99.東城兄妹
前から食べてみたいと思っていた、東京駅大〇の中にある森さんが作った高級カステラをお土産に買っていく。神薙家には桐箱で自分用に竹皮包みのものを買った。
いつものとおり神薙邸の裏に回り、勝手口からご挨拶。
「いらっしゃいです。恢斗さん」
なぜか翔子が対応。
「神薙家はどうだ?」
お土産を渡しながら聞いてみた。
「みなさん、良くしてくれます。ただ、すべてのスケールが違いすぎて、いつもほぇ~って感じです」
周りにいたお手伝いさんが翔子を微笑ましく見ている様子から、可愛がられているようだから問題はなさそうだな。
翔子に案内され神薙ご当主のいる部屋に移動。翔子は一旦戻るようだ。
「早速、やらかしているようだね。風速君」
「やらかしているとは人聞きの悪い。一昨日の件は既に片が付いている」
「それでは終わらんかったのだよ。総理直々に穏便に済ませてほしいとお願いの連絡があってね。最初は何を言っているのかわからなかったが、その後すぐに月山から報告があって正直眩暈がしたよ。まさか冗談とはいえ暗殺を示唆するとは……」
ははは……総理から直連絡があったんだ。
「もちろん冗談だ。やったところでこちらになんのメリットもない」
「やれるのかね?」
「やってほしい人間がいるのか?」
「……」
さすがに言えねぇよな。だが完全犯罪だ、心が動いたのは間違いない。古くからの名家だけに敵は多いだろう。
そうこうしていると瑞葵が顔を出した。
「恢斗、ご苦労様でした。昨日の件は月山さんから聞いているわ。いつからクレシェンテは必殺仕事人になったんだ! って。ぷぷっ」
必殺仕事人ってのが月山さんらしいな。
「言っとくが、その仕事人の中には瑞葵も入っているんだからな」
「……笑えない冗談ですわ」
いや、笑え! オーホホホホ! って口元に手の甲を当て悪役令嬢如く、高らかに笑いやがれ! 間違いなく似合うぞ!
「何か変なこと考えてませんこと?」
「別に……」
お前は妖怪
「お待たせしまして、申し訳ありません」
「構わない。そこに座りたまえ」
勇樹は翔子と違ってまだこの家に慣れていないようだな。神薙ご当主に対してだいぶ緊張している感じを受ける。
「麗華は?」
「お姉さまは用事があるそうで、来れないと連絡がありましたわ」
それじゃあ、仕方がないな。
「君たち二人の母親が見つかった」
「「はい……」」
水商売の時に知り合って恋人になった男と同棲しているそうだ。男のほうは勇樹たちを引き取ってもいいと言っているらしいが、母のほうが疲れた……としか話さないそうだ。
女手一つで育ててきたので、疲れたという気持ちはわからなくもない。だが、自分の子どもを捨てていいということにはならない。
「そこで、弁護士を通して君たちの母親に親権を放棄するように頼んでいる。しかしだ、最後にそれを決めるのは母親ではなく、君たちだと私は考えている」
二人は複雑な心境だろうな。決して母親を嫌いでも、恨んでいるわけではないだろう。一時の気の迷い……と思いたかったかもしれない。
「母が親権を放棄した場合どうなるのでしょうか?」
「別に会えなくなるわけではない。会いたいなら会うことは可能だ。それに親権に関しては二十歳までだからな、その後は自由にしていい」
「会えるのですか?」
「今回の場合は君たちの母親次第だろう」
母親のほうが会いたくないって感じなのだろう。自分の意志で捨てたから会い難いというのもあるか。まあ、そこら辺は時が解決するかもしれない。
「私たちはどうなるのでしょうか?」
「勇樹は男子であるから、そのまま東城姓のままで神薙家で保護する形を取る。翔子に関しては年齢的なことも考え、神薙家の養子とし神薙の姓を名乗らせる」
「勇樹は男ですから、神薙家に庇護されているということで問題はおきませんわ。ですが、翔子は女、世間体的にも庇護だけでは辛い思いをしますわ。そのために神薙家の姓にしますの」
要するに、二人は世間体的に神薙ご当主の隠し子みたいに見られるわけだ。男の勇樹ならそれに耐えられるが、女の翔子では最初からその立場にいれば違っただろうが、これからそういう立場になるから辛すぎるだろう。女って怖ぇからな。
迷うことなんてないと思うが。まあ、俺が口出しすることではない。二人が考えて決めることだ。
「わかりました。それでお願いします。翔子もそれでいいな」
「はい……」
「そうか。これで肩の荷も下りた。それで弁護士には進めさせよう。そうそう、翔子はこれから私のことはパパと呼びなさい」
「パパ?」
「うむ。いい響きだ」
神薙ご当主は子どもにパパと呼んでほしかったのか? 瑞葵をチラ見すると、
「お祖母様が大変厳しい方で、小さい頃からそういう呼び方は許されなかったのですわ」
な、なるほどな。今はいいのか?
まあ、それはさておき、
「おっほん。母親のほうはそれでいいでしょうが、父親のほうはどうなんだ? どちらかというと、父親のほうが危険だと思うが」
「そちらはまだ調査中だ。生きているか死んでいるかわからないが、名前がわかっている以上探し出せると言っていた」
相当優秀な探偵を雇っているみたいだな。
まあこれで、東城兄妹は安泰だろう。
さて、となると次は契約の件だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます