で小太刀・水禍に水属性を付け、槍の穂先を払う。一瞬冷っとしたがなんとか間に合った。火属性の魔槍だな。


「チッ、やるな」


 まさか、こいつ加速持ちか?


 太刀・焔で斬りつける。流れた穂先ではなく、その流れのまま回転させ石突きのほうで太刀・焔を受け流された。


 どうやら、今の動きを見ると加速じゃなさそうだ。


 受け流しまた回転させ穂先が俺を狙う。間合いは俺の間合いなのだが、長い槍でよくやる。面白い、こうでなくては。


 だが、何か歪なんだよな。なんか機械を相手にしているような?


 まあいい、今度は手数で勝負だ。小太刀・水禍の連撃を発動。V字に斬った後に三連の突きが放たれ、まともに喰らった高島が驚きの表情で吹き飛ぶ。


 ここで間合いを取らせるのは愚策。さらなる追撃。


 太刀・焔の炎尾を発動し炎の尾で体を締め上げながら、こちらに引き寄せ渾身の袈裟斬り。バウンドしながら転がっていく。


 アナウンスが流れない。手応えはあったが、仕留め切れなかったようだ。タフだな。


「化け物め……」


 立ち上がった高島が失礼なことを言う。


「お前が弱いだけだろう」


「くっ……」


 こいつは強い。純粋な力でいえば花咲より格段に強い。小細工なしの正統派のパワータイプだ。力だけを見れば俺より上だと思う。おそらく、STRにステ値が多く振られている。代わりにAGIが低い。俺の動きになんとかついて来れるくらいだ。


 槍を構え直し俺を睨みまた消えた。


 危機察知が反応し、とっさに体を半身捻る。元体のあったところに槍の穂先がある。躱さなかったら槍の餌食になっていた。太刀・焔でその槍を弾き飛ばす。


 なるほど、わかった。奴のスキルは加速じゃなくて、瞬歩、縮地ってやつだ。奴との距離は10mくらいだった。さっきも同じくらいだったな。それが発動範囲かもな。


「面白い技だな。スキルか?」


「……」


「初見殺しってやつだな。前にしか移動できないんだろう?」


 俺は初見だけではなく二度危険を感じたけど。


「くっ……」


 当たりのようだ。


 まあ、なかなかいいスキルなので、普通のホルダーにはすぐに対処は難しいだろう。


 だが、俺にとってはタネがわかれば対処は簡単。


 所詮、加速スキルの下位互換でしかない。





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