107.帰省不可

 クレシェンテの給料は末締めの翌月払い。なのだが、俺だけ今月だけ末締めの末日払いにしてもらった。だって、お金がない。このオークションのお金は来月支払われることになる。それでも助かる。


 夏休み前に使えるお金が増えるのは助かる。使うあてはないのだが、精神的に安心感がある。去年は夏休み中ずっとバイトに明け暮れていたからな。


 今年は、いや今年も帰省する予定はない。一番の理由は面倒だから。代わりに、妹が両親の代わりに視察という名目で遊びにくる。ほぼ、東京見物だったり、ネズミーランドで友人たちと合流する前の宿泊場所とされている。俺の部屋はハブステーションか!?


 今年の夏休みは狩り一辺倒にするつもりだ。瑞葵や麗華は忙しいだろうから、一人で狩るか予定どおり勇樹を引っ張り出そうと思っている。自由に使える休みってサイコー!


「今回、美酒散乱を落札したのは別々の人なのに、示し合わせたように同じ落札額なのよ。面白いと思わない? それも、送り先がホルダー管理対策室の各支部宛になっているのよ」


「普通はどこに発送するんですか?」


「普通は私書箱か私設私書箱、或いはダミー事務所を利用するそうよ。うちは私設私書箱を借りているわ」


 なるほどね。それが、ホルダー管理対策室の各支部宛ってのは怪しい。


「怪しいですわね」


「何かしらの意図が感じられるな」


 瑞葵と麗華も同じ考えのようだ。だからといって、どうこうするわけではない。落札された以上送るしかない。お客様は神様ですから!


「それでね。もう一つ面白いのが運送会社を使わず、必ずホルダー管理対策室の各支部に手渡しでとなっているのよ。別途料金も支払ってくれるそうなの」


 まあ、わからなくもない。値段が値段だし、間違って運送会社に頼んで、トラック運送中に割れたら大惨事だからな。


「関東支部は警視庁本部庁舎だからすぐそこだけど、島根支部と宮城支部は出張ね」


 月山さんがそう言うと、事務所の女性陣が全員手を上げる。観光目的か!?


「宮城なら俺が行きますか? 日帰りできるし」


「そういえば、風速くんのご実家が宮城だったわね」


「あー、ごめんなさい。やっぱりパスで……」


「あらそう? 帰省ついでの持っていってもらえればよかったのに」


 だって、女性陣が余計なことを言うなって睨んできてますので……。宮城なんて観光する場所なんてたいしてないぞ? 牛タンが食べたい? はぁ、そうですか……。


 牛タンなんてどこで食べても一緒だと思うのだが。宮城生まれの宮城育ちの俺だって牛タンなんて数えるくらいしか食ったことないぞ? 仙台牛の牛タンならまだしも、ほとんどは輸入の牛タンだろうし。


 はい、黙ります。ごめんなさい。えっ? 仙台牛の牛タンを食べさせる店を教えろって? 俺の友人がやっている店があるので紹介しますか? 夜限定の焼肉屋ですけど、それでよければ。本店は塩釜だけど、最近仙台駅近くに新しい店を作ったって言っていたからな。


「出雲といえば、神話舞隊カ〇アリージャー、宮城ですと未知ノ国守ミチノクニノカミダッ〇ャーですわね!」


「ん?」


 瑞葵は渋いところを持ってきたな。麗華は意味が分からずハテナ顔だぞ。それと、宮城だと伊達〇将隊のほうが有名じゃね?


「美酒散乱には驚かされたが、俺的には炎の胸当てのほうはもう少し高く値が付くと思ったんだけどな」


「資料に追加で書くつもりでいたが、オークションでは化生モンスターから得られた武器防具はあまり高額にはならない。理由はその武器防具には五十年という使用期限があるからだ」


「まじ?」


「まじだ」


 使用期限がある代わりなのかは知らないが、完全なメンテナンスフリー。使用期限が過ぎるとただのごみと化すそうだ。メンテナンスフリーというのはありがたいな。部屋で磨いていたのが無駄になったが……。


 なので、代々受け継がれてきた強い武器防具がないということだ。強くてニューゲーム的なことができないわけだな。ホルダー、世知辛いな。


 これが使用期限なしなら、相当に高額な値が付くだろうに。残念。


 それでも、魔剣などは金のあるホルダーや組織はオークションで高い金を払い手に入れる。そう考えると妥当な値段のような気がする。


「話は変わるが、この間手に入れた精霊の子守歌を買い取りたいけど、どうすればいい?」


「別に恢斗の自由にすればいいですわ」


「そうだな。恢斗が手に入れたアイテムだしな」


「オークションに出せばいい値が付くと思うぞ?」


 俺が手に入れたとはいえ、なにせ安眠・回復(小)効果付きのオルゴールだ。


「そうね。その辺のルールも考えないといけないわね。ちなみに何に使うつもり?」


「安眠・回復(小)効果付きだからな両親に送ろうかと」


「「「……」」」


 な、なんだ!? その困惑した表情は? 俺が親孝行するのがそんなに不思議か! 俺だって人の子だぞ!


「そ、それは良いことだと思う。親御さんも喜ぶと思わ。似合わないけど……」


「お、親孝行は素晴らしいことですわ。恢斗にそんな心があったなんて……」


「恢斗のご両親か……あ、挨拶に行くべきかな? (義理の両親!?)ごにょごにょ……」


 こいつら、言いたいこと言いやがって……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る