113.チンピラ
そいつは俺が近づいたことに気づき、一瞬俺を見て目を細めてからチンピラと女を残し俺とは反対側に歩いて行ってしまう。狭い道なのでチンピラと女がいるせいで追いかけられない。
話を聞いてみたかった。何者なのだろうか?
「なあ、あんた……」
「あ゛ぁぁ、なんだテメェ! ぶっ殺すぞ!」
ぶっ殺すぞと言いながら殴りかかってきた。なんで? 声を掛けただけだぞ?
油断していたとはいえ、躱した目の前すれすれを通り過ぎていく拳にビビる。チンピラの癖にいい動きだ。
「避けんじゃねぇ!」
おいおい、無茶を言うなよ。今の俺ならホルダーのリミッター解除をすれば、殴られたくらいでたいしたダメージはないかもしれないがそれを試したいとは思わない。
今度はパンチだけではなくキックも交えて攻撃してくる。こいつ喧嘩慣れしているな。武道でも習っていたのかもしれない。
「くっ!? 当たらねぇ!」
「ケンジ、やめようよ。リュウさんに目立つことをするなって言われたばかりだよ!」
「うるせい! アケミは黙ってろ! てめぇ、ぜってぇ殺す!」
おいおい、本気か? こいつ背中から匕首を取り出しやがった。ドスって奴だ。ちなみにドスって脅すからおが短縮された言葉なんだぜ。良い子は使っちゃ駄目だぞ。
狭い路地なので振り回さず、突きを連続で放ってくる。なかなか堂に入った動きだ。脅しじゃなく本当に殺しにきている感じだ。動きにまったくといっていいほど躊躇がない。当れば間違いなく大怪我だ。こいつ、実際に誰か
これが一般人を相手にしていれば
「がっ!?」
突きを放って腕が伸びきった瞬間に奴の手首に手刀を入れる。カランと落ちた匕首をこいつに拾われないように足で後ろに蹴る。
キャー!! っという複数の悲鳴が後ろから上がる。
あっ、やっちまった。路地から飛び出した? 強く蹴りすぎたかも……。
得物を無くし苦痛に顔を歪めたケンジって奴が、それでもまだ攻撃を仕掛けてくる。
大振りでパンチを放ってきたところを、一本背負い。地面に叩きつける。
「ぐえぇ!?」
本来なら、投げた後に袖を引いて衝撃を弱めるところだが、逆に体重を乗せて叩きつけてやった。
「ケンジ!?」
背中を打ち付けたのでそう簡単には起き上がれないだろう。
さて、帰るか。と思ったが路地の出入り口がギャラリーで埋め尽くされている。か、帰れない?
ーーーーーー
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ーーー
ーー
ー
「それで、正当防衛だと?」
どうして、こうなった?
新宿警察署の取り調べ室にいる。
事情は何度も説明した。それなのに帰してもらえない。簡単な調書を取るだけと言っていたのに。
「何度も説明しましたよね。これ以上は不当逮捕と受け取りますよ?」
そう言ってスマホを取り出し、録音してたものを警察官に聞かせる。最初荷物を取られそうになったが、簡単な調書取りということで拒否しスマホで録音をしていた。
「チッ」
今、こいつ舌打ちしたよな。これが警察のやることか? 疑わしきは罰せよってか? 逆だろう?
「弁護士呼びますけどいいですよね?」
この警察官、苦い顔をするがそれでもハイとは言わない。
取り調べ室のドアが開き見たことのある一人の男が入ってきた。
ホルダー管理対策室長の沢木管理官だ。
「なんで、あんたがここにいる?」
「君! 口の利き方に気をつけなさい!」
「構わない。君は下がりたまえ」
「くっ、了解しました……」
沢木管理官が俺の前に座る。
「いつまでこんな茶番を続けるつもりだ? 本当に弁護士を呼ぶぞ」
「君が伸して、一緒に捕まった相手はアウトサイダーのホルダーだ。気づいていたかね?」
捕まってねぇし。簡単な調書を取るだけって同行しただけだし。
「知らん」
しかし、あいつもホルダーだったのか。道理でいい動きをしていたわけだ。
「彼は問題ありのホルダーでマークしていたのだよ。いろいろと事情があり泳がせていのだがね」
「それを俺が邪魔して迷惑だと?」
「はっきりといえば、そのとおりだ」
「知るか」
そんなこと俺の知ったこっちゃない。
「あの男は誰と会っていた?」
「リュウとかいうホルダーだ。名前は知らん。レベルは72」
「名前がわからない?」
「鑑定したが72以外は文字化けしていた。ホルダーランクは見えなかった」
沢木管理官はひとり思考に耽っている。この様子だと沢木管理官が追っているのは、リュウとかいう男のほうだろうな。
「あのケンジとかいう奴のほかにアケミって女がいたがどうした? そいつに聞けばいいんじゃないのか?」
「あの場で無関係という話になり同行されなかったようだ」
「まじかよ……。無実の俺を連れてきて、重要参考人を逃がすとは、日本の警察は無能だな」
「……」
まあ、あの場に来たのは見廻りしていた警察官だったからな。だとしても、周りにいた人に聞けば関係者だってすぐにわかったはずだろうに。
逃がすとかありえねぇ~。
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