100.契約
「親権に関しては神薙家に任せておけば問題ないだろう。次は契約の件だ」
俺がそう言って東城兄妹に契約冊子を渡す。
内容を要約すると東城兄妹には大学卒業まではしてもらう。これは神薙家の意向だ。大卒でないと体面的に困るというものだ。まあ、仕方がないので記載した。
ホルダーになるのは十六歳、高校に入った時点とする。勇樹はもう高校生なのでこの契約が成った時点でホルダーにする。
大卒後はクレシェンテに就職。勇樹は永続、翔子は結婚などがあるので続けられる限りとなる。結婚して子どもを産んでもホルダーを続けている女性も多いらしいからな。それくらいホルダー不足なのだろう。
実際のホルダーとしての活動は大学入学後。それまでは予備ホルダーとして一人での活動は厳禁。破った場合は厳罰を与えることになる。
これは仕方がない処置だ。普通の人が持たない異能を得たことで、自分が選ばれた人間と思ってしまってもおかしくない。そうして、無謀な戦いをして命を散らすなんて、ありがちな展開が予想される。なので、そうならないように、大学に入る前に徹底的に教育とレベル上げを行うのだ。
俺がお手伝いさんの用意したケーキをパクついている間に、一字一句読み飛ばさないように厳命し確認させる。
しかし、このケーキラム酒が利いていて美味いな。これなんて言ったっけ? そうそう、サバランだ。あれ? ババオラムだっけ? まあ、どっちでもいいや。美味しいから。
「職業選択の自由はないのですね?」
「勇樹に関してはない。翔子は神薙家の養子になるから強制はできない。妹の幸せのためと思ってあきらめろ」
「わかりました。そういうことであれば異存はありません」
「お兄ちゃん……」
「いいんだ。それにこれは悪い話じゃない。職業が選べない点を除けばいい話だよ。問題ないよ」
そして、各々二冊の契約書に署名、そして二人には印鑑が無いので母印を押してもらう。
そして二人の前に六つの未登録ホルダーを出す。
「好きなのを選べ。ただし、まだ触るなよ」
勇樹はグレーの脇下ガンベルトタイプのショルダーバッグ。翔子は黄色のウエストポーチにピンクのウサギの人形付きを選んだが、翔子には本気か再度確認。一生涯それを身に着けることになるんだぞと。
悩んだ挙句、勇樹とおそろいのガンベルトタイプのショルダーバッグのストロベリーピンクを選んだ。妥当だろう。
「勇樹は触っていいぞ。翔子はその時が来たら渡す。それまではこちらで保管しておく」
ホルダーの機能は便利だが、不測の事態を招きかねない。ホルダーになるまでは触れせないほうがいいだろう。
勇樹がホルダーを身に着けると一瞬驚いた後、虚空を見つめている。
「す、凄いですね。これがホルダーなんですね……」
詳しい説明は後にして、せっかくなので
用事も済んだので、神薙家を後にしようとしたら、神薙ご当主が、
「お、おっほん。風速君、まだ話は終わっておらんよ」
なにがだ? と思ったら40cmくらいの長い袋を出してきた。
そういうことか。勝負ということだな。受けてたとうではないか。
「お父様。懲りませんですわ……。恢斗、やっておしまいなさい!」
東城兄妹は何が始まるのわからず困惑顔。
白い手袋をはめ、中身を確認。脇指だな。
まあこんなこともあろうかと懐紙も用意してある。
「拝見させていただきます」
口に懐紙を銜え、鞘から刀身を抜く。綺麗な刃文だ。
備州長船の打刀……打刀?
なんで打刀なんだ? どう見ても脇指だろうこれ? あっ、そういうことか!
刀身を鞘に戻し袋にしまう。
「備州長船忠光作。価値は百五十万です」
「ぐはっ……」
瑞葵父が心の中で血反吐を吐く姿が見える……気がする。
「見事ですわ! 十分の一の価値ですわ。今回も恢斗の勝利ですわね」
何が俺の勝利なのかわからないが、俺の勝利で勝ち点一だな。合計勝ち点三点に同点一ってところか?
「これは備州長船忠光作で間違いないですが、おそらく元の打刀が折れて脇指に作り直したものですね。ちなみに銘は入っていますか?」
「無銘だ……」
「おそらくですが、こちらが先端。銘の入った部分も脇指になっていると思われます。銘があるほうであればそれなりの価値にはなったでしょうね」
「ぐ、ぐぬぬ……」
さ、さて、か、帰ろうか。
「勇樹はこの後暇か?」
「大丈夫です」
「なら少し付き合え。
「はい!」
瑞葵はパスのようだ。もちろん翔子も。
歩きながらホルダー機能の使い方を教える。レーダーを見ながら
それと、この勇樹に
できれば、
どこにいるかな~。
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