106.公然の秘密

 まあ、麗華の母親も思うところがあるのだろう。


 麗華はいいところのお嬢様だ。将来、お見合いとかする時に学歴とかと一緒で、社会経験の実績なども必要になってくるのかもな。今回の交流会は麗華の顔を売るには絶好の機会なのかしれない。


 で、その交流会だが、ホルダー管理対策室は関東の四大派閥に対して、うちが既存の派閥に属さない実力のある新たな勢力として発破をかけたいようだ。


「四大派閥ってのも昔からあるんだろう? そもそも、どうしてこんなに化生モンスターが蔓延っているんだ? この状態って昔からのデフォルトなのか?」


 俺はちょうど通りかかった水島顧問に質問を投げてみた。


「う、うむぅ……。まあ、公然の秘密なので話しても問題ないか……」


 なんだ? その意味深長な言い方は。


「この話は日本ホルダー界の禁忌タブーと言ってもいい。どうせ、どこかで知ることになる話なので聞かせよう」


 日本は天皇をトップとした王朝という意味では世界一長く続く国だ。国内での戦乱は多くあれど、朝廷の力は絶大だった。そんな朝廷が古来飛鳥時代からホルダーを管理してきた。


 そんな発言力を持っていた朝廷が南北朝時代を境に、だんだんと衰退していき、朝廷が管理していないホルダーが増えていく。所謂、アウトサイダーって奴だ。そのせいで統率力を欠き効果的に化生モンスターを狩れなくなり、化生モンスターが増えていったそうだ。


 そして、明治時代に朝廷から政府主導の管理に移行され、陰陽寮が廃止されたことにより更にホルダーの質が低下した。


 それでも、今ほど酷い状況ではなかったそうだ。陰陽寮が廃止されたことによって実力のある民間のホルダー組織が力を持つようになり、多くの派閥ができることになる。ホルダーの質は落ちたが、組織の力が強くなったことで逆にホルダーの数が増えたということだ。


 そして化生モンスターとの均衡が大きく崩れたのが太平洋戦争での敗戦。精神論で勝てると思っていた馬鹿な軍人どものせいで、愚かな戦争を引き起こし負けた。まあ、それはいい、馬鹿な軍人とそれを制御できなかった愚かな政治家が悪いだけだ。


 それでも、ホルダーに関してはさすがに戦中は徴兵免除がされていた。


 問題が起きたのは戦後の戦争賠償と戦後補償。余りの巨額のため一部の国を除き、連合国の大半の国は日本が多額の賠償金の支払いに耐えられないと判断しこれを放棄した。


 しかし、GHQの主要国アメリカはしたたかだった。賠償金が取れないと諦めたが、代わりに戦後補償としてホルダー上位者の十年間の貸し出しを日本政府に求め、日本政府、いや愚かな政治家どもはそれを承諾したのだ。


 日本は馬鹿な軍人が消えたと思ったら、今度は己の保身のみを考える腐った政治家が台頭していた。


 それにより、日本の上位ホルダー千人がアメリカに渡ることになる。


 そして十年後、祖国日本の地を踏んだのは二十人に満たなかったという……。


 幾人かは日本に戻らず向こうで家族を持って残る者もいたが、ほとんどのホルダーが使い潰された。


 これにはさすがにホルダー管理対策室の前身であった部署が、政府の意向を無視してアメリカとのホルダー交流を断交した。それは今現在も続いていて、表の外交は友好国となっているが、裏のホルダー界は憎しみに染まっているらしい。


 オークションも一部の国を除き、海外からもアクセスできるようだが、アメリカだけは一切のアクセスから除外されているらしい。


 水島顧問曰くそれでも、その裏では繋がっているだろうとは言っている。


「そういうことで、一時期上位のホルダーがいなくなった。その結果がこの状況だ。ホルダー管理対策室は必死に立て直しを図っているが、どの国でも同じだがホルダー不足でままならない状況だ」


「愚かとしか言いようがないな」


「そうなのですね……」


「理解しがたいな」


 戦後半世紀以上経っているが、その代償はあまりにも大きかったのだ。


 その千人が抜けたことでホルダーが足りなくなったということもあるだろうが、後進のホルダーの育成する人材も減ったということになる。上位者が培ってきた技能、技術、経験、知識が今のホルダーに伝わらず、上位のホルダーの質も下がっている。


 必然的に上位の化生モンスターを狩れる者が少なくなり、下位の化生モンスターが増えていく。


 悪循環ってわけだ。


 なるほどな。今の状況はなるべくしてなったのか。当時、千人のホルダーを売った政治家たちの子が今の政治家として世襲しており、今尚日本政治界に寄生している。救われないな。


「はぁ、理解しがたいが納得はできた」


「私たちが頑張らねばならないのですわ!」


「そうだな。犠牲になった先人たちに報いるためにもな」


 瑞葵と麗華は改めてやる気を見せているが、正直俺はそこまで思っていない。冷めていると言われるかもしれないが、所詮俺にとってはゲームでしかない。


 ヒーローごっこに興味はないのだ。二人には悪いが。


「さて、暗い話はそのくらいにして、明るい話をしましょう。二つ目の報告ね。オークションの結果よ」


「あれか……?」


「良い値が付いていたと聞いておりましたわね」


「気になるな」


 美酒散乱三本と炎の胸当てだったな。確か、美酒散乱は初日で三本共二百万を超えたって言っていた。


「美酒散乱は三本共に千二百万、炎の胸当て百四十万、合計三千七百四十万円になったわ」


「まじ!?」


「驚きですわ……」


「お金の余った好事家だとしても、たちが悪いな」


 寿命が縮む酒だからな。麗華の言うことはわかる。


「オークションの手数料が10%。クレシェンテ30%。あなたたちに60%の頭割りになるわ。そこから税金が引かれた額があなたたちに支払われます」


 七百四十八万円から税金が引かれた分が収入になるわけだ。


 それはマジもんの明るい話だ!


 貧乏な俺にとってはだが。


 瑞葵と麗華はまったく興味なさげだ。


 これだから金持ちは……。




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