105.譲渡された錬成レシピ
勇樹と翔子は来週に新しい学校の編入試験を受けるらしい。
まあ、ほとんど顔パスのような気もするが。
試験が受かれば夏休み明けからその学校に通うことになる。なので、勇樹は夏休みの間は暇になるはずなので、レベル上げをさせるつもりだ。
ということで、本日のお仕事は終了。月山さんたちも戻ってこないので、話は明日以降でいいだろう。
水島顧問に帰ると挨拶してクレシェンテを出る。
「気をつけて帰れよ」
「はい。今日はありがとうございました」
こちらの都合なので感謝されることなどないのだがな。そこは、勇樹が真面目なのだろう。
最近、お金に余裕が出ているので、昼飯は学食で食べるようになった。うちの大学には学食が三つある。一つは本当の安い学食。もう一つは一番大きいビュッフェタイプの学食。最後がちょっと、いやだいぶ値段の高いしゃれたカフェレストラン。
俺はもちろん安い学食。カツ丼三百円、かけそば百五十円、なんと五百円でおつりがくる値段で食べれてしまえる。
そして、ふと思う。お金に余裕があるのに、なぜここを選んでしまうのだろう。貧乏性は治らないのかと……。
クレシェンテに着くと麗華はいたが瑞葵はまだ来ていないようだ。
「恢斗。アンクーシャでの結果が出た」
ステージⅠの胃がんの女性はステージ0といっていいほど良好らしい。ステージⅡの麗華の祖父も経過は良好。癌の再発はなさそう。
どちらも、もう一度アンクーシャを使えば完治する可能性もあるということだ。癌はアンクーシャによって復活しないことがこれで確実となった。
今度は手術前のステージⅡ、Ⅲ、Ⅳにアンクーシャを使っての検証を行いたいそうだ。ほかの病気にも効果があるのか検証もしたいと言っているらしい。
「俺は問題ないぞ」
「わかった。ではそれで予定を組んでもらおう。それと祖父が恢斗にお礼がしたいと言っていた」
「別に気にするなと言っておいてくれ。神薙のご当主との契約のうちだからな」
「おそらくそれでは引き下がらないと思うぞ。祖父は意外と義理堅いというか頑固? だからな」
うわぁ、面倒くさそう。気にしなくていい、じゃなく気にしないでほしい。
「祖父にそうは言っておくが、食事くらいは付き合ってやってほしいな」
まあ、食事くらいならいいけどな。できれば、カウンターのある寿司屋がいいな。
「そっちの話は終わったようね。瑞樹さんがまだのようだけど、昨日のホルダー管理対策室との打ち合わせ結果を話すわね」
レシピは薬、道具、武器防具の三種類に分かれており、各種類レベル1からレベル4まである。
レベル1は初級レシピといわれる基本開示されているレシピ。
レベル2は中級レシピといわれて、ある程度の熟練度がないと作れないレシピで、余り開示されていない。
レベル3が上級レシピ、レベル4が特級レシピといわれ、各組織独自のレシピとなり、よほどのことがない限り開示されないレシピとなる。
月山さんがホルダー管理対策室と話し合った結果、レベル1とレベル2の薬、道具のレシピを譲ってもらってきた。
レベル2の武器防具を断念したのは性能を確認させてもらったところ、俺たちの使っている装備の2ランクくらい下の性能だったらしい。それなら、無理をいわず薬と道具のレシピをすべて開示してもらったほうが良いと考えたからだそうだ。
性能の低い武器防具は必要ないから問題はない。俺たちの使っている武器防具はレベル3以上の性能だということだな。ハイランクキラーの称号のおかげで武器防具は意外と手に入るから、そちらで十分に間に合っている。
錬成を請け負う組織に関しては連絡先のみ教えられ、どこにあるのか、どういうやり取りをするのか一切教えてもらえなかったらしい。すべては自己責任でとの注意があったそうだ。
今のところこれといって必要なものもないことから、接触する必要はまだないだろう。
「あら、瑞葵さんが来たわね」
「お待たせしましたわ」
「そろったところで二つほどお知らせがあるの」
なんかもったいぶった言い方をするな、月山さん。
「八月の第一週の土曜日に、ホルダーの交流会があるそうなので参加してもらいます」
毎年、ホルダー管理対策室の各支部主催で、その各地で各組織のトップらと数名のホルダーを集めての意見交流会を開いているそうだ。それに、今回俺たちも参加するということらしい。各支部ってのは東京、島根、宮城な。
「麗華さんはクレシェンテのトップとして出てもらうのでそのつもりで」
「はぁ、仕方がないな」
「これで名実ともに静依さんに面目が立ちますわ」
静依さんって麗華の母親だよな?
そんなに麗華を表に立たせたいのか?
裏の組織だけど。
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