114.ダークホルダー

「それより、警察ってところは情報提供者にお茶や茶菓子ひとつ出さないのか?」


 沢木管理官が苦笑いして、壁にある鉄格子の嵌った鏡のような場所に向かって手を上げる。あからさまに怪しい鏡? あれが噂のマジックミラーか? 本当にあるんだな。


 数分もしないうちに、お菓子とお茶が運ばれてきた。警察饅頭とある。警察限定お菓子のようだ。こんなのあるんだ……。レインボー饅頭とかもあるのか?


「リュウという男はダークホルダーだ。それも大陸から来た工作員でもある」


「ダークホルダーねぇ。やっぱりいるんだそういうの」


「驚かないのだな、君は」


「まあ、予想はしていたからな」


 裏の世界の闇組織。一周してそれって表じゃね?


「アウトサイダーのホルダーがすべてとは言わないが、多くがダークホルダーに手を染めているか、手を貸しているのが実情だ」


「で、そのダークホルダーって何してるんだ?」


「多くは反政府行動。または殺し屋といったところだな」


「反政府行動はまあいいとして、殺し屋って俺が前に言ったようにか?」


 反政府行動というのは反政府組織、所謂右翼、左翼の者ってことだろう。大陸の工作員ってのもこれだな。俺的には殺し屋ってのが気になる。俺が言う殺し屋ってのは、前に言った完全犯罪の十等や九等呪位をけしかけるってやつのことだ。


「いや、物理的な攻撃だ。ホルダーはレベルが上がれば超人的な力が得られる。その力は化生モンスターだけではなく、人間に対しても有効だ。君が前に言ったやり方は、目からうろこが落ちた思いだよ。悪い意味でな」


 そうか? ホルダーなら誰でも思いつくんじゃないのか?


 それはいいとして、沢木管理官のいうこともわかる。俺が加速を使えば普通の人では目で追うとこさえできず、り放題だろうな。


 だけど、カメラには映ってしまう。


 一度、検証として星野さんに撮ってもらったが、俺の姿が幽霊のように映っていた。顔の判別は無理だったが、クレシェンテで使っているカメラより性能のいい機材を使うか、専門の技術で画像処理を行えば判別される可能性はある。


 それはさておき。ホルダーの力ってまったく制限がないんだよ。加速、並列思考は常時どこでも使える。魔法だってアイテムだって制限なく使える。


 肉体的な恩恵もリミッターはあるものの、解除は自由。それこそ、その力を使えばオリンピックで金メダルなんて簡単に取れる。体のどこかにホルダーを着けていないと駄目だけどな。


「今回のリュウってのは?」


「両方だ。大陸の工作員でもあり、要人の暗殺も行っている。厄介な相手だ」


「その手掛かりを俺が切ったと?」


「切れたかはわからない。今回の件はただの喧嘩と処理してすぐに釈放する。だが、警戒はするだろう。正直、頭が痛いところだよ」


 俺のせいじゃないぞ。そんなこと全然知らねぇし。


「気をつけたまえ。君は奴に顔を覚えられた可能性がある。ホルダーとしてもな」


 マップを見れば俺がホルダーだってすぐにわかるしな。


「狙われると?」


「君の命を狙うとは思えないが、用心はしたほうがいいだろう」


 面倒くせぇ。勘弁してほしい。それに、何をどう用心すればいいのだ?


「そういえばあのケンジってホルダーなんだよな? マップに映っていなかったんだが?」


「はぁ……。そういえば君はホルダー初心者だったな……」


 マップに映るホルダーはランクバトルができるホルダーだけなんだそうだ。


 ランクバトルができるようになる条件は小エリアボスを二体倒すこと。要するに、七等呪位を二体倒さなければならない。


 ん? よく考えれば今までランクバトルしてきた奴って、柿崎以外七等呪位を倒すなんて無理じゃね? 柿崎だって一人では無理だ。


 ん? 一人では? ……そういうことか。


「アウトサイダーは組織だった動きができないため、七等呪位を倒すことは難しい。だが、普通の組織はホルダーになった時点で、七等呪位の討伐にあえて参加させる」


 化生モンスターというものの怖さを知らしめるためと、ランクバトルができるようにするためなんだそうだ。なるほどね。それでランクバトルができるんだな。


 さて、無駄な時間を過ごしてしまった。今日はもう狩りは無理だな。クレシェンテには同行する前に連絡はしてあるので状況はわかっているはず。帰ろうか。


「帰っていいか?」


「よかろう」


 帰り際、警察饅頭と警察クリームロール、警察クッキーを渡された。くれるらしい。沢木管理官、意外と根に持つタイプか? まあ、意外と美味しかったので素直にもらっておいた。歩いて帰れる距離だしたいして邪魔にならないからな。


「ご苦労様です。大変な目にあったみたいですね」


 星野さんが、笑ってお出迎えしてくれた。笑い事じゃないんですけどね。


「本当にえらい目にあいました。これ、お土産です。みんなで食べてください」


「警察限定お菓子ですね。なかなか買えないんですよ? みんな喜ぶと思います。ありがたく頂きますね」


 結局、もう九時を過ぎている。瑞葵と麗華は帰ったそうだ。しゃーない、俺も帰ろう。散々な一日だった……。



 木曜日、クレシェンテに着いたらみんなに笑われた。とうとう捕まったかって。解せぬ。


 金曜日も瑞葵に大笑いされた。今まで留置場に入っていたと思われたらしい。


 だから、簡単な調書を取りに行っただけだからな!


 捕まったわけじゃないからな!



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